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Dum Spiro Spero〜この教室33人は息をしている限り希望を捨てない〜  作者: AmorNoctis-アモールノクティス-


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沈黙のレストラン

in 北京都ほくきょうと

まるで年代が違うノスタルジック、レトロな雰囲気を感じる日本のような都市。

人口は800万人ほど。

古びた都市〜北京都ほくきょうと


彼らが足を踏み入れた街は、まるで時間が止まったかのような、ノスタルジックな空気に満ちていた。路面電車が軋む音、古びた映画館の看板、そして、どこからか流れてくる歌謡曲。


凪乃なきの 朱木あかぎは、その光景に目を輝かせた。

「うわー、すごいな……。本当にタイムスリップしたみたいだ。映画でしか見たことない景色だな。」


しかし、その感嘆も、現実的な問題の前には霞んでしまう。


扶情ふじょう しゅんが、腹の音と共に、切実な声を上げた。

「それなー。グルル……。それにしても腹すいちまった……。昼まで入学式だったから、給食食ってないんだよなー。」

彼の腹の音は、その巨体に似合わず、妙に可愛らしい響きだったが、空腹は深刻な問題だった。


さいとり 燐乃りんのは、周囲の建物を観察しながら、実用的な提案をする。

「そうだな。まずは腹ごしらえが先決だ。この世界で活動するためにも、エネルギー補給は必須だろう。ここら辺でどこか飯でも食いに行くか!」


その言葉に、魅羽月みはづき 瑠樹るいが、少し先の角を指差した。

「そうしましょう!んー。あっ!あそことか良いんじゃない?レストランがあるわ。」

彼女が指差した先には、煉瓦造りのレトロな洋食屋があり、ガラス窓には「レストラン・エトワール」と、古風な文字で書かれていた。


全員が賛成し、その洋食屋の重い木製の扉を開けて中へと入った。


しかし、店内に足を踏み入れた瞬間、彼らは異様な空気に包まれた。

店内の照明は薄暗く、テーブル席に座るお客さんも、忙しく立ち働く店員さんも、その表情はほぼ全員が暗い。笑顔一つなく、皆が皆、何か重いものを背負っているかのように、うつむき加減で食事をしていたり、無言で皿を運んでいたりする。それはまるで、葬式場のような、重苦しい雰囲気が充満していた。


入り口近くにいた、小柄な女性の店員が、気だるげな声で彼らを迎えようとした。しかし、彼女が顔を上げ、彼ら五人の姿を視界に捉えた瞬間、その根暗な感じは一瞬で吹き飛び、驚愕に目を見開いた。


店員さん

「いらっしゃいませ……て、えええぇぇぇ!あなたたち、身長高すぎだし、デカすぎー!」


彼女の叫び声は、店内の重苦しい静寂を打ち破り、数人のお客さんが顔を上げて彼らの方を見たが、すぐにまたうつむいてしまった。


無理もない。彼らは、この世界、そして彼らが元いた世界においても、人間の域を遥かに超えた体格をしていたからだ。


扶情ふじょう しゅん:身長318cm。この年で鍛え上げられたゴリマッチョな体躯は、その存在だけで壁のようだ。生活する上で、常に頭をぶつけないか気を遣う必要があるほど、その巨体は不便極まりない。


陰平かげひら 亜月あつき:身長246cm。隼ほどではないが、その長身は圧倒的だ。


• 凪乃 朱木なきのあかぎ:身長244cm。彼もまた、規格外の長身である。


彼ら三人の男子は、この時代の日本の中学1年生の男性平均身長(約155cm)を、ゆうに1メートル近くも上回っていた。


女子も例外ではない。


さいとり 燐乃りんの:身長228cm。

• 魅羽月 (みはづき るい)瑠樹:身長192cm。


彼女たちも、中学1年生の女性でありながら、この時代の成人男性の平均身長(約170cm)を大幅に超える、まさに「化け物」と呼べるほどの体格だった。


店員さんは、彼らと比べると、まるで子供のように小柄な女性だった。彼女の視線は、彼らの胸元あたりにしか届かず、見上げる首が痛そうに見えた。


店員さん

「ご、5名様ですね。少々お待ちください……」

彼女は、驚きで声が上ずりながらも、かろうじて接客の言葉を絞り出した。


陰平 亜月は、周囲の視線を感じながら、落ち着いた声で応じる。

「わかりました。……しかし、お客さんも店員さんも、ほぼ全員表情が暗い感じがするよな。まるで、この街全体が、何かを諦めているみたいだ。」


扶情 隼は、その暗い雰囲気を一蹴するように、楽観的な解釈を口にした。

「だな。この時代ってのもあるし、みんな仕事に疲れているのだろう。景気が悪いとか、そういうやつだろ。」


彼らは、店の玄関口にある、小さな椅子に座って待つこと10分。その間も、彼らの巨体は、店の雰囲気にそぐわない異物感を放ち続けていた。


店員さんが、息を切らしながら戻ってきた。

「お待たせしました。奥の……席が広いVIP席へとご案内します。」

彼女は、彼らの体格を考慮し、最も広々とした席を用意してくれたようだ。


彼らは、店員さんに続いて、店の奥へと進む。薄暗い店内を、彼らの巨体が通り過ぎるたびに、客席から微かなざわめきが起こった。


VIP席に着くと、店員さんはメニューを差し出した。

店員さん

「メニューはこちらにあります。決まりましたら、このボタンを押して下さい。……ところで。」


彼女は、意を決したように、彼らに尋ねた。

店員さん

「あなたたちは、とても若い雰囲気を感じるけど、一体いくつなんですか?」


扶情 隼は、屈託のない笑顔で答えた。

「俺らまだ中1っすよ。こう見えて(笑)」


その言葉は、店員さんにとって、さらなる衝撃だった。

店員さん

「中、中1!?……何もかもがありえない……すごすぎる……。では、失礼します...」

彼女は、それ以上言葉を続けることができず、まるで逃げるようにその場を後にした。


魅羽月 瑠樹は、肩をすくめて、苦笑いを浮かべる。

「また人を驚かせてしまったわね。まぁ、私たちだから仕方ないわ。この体格じゃ、どこへ行っても目立ってしまうもの。」


こうして、彼らは、この異世界での最初の食事を前に、メニューを開いた。

メニューを開いた陰平 亜月が、まず驚きの声を上げた。

「メニューの量、多いなー。しかも、安すぎないか?このラーメンなんて、たったの400円だぞ……。」


凪乃 朱木も、隣のページを指差しながら同意する。

「本当だな。このチャーハンなんて、400円を切ってる。やっぱこの時代だから、物価高とかないのか?」


彼らが元いた世界の物価からすれば、信じられないほどの安さだった。


その事実に、牙 燐乃と扶情 隼の二人は、目を輝かせた。

牙 燐乃、扶情 隼

「てことは、食い放題じゃねぇか!みんなでいっぱい食うぞー!」

特に隼は、その巨体を維持するため、人一倍の食欲を持っていた。


魅羽月 瑠樹は、そんな彼らを微笑ましく見ながらも、釘を刺す。

「安すぎても、食べすぎないでね!せっかくもらったお金、無駄遣いしちゃだめよ。」


結局、彼らはその巨体に見合った量の料理を注文した。


しばらくして、注文の品が運ばれてくる。

「失礼します。こちらがオムライスですね……」

先ほどの小柄な店員さんが、彼らのテーブルに料理を並べていく。


凪乃 朱木は、オムライスを受け取りながら、意を決して、尋ねた。

「ありがとうございます。ところで店員さん、ちょっと良いですか?

さっきから気になっていたんですけど、お客さんとか、店員さんとか、ちょっと皆表情が暗めに感じるんですけど、一体何があったんですか?」


朱木の問いかけに、店員さんは一瞬、顔を伏せた。その表情は、先ほどの驚きとは違い、深い憂いを帯びていた。彼女は、周囲に誰もいないことを確認するようにちらりと視線を巡らせてから、小さな声で話し始めた。


店員さん

「あなたたち、本当に知らないのですか?

まぁ、簡潔に言うと、今のこの街で一番偉い人が、この街を支配しているかのように、国民の規制をとっても厳しくしているの。

詳しくは、あまり言わないでおくわ。……私たちも、話すのが怖いから。」


彼女の言葉は、この街の沈黙と暗さの理由を明確に示していた。それは、単なる不景気や仕事の疲れなどではなく、政治的な抑圧によるものだった。


凪乃 朱木は、オムライスを一口食べ、その味を噛みしめながら、店員さんの苦労を慮った。

「なるほど……。大変なんですね。まぁ、こんな中でも仕事頑張って下さい。」


朱木の素直な応援の言葉に、店員さんは、一瞬だけ、微かな笑みを浮かべた。しかし、その笑みはすぐに消え、彼女は、まるで呪文のように、恐ろしい言葉を口にした。


店員さん

「ありがとうございます。でも、下手したらその偉い人から...


「殺されますので」。」



その言葉は、彼らの耳に、氷のように冷たく響いた。

彼女は、それ以上何も言わず、意味深な言葉だけを残して、部屋を出て行った。


VIP席に残された五人の間に、重い沈黙が落ちる。


凪乃 朱木は、フォークを皿に置き、静かに呟いた。

「どうりでか。でも、殺されるって……よっぽど規制が厳しいんだな。ただの仕事の不手際で、そんなことありえるのか?」


魅羽月 瑠樹は、グラスに残った水を飲み干し、真剣な眼差しで言った。

「そうね。この街は、私たちが最初に感じた「暗さ」だけじゃなく、もっと根深い何かに支配されている。スペスが言っていた「心の崩れ」が、まさにこれなのかもしれないわ。」


彼らは、それ以上の会話を交わすことなく、黙食した。安くて美味しいはずの料理も、店員さんの残した「殺されますので」という言葉のせいで、その味が半減したように感じられた。


食後、彼らは静かに席を立ち、お会計を済ませた。店員さんは、彼らの巨額の支払いに再び驚きを隠せない様子だったが、何も尋ねることはなかった。


重い扉を開け、レストラン・エトワールを出た彼らの目に映るのは、先ほどと変わらない、どこか懐かしく、そしてどこか悲しい、昭和の街並みだった。

「殺されますので」という言葉は、彼らの心に深く突き刺さり、街の景色を一変させていた。

先ほどまで感じていたノスタルジーは消え失せ、代わりに、張り詰めた緊張感が街全体を覆っているように感じられた。

道行く人々の表情は、やはり一様に硬く、誰もが誰かに監視されているかのように、足早に通り過ぎていく。

彼らは、自分たちが踏み入れた世界の厳しさを改めて認識した。

この街の安すぎる物価は、自由と引き換えに手に入れた、抑圧の象徴なのかもしれない。

彼らは、まず今夜の宿を探すため、重い足取りで歩き出した。

彼らの旅は、この最初の食事で、この世界の闇の片鱗に触れてしまった。

これから、彼らはこの街で、何を「見つけ」、何を「取り戻す」ことになるのだろうか。

彼らの胸には、150万円の現金と、「殺される」という言葉の重みが、ずっしりと残っていた。

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