ウィーリス荘1号室にて
不動産屋から受け取った鍵を手に、彼らは再び「ウィーリス荘」の前に立っていた。ボロ屋敷然とした外観は変わらないが、彼らにとっては、この異世界での最初の拠点であり、安息の地となるはずだった。
扶情 隼は、鍵穴に鍵を差し込み、重い扉を押し開けた。
「部屋番号は、1号室か。本当に大家さん以外、誰もいないんだな……。静かすぎて、逆に不気味だぜ。」
しかし、彼らが部屋の中に入った瞬間、その静寂と不気味さは、驚きへと変わった。
外観からは想像もつかないほど、部屋は広々としていた。天井は高く、彼らの巨体でも圧迫感を感じさせない。リビングルームだけでも、彼ら五人が悠々と生活できるだけのスペースがあり、キッチンや風呂場も、古びてはいるものの、十分な広さが確保されていた。
すると、いつも冷静沈着で、感情を表に出さない凪乃 朱木が、まるで子供のように、目を輝かせた。
凪乃 朱木
「すっげー!めちゃくちゃ広いやん!リビングもキッチンも風呂も!これなら、俺たち五人でも余裕で住めるぞ!」
朱木が、その巨体を揺らしながら、キャッキャとはしゃぐ姿を見て、他の四人は唖然とする。特に、朱木に冷静さを求めることが多かった陰平 亜月は、目を丸くしていた。
陰平 亜月
「たく……こういう時だけ、お前はガキくさくなるんだから……。」
その様子に、燐乃と隼は、思わず爆笑する。この異世界に来てから、初めて心から笑えた瞬間だった。
朱木は、皆の視線に気づき、咳払いをして、いつもの平常心を取り戻そうとする。
「おっ。コホン……この広さなら、俺らでも住めそうだな。……よし、まずは、この部屋を拠点として整備しよう。」
魅羽月 瑠樹は、笑いながら、今後の計画を立てる。
「ふふっ。よかったわね、朱木。
よーし。そしたら、まずは私たちの生活に必要な家具や用品を揃えなきゃね!このままじゃ、床で寝ることになっちゃうわ。これから買いに行くわよ!」
牙 燐乃も、その意見に賛同する。
「そーだな。行くメンバーは……いや、みんなで行くか。この街の様子をもっと知っておく必要がある。」
しかし、陰平 亜月が、現実的な問題に気づく。
陰平 亜月
「……でも、家具とかって、どうやって運ぶよ。俺たちの体格に合うものを見つけるのも大変だろうし、運搬も一苦労だ。」
魅羽月 瑠樹は、少し考えた後、結論を出した。
「んー。このアパートは、栄えている場所から結構離れているから、私たちで運ぶのは無理があるわね。業者に頼むしかないわ。」
彼らは、早速、街に出て、家具や生活用品を買い揃えた。彼らの体格に合う特注品のようなものはなかったが、なんとか使えそうなものを探し出し、業者に依頼してウィーリス荘まで運んでもらった。
3時間にも及ぶ、家具の選定と搬入作業は、彼らの巨体をもってしても疲れ果てるものだった。
夜になり、ようやく部屋が片付いた。
扶情 隼は、ソファに深く沈み込み、大きく息を吐いた。
「ふー。やっと終わったなー。これで、最低限の生活はできる。パソコンもゲットしたことだし、早速、職を探そう。」
陰平 亜月は、隼の言葉に頷き、冷静に役割分担を提案する。
「そうだな。このままでは、資金が尽きてしまう。
あっ。燐乃と瑠樹は、家事をやってもらっていいか?俺たち男三人は、外で働くことになる。生活の基盤を整えるのは、君たちに任せたい。」
凪乃 朱木も、その提案に同意する。
「俺ら男3人で、この街の情報を集めながら仕事しに行くから。家のことは燐乃と瑠樹、頼んだ。」
女子二人は、その役割を快く引き受けた。
魅羽月 瑠樹
「家事のことは任せて!美味しいご飯を作って、あなたたちの帰りを待ってるわ。」
牙 燐乃
「私らにできないことはない!この家を、最高の拠点にしてやる。」
こうして、彼らの間には、新たな役割分担が生まれた。女子二人は「内政」、男子三人は「外征」という形だ。
隼は、早速、求人サイトで仕事を探し始めた。彼らの「27歳」という偽りの年齢と、規格外の体格を活かせる仕事を探す。
最終的に、彼らが選んだ職種は、以下の通りだった。
扶情 隼:「スーパーの品出し・警備」
凪乃 朱木:「レストランのスタッフ」
陰平 亜月:「コンビニアルバイト」
隼は、自分の職種を見て、思わず笑みがこぼれた。
扶情 隼
「品出しと警備か。この体格がまさか役に立つとはな。力仕事なら誰にも負けねぇ。」
朱木もまた、レストランという、人と接する機会の多い仕事を選んだことに、内心で気を引き締めていた。この街の「暗さ」の根源を探るには、人々の生活に深く入り込む必要があると感じていたからだ。一方、亜月は、コンビニという最も身近な場所から、この世界の日常を観察しようと考えていた。
偽りの年齢と身分で社会に飛び込むことへの不安はあったが、それ以上に、この街の真実を知りたいという探究心が彼らを突き動かしていた。
瑠樹は、そんな男たちの決意を静かに見つめながら、昼間の店員の言葉を反芻していた。「殺されますので」。その冷たい響きは、彼らがこれから足を踏み入れる社会が、どれほど危険に満ちているかを物語っていた。
魅羽月 瑠樹
「みんな、無理はしないでね。何かあったら、すぐにこの『家』に戻ってくるのよ。」
燐乃も力強く頷いた。
牙 燐乃
「大丈夫だ、瑠樹。私たちは五人一緒だ。それに、私たちはただの『中学一年生』じゃない。この世界で生き抜く術を、必ず見つけてやる。」
彼らは、偽りの年齢を使い、中学一年生でありながら、この異世界で社会経験を積むことになった。
この後の夜ご飯はまたみんなでレストランへ行くことになった…




