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悪役令嬢の罪状を書けと命じられましたが、王宮記録官の原本には殿下の命令も妹の嘘もすべて記録されています  作者: ハッピーミラクルエンジョイ


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12/17

国王陛下の前で、改ざんされた記録を照合します

 王都へ戻った私たちを待っていたのは、歓迎の鐘ではなかった。


 城門から王宮まで、兵が二列に並んでいる。


 けれど、その槍先は私たちではなく、王太子府の紋章をつけた馬車へ向けられていた。


「国王陛下の直命により、王太子府の書庫を封鎖した」


 第三衛兵隊長が告げると、門衛たちは無言で道を開けた。


 昨日まで私を反逆者として捕らえようとしていた人々が、今日は偽の王命を守る証人になっている。


 記録とは、不思議なものだ。


 立場が変わっても、書かれた事実だけは変わらない。


     ◇


 公開審理は大広間で再開された。


 玉座には、南部から夜通し戻られた国王陛下。その右に王太子。左には王国法務卿と中央神殿の記録官が座っている。


 王太子は私を見るなり立ち上がった。


「父上、その女は王宮の原本を盗み出しました。審理を続ける資格などありません」


「盗まれた原本とは、どれだ」


 国王陛下の声は静かだった。


「救恤制度に関する記録一式です」


「ならば、まず原本の存否を確認しよう」


 陛下が指を上げると、封印された箱が運び込まれた。王宮地下書庫に保管されていた正本箱だ。


 法務卿が鍵を開ける。


 中は空だった。


 王太子が勝ち誇ったように私を指した。


「ご覧ください。レティシアが持ち出した証拠です」


「違います」


 私は北方から持ち帰った帳簿を卓上へ置いた。


「私が保全したのは、各村へ送られた受領簿と、制度創設時に作られた副本です。地下書庫の正本に触れる権限は、首席記録官と国王陛下、そして王太子殿下にしかありません」


 広間の視線が一斉に王太子へ向いた。


「言いがかりだ。鍵なら首席書記官も管理していた」


「はい。ですから照合します」


 私は三冊の記録を並べた。


 一冊目は、北方の村に残されていた受領簿。


 二冊目は、中央神殿が保管していた救恤制度の公布記録。


 三冊目は、王太子府から証拠として提出された告発状。


「同じ命令から生まれた記録には、同じ登録番号がつきます。村の受領簿と神殿記録は、救恤第百七号。王太子府の告発状には、救恤第百九号とあります」


「単なる書き間違いだ」


「第百九号は、制度創設の二日後に発行された別の命令です」


 私は神殿記録官へ合図した。


 彼が読み上げる。


「救恤第百九号。北方へ送る小麦八千袋の輸送先を、王都西倉庫へ変更する」


 ざわめきが広がった。


 八千袋は消えたのではない。


 最初から、北方へ届かないよう命じられていた。


「署名者は誰だ」


 国王陛下が問う。


 神殿記録官は一度、王太子を見た。


「当時の摂政代理、王太子殿下です」


「偽造だ!」


 王太子が卓を叩いた。


「五年前、私はまだ救恤事業を任されていない!」


「その点も記録されています」


 私は告発状の紙を灯りへ透かした。


「殿下が提出した文書には、三年前から王都の製紙院で使われ始めた透かしがあります。五年前の署名だけが偽物なのではありません。この告発状そのものが、最近作られたものです」


 法務卿が文書を受け取り、透かしを確かめた。


 続いて、偽の国王印が押された奪還命令と、第三衛兵隊長の調書が読み上げられる。


 王太子の顔から血の気が引いた。


「マルセルだ。首席書記官が勝手にやった。私は知らない」


「では、本人に確かめましょう」


 国王陛下が命じる。


「首席書記官マルセル・ゲインをここへ」


 扉が開いた。


 連れて来られたマルセルは、両手を拘束されていた。それでも王太子を見る目には、まだ助けを求める色がある。


「マルセル」


 陛下が問う。


「偽の王命を作ったのは、お前か」


「……はい」


「誰の命令だ」


 長い沈黙のあと、彼は懐から小さな封筒を取り出した。


「命令を受けた証拠は、ここにあります」


 封筒には王太子府の印章が押されていた。


 王太子が叫ぶ。


「開けるな!」


 マルセルは首を横に振った。


「殿下。私は、あなたほど記録を軽く見ておりません」


 彼は私へ封筒を差し出した。


 中にあったのは、偽造を命じた書簡ではなかった。


 王太子が八千袋の小麦を売却した代金、その送金先を記した帳簿だった。


 ただし、受取人の名は王太子ではない。


 私は最後の行を見て、息を止めた。


 そこには、五年前に亡くなったはずの人物の名が記されていた。

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