偽る中学1年生
歓楽街の喧騒を後にし、彼ら五人は、街の中心部から少し離れた、静かな住宅街へと足を踏み入れた。目指すは、彼らの新たな拠点となるアパート「ウィーリス荘」だ。
古びた地図を頼りにたどり着いたその場所は、まさに「飛んだボロ屋敷」という表現がぴったりだった。木造二階建ての建物は、全体が煤けており、壁のペンキは剥がれ落ち、窓ガラスのいくつかは割れたまま、ベニヤ板で塞がれている。屋根瓦もまばらで、今にも崩れ落ちそうな雰囲気を醸し出していた。
牙 燐乃は、その光景に思わず顔をしかめた。
「あ?飛んだボロ屋敷だなおい……。こんなところで生活していくのか……。あの150万で、もっとマシなところはなかったのか?」
魅羽月 瑠樹は、ため息をつきながらも、現実を受け入れる。
「まぁ、仕方ないわ。この街の不動産屋で、私たち五人が住めて、しかも即入居できる場所なんて、そうそうないでしょう。とりあえず、中へ入りましょう。」
彼らが、その古びた玄関に手をかけようとした、その時だった。
凪乃 朱木が、深刻そうな表情で、皆を制した。
「おい!みんな待て。」
朱木は、顔を伏せ、その巨体をさらに低くかがませる。その真剣な様子に、他の四人は一瞬で緊張に包まれた。
陰平 亜月
扶情 隼
「どうした朱木!?なんかあったのか……ヤクザか!?それともスペスの刺客か!?」
隼は、先ほどの遭遇を思い出し、反射的に戦闘態勢に入ろうとする。他の四人も、心臓がドキドキと高鳴るのを感じた。
朱木は、ゆっくりと顔を上げ、真剣な眼差しで、彼ら一人一人を見つめた後、静かに、そして重々しく言葉を紡いだ。
凪乃 朱木
「…………アパートに入る前に、まずは不動産屋へ行って、手続きしないとダメじゃないのか?」
一瞬の沈黙。そして、緊張の糸がプツンと切れる音がした。
扶情 隼は、力が抜け、その場に崩れ落ちそうになる。
「まぁ、そうだな……。なんだそれだけかよ!焦ったじゃねぇか……。もっと重大なことかと思ったぜ。」
他のメンバーも、安堵と脱力感から、思わず笑い出す。彼らの旅は、常に緊張と緩和の繰り返しだった。
彼らは、再び街の中心部へと戻り、先ほど目星をつけていた不動産屋へと向かった。
不動産屋の店内は、薄暗く、カウンターの向こうには、やはり表情の暗い店員が一人座っていた。
店員は、彼らの巨体を見て、一瞬、目を丸くしたが、すぐに営業用の笑顔を貼り付けた。
店員
「君たち、随分でかいねぇ。いらっしゃい。」
凪乃 朱木は、その言葉に慣れているように、軽く笑って返す。
「よく言われます(笑)。えと……ここのちょっと遠くにある「ウィーリス荘」ってとこに住みたいんですよね。」
その言葉に、店員の表情が、わずかに明るくなった。
店員
「お!君たちセンスいいねぇ。
あそこのアパートは、見た目はボロ屋敷って理由で誰も住まないけど、部屋はとても広く、何より家賃が安いんだよ。君たちみたいに体の大きな人には、うってつけだ。」
彼らと話しているうちに、店員は、この街の住人には珍しく、少しずつ元気を取り戻しているように見えた。彼らの規格外の存在が、この街の沈滞した空気に、わずかな波紋を広げているかのようだった。
店員
「よし、話は早い。ちょっと俺、裏の方に行くから、ここに入居申込書を書いてもらえる?代表者一人で大丈夫だよ。」
店員は、そう言って、奥の部屋へと消えていった。
彼らは、近くにある小さなテーブルで、入居申込書を書き始めた。代表者は、最も冷静な牙 燐乃が務めることになった。
牙 燐乃は、ペンを握りしめ、用紙と睨めっこする。
「えーと、氏名は、「牙 燐乃」と……。
……勤務先?勤務先んとこ、なんて書けばいい?」
彼らはまだ中学生であり、当然、勤務先などない。
凪乃 朱木は、すぐに機転を利かせた。
「んー。適当に、『まだどこにも勤務していない』でいいんじゃないか?どうせ、この世界の人間じゃないんだ。適当でいいだろ。」
燐乃は、その指示に従い、年齢欄には、彼らの体格に見合った「27歳」と記入した。
しばらくして、店員が戻ってきた。
店員
「書けました?どれどれ見てみるか……」
店員は、申込書を手に取り、内容を確認する。
店員
「氏名「牙 燐乃」、勤務はまだしてないと。……ふむふむ。年齢は27歳。君たち、27歳だったんだー。結構若いねぇ。」
彼らの体格からすれば、27歳という年齢は、むしろ若すぎるくらいだった。
その時、扶情 隼が、緊張感のない声で、口を滑らせた。
扶情 隼
「え?俺たち13歳の中1っすよ。」
ガッ!
隣にいた陰平 亜月が、反射的に隼の口を手で押さえた。
陰平 亜月
(お前っバカ!成人越してないやつが、アパートになんか住めるわけないだろ!この世界で未成年だけでアパート住むなんて、許可されるわけがない!)
亜月は、顔を引きつらせながら、必死にフォローを入れる。
凪乃 朱木
「えー?何言ってんのー?俺たちは成人超えてる27歳ですよー!こいつ、冗談が好きなんで!」
店員は、一瞬、怪訝な顔をしたが、すぐに隼たちの規格外の体格を見て、納得したように首を振った。
店員
「13歳!?……まー、13歳がこんな身長高いわけねぇか。冗談はよしてくれよ。
そしたら、この資料のまま、ウィーリス荘に送っときますわ。鍵はこれね。」
彼ら五人組は、安堵の息をついた。最初の難関は、なんとか切り抜けたようだ。
魅羽月 瑠樹は、隼を睨みつけながら、鍵を受け取る。
「なんとかなったわね……。もう、余計なこと言わないで。
よし。このままウィーリス荘へと行きましょう。」
彼らは、不動産屋を後にし、再びウィーリス荘へと向かう。
陰平 亜月は、歩きながら、今後の計画を立て始めた。
「俺たちもなんか働くか。この街で生活していくためにも、資金は必要だ。それに、あの店員さんの話だけじゃ、この街の事情はわからない。潜入して、もっと事情聴取しなければいけない。」
扶情 隼は、少し不満そうだ。
「えー働くのかー。ちょっとめんどくせぇな……。俺は、世界を救うって言われたから来たのに。」
凪乃 朱木は、隼の背中を叩き、前向きな姿勢を見せる。
「文句言うなよ。働くのも、世界を救うためだ。アパートに着いたら、5人分の職を探すとしよう。」
こうして彼らは、ボロアパート「ウィーリス荘」へと到着した。




