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Dum Spiro Spero〜この教室33人は息をしている限り希望を捨てない〜  作者: AmorNoctis-アモールノクティス-


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静謐の正義 vs 魅惑の麗人

笑嵐廻の能力によって、魅羽月瑠樹たちと死刻の五柱は、この街のあちこちに散らされた。光が収束し、瑠樹が足元に着地した時、全身に鈍い衝撃が走った。湿った土の感触と、鼻腔をくすぐるカビと埃の匂い。目を開けると、そこは深い霧に包まれた場所だった。


「ここは…古びた、旅館?のようね」


視界は悪く、輪郭がぼやけているが、かろうじて朽ちた木造建築の影が、かつて旅館であったことを示唆していた。風が吹き抜けるたびに、障子の破れた音が幽霊の呻きのように響く。瑠樹は、かすむ視界の向こうに、見慣れた北京都の街並みが遠くに見えることに気づいた。


「ここはきっと北京都から離れた山奥ね…」


その時、目の前の濃い霧が、まるで意思を持ったかのようにゆっくりと晴れていった。霧の向こうから現れたのは、一人の女性。その姿は、瑠樹の記憶に鮮明に残っていた。

死刻の五柱の一人、一条璃姫いちじょう りき


一条璃姫は、古びた旅館の入り口に立つ瑠樹を、冷たい視線で見つめていた。その表情には、一切の感情が読み取れない。ただ、どこか懐かしむような、遠い目をして呟いた。


「よくここが山奥の廃旅館だってわかったわね。懐かしいわ。ここの旅館」


瑠樹は、璃姫の言葉に微かに眉をひそめた。この場所が、彼女にとって何か特別な意味を持つのか。しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。目の前の敵は、この街の人々を無差別に傷つける存在。彼女の心には、強い怒りが燃え上がっていた。


「…あなたが噂の『一条璃姫』ね。そして戦場は山奥の廃旅館。この街の人々を無差別に殺すような人は、私は許さない。必ず勝ってみせる。」


瑠樹の言葉に、璃姫は嘲笑うかのように口元を歪めた。


「なぜ私が死刻の五柱になったのか知らないくせによくそんな威勢のいいことを言えるのね。あなたの死に場所は残念ながらこの旅館よ。いつまで生き残れるか楽しみねぇ。よろしく頼むわ」


その言葉には、瑠樹の正義感を嘲笑うかのような響きがあった。しかし、瑠樹は怯まない。彼女は、璃姫の言葉の裏に隠された真実を探ろうとした。


「…なぜあなたは死刻の五柱になってこの街を支配するかのように人々を銃殺しているの?みんな辛い思いをしているのよ。どうして…」


瑠樹の問いに、璃姫は一瞬、遠い目をした。そして、まるで過去の出来事を語り聞かせるかのように、静かに話し始めた。


「…まず、この街で起こった最大の悲劇、『北京都大通り襲撃事件』をご存知?」


その言葉に、瑠樹の背筋に冷たいものが走った。北京都大通り襲撃事件。その響きだけで、何か恐ろしい出来事が起こったことを予感させた。瑠樹は、ごくりと唾を飲み込んだ。


「わからないわ。けど、聞く感じなんとなく…」


璃姫は、瑠樹の動揺を愉しむかのように、さらに言葉を続けた。


「この出来事はね、結構最近起こった事件なのよ。それは二年前、お頭の桜木亙によって起こされた。私も近くで見ていた」


二年前。桜木亙。瑠樹の脳裏に、死刻の五柱のお頭の顔が浮かんだ。あの男が、この街で最大の悲劇を引き起こしたというのか。璃姫の言葉は、まるで映画のワンシーンのように、瑠樹の心に鮮明な映像を映し出した。


「二年前の北京都の大通り、その日も相変わらずこの街は平和だった。時は夕方、その時が訪れた。突然老人が悲鳴をあげた。もちろんそこにいた人々は悲鳴の上がった方へと向く。なんとそこには、高校生ほどのカップルが血を流れたまま倒れ込んでいた。その高校生の後ろに立っていたのは、今の死刻の五柱のお頭となる存在、桜木亙だった。彼は右手をドリルに変形させたままこう言った。

『これからは、俺のやり方で生きていく。この街ごと「支配」してやるさ。』

近くにいた人々はその光景を見て、悲鳴を上げながらその場を逃げていった。けれど唯一、逃げなかった四人がいた。その四人は、今の死刻の五柱となる、

『水無瀬朧真』『笑嵐廻』『赤神轟子』そして私だった。そこで五人とも運命を感じたのよ。この人たちならやっていける、と。そこから繋がって今の死刻の五柱が生まれたのよ。皆辛い過去を持ってこの街を恨むようになった」


璃姫の語る言葉は、瑠樹の心に重くのしかかった。桜木亙の狂気、そしてその場に居合わせた四人の人間が、その光景を見て「運命」を感じたという事実。彼らは、この街への恨みを共有し、死刻の五柱を結成した。瑠樹は、その歪んだ絆に戦慄した。


「なるほどね。この街に恨みを持ってたという共通点があった五人が偶然集まってできたってことね。そして、辛い過去がってことは、あなたにもそんな過去があったってことでしょ?一体どんな過去を歩んで人々を恨むようになったの…」


瑠樹の問いに、璃姫は再び冷たい視線を向けた。


「私の過去のことなんてあなたに知る余地もない。忘れられないわ、あんなことは…」


璃姫の言葉の奥には、深い悲しみと、拭い去ることのできない憎しみが隠されているように感じられた。瑠樹には伝わっていないが、ここから一条璃姫の過去の回想シーンが始まる。彼女を死刻の五柱へと駆り立てた、悲劇の物語が今、幕を開けようとしていた。

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