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悪役令嬢の罪状を書けと命じられましたが、王宮記録官の原本には殿下の命令も妹の嘘もすべて記録されています  作者: ハッピーミラクルエンジョイ


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私の署名がない返答を、私の命令にはできません

「私の名で、誰が返答するつもりだったのですか」


 問いを向けると、商会の出納係は受付簿を自分の側へ引き寄せた。


「それは、申請を持参した使者の言葉です。レティシア様ご本人からは、何も受け取っておりません」


 広間が静かになった。


 私の名前は書かれている。けれど、それは私の返答ではない。


 誰かが私の名を口にした記録だった。


「使者を覚えていますか」


「王太子府の通行証を示したことは。顔を見れば分かるかもしれませんが、今ここで誰かを指すことはできません」


 法務卿は、その留保まで書き取らせた。


 私たちが欲しい答えに、証人を合わせてはいけない。


 王太子が身を乗り出す。


「ほら見ろ。私の使者だったという証拠もない」


「おっしゃるとおりです。通行証の提示だけでは、命じた方は確定しません」


 私は受付簿の次の行へ指を移した。


「ですから、返答が届いたかを確かめます」


「翌日に、一通届いております」


 出納係が答えた。


「その手紙は、保管されていますか」


「申請に付けてあります。昨日の調査員に、封筒ごとお渡ししました」


 調査員が保全目録を開いた。受付番号に対応する封筒は、運び込まれた書類箱の中にある。私が探しに行く必要はなかった。


 法務卿が封を開き、卓上へ置いた。


 私の名で出された返答には、署名がなかった。


     ◇


『照合を完了した。番号は原申請のまま処理してよい。王宮記録官レティシア』


 私は声に出して読んだ。


 最後の名前まで、本文と同じ筆で書かれている。


「これは私が書いたものではありません。ただし、私が否定しただけでは証拠になりません」


 以前の私は、違うと言えば誰かが聞いてくれると思っていた。


 今は、違いを確かめられる形で残す。


「商会では、この返答をどう扱いましたか」


「受領しましたが、手続きは進めておりません」


「なぜです」


「番号の誤りは、確認したとの返答では直りません。正しい番号を示すか、名義人の相続管理者による確認書が必要です。それを求めました」


 私は顔を上げた。


 この商会は、王宮の名を見て従ったわけではない。


 条件が足りなければ、足りないと返したのだ。


「その返書の控えもありますか」


「はい。同じ受付番号で綴じてあります」


 神殿記録官が頁を繰った。


 返書は王太子府宛て。処理できない理由と、必要な書類が列挙されていた。


 私はマルセルの帳簿の日付を見た。


 商会が訂正を求めた、その翌日。


 送金済みという一行は、その日に記入されていた。


「あなたが書いたのですか」


 法務卿がマルセルへ尋ねる。


「……私です」


「完了を示す書類は、何を確認した」


 答えはすぐには出なかった。


 王太子はマルセルを見ている。


 助けるためではない。余計なことを話すなと、視線だけで命じているように見えた。


 けれど、その意味まで私は記録しない。


 記録するのは、次に彼が話す言葉だ。


「確認していません。未処理のままなら、残高が合わなくなる。帳簿を閉じられないと、殿下に叱責されました」


「叱責を受けたことと、虚偽を記入したことは別だ」


 法務卿の声が厳しくなる。


「お前には、未処理と書く選択があった」


 マルセルは俯いた。


「はい。自分が不備を出したと思われたくありませんでした」


 責任を分けることは、誰かを免罪することではない。


 殿下の命令があったなら、それを調べる。


 マルセルが自分で選んだ虚偽も、消さない。


     ◇


 法務卿は、送金済みの記載を事実として扱わないよう命じた。修正前の頁は保存し、訂正の理由と審理日を添える。


 古い嘘を削れば、嘘があったことまで失われる。


 私は記録係へ、その一行を読み上げた。


 続いて陛下が、王太子府から商会へ送られた返書の発行記録を保全するよう命じる。


「私の返答に見せた文書が、府のどこから出たのか。これから確認できます」


 審理が休止されると、シリウス様が私を廊下へ迎えた。


「自分の筆跡ではないと言えば、もっと早かった」


「それでは、次に私の筆跡を真似られたら困ります」


 彼は小さく笑った。


「あなたがそこにいなくても、勝手にあなたの仕事にはできない。その手続きを残したのだな」


 私は頷いた。


 名前を取り戻すとは、大広間で私を褒めてもらうことだけではなかった。


 私が引き受けていない仕事を、引き受けていないと言えることだった。


 そのとき、法務卿の書記が廊下へ来た。


「返書の発行簿は、王太子府の封鎖時に押収されていました。該当する記録が見つかりました」


 差し出された写しに、私は目を落とした。


 差出人の欄には私の名。


 代筆者の欄は空白。


 しかし、文書の発送を承認した者の署名は残っていた。


 王太子殿下の、見慣れた署名だった。

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