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Dum Spiro Spero〜この教室33人は息をしている限り希望を捨てない〜  作者: AmorNoctis-アモールノクティス-


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「正義」とは

【鋼鉄ノ暴君:アイアン・タイラント】

桜木 亙が所持するソウルエンデム。

身体中が鋼鉄のようになっている機械人間。

主な武器は、右手には「穿鉄刀せんてつとう」と呼ばれるドリル式の武器。

左手には「エーリー・デレ」と呼ばれる4本足のアーム式の武器。

これら以外にも様々な武器が搭載されている。

桜木亙は、生まれながらにして、その体躯が周囲とは一線を画していた。身長も体重も、同年代の子供たちとは桁違い。それは、彼が幼い頃から抱え続けた、孤独の象徴でもあった。


彼の家庭環境は劣悪だった。毎晩のように両親は激しい口論を繰り返し、やがてそれは殴り合いへと発展した。幼い亙は、その暴力の嵐の中で、ただ怯えることしかできなかった。


七歳の冬、凍えるような夜だった。いつものようにリビングから聞こえる怒声と物が壊れる音に、亙は震える足で駆け寄った。「…ちょっと!二人とも喧嘩は止めようよ!もうこれ以上喧嘩しないで!」小さな体で、必死に両親の間に入ろうとする亙。しかし、その声は、狂気に満ちた両親には届かなかった。


「うるせぇこのクソガキが!邪魔なんだよ!」母親の甲高い声が、亙の耳を劈いた。そして、父親の拳が、理不尽にも亙の頬を打ち据えた。「お前みたいな碌に友達もできねぇゴミが喋りかけるな!」


痛みよりも、その言葉が亙の心を深く抉った。彼は昔から、コミュニケーションが苦手で、友達が一人もいなかった。その巨体と、感情をあまり表に出さない無表情さから、クラスメイトからは「感情のない無駄にでかい男」と陰口を叩かれていた。家庭での暴力と、学校での孤立。亙の幼少期は、絶望と孤独に彩られていた。


毎日が鬱屈とした気分に苛まれながらも、亙は小学校、中学校、高校と、休むことなく学校に通い続けた。それは、もしかしたら、どこかに希望があるのではないかという、微かな期待だったのかもしれない。しかし、彼が見るものは、いつも楽しそうに笑い合う同級生たちの姿ばかり。その光景を見るたびに、彼の心には黒い感情が渦巻き、拳が震えた。衝動的に、その笑顔を打ち砕いてやりたい。そんな暴力的な感情が、何度も彼の内側から湧き上がった。だが、亙は常にそれを押し殺し、耐え続けた。自分は彼らとは違う。まともな人間でいなければならない。そう、自分に言い聞かせて。


しかし、その我慢の限界は、唐突に訪れた。


高校三年生の夏。蝉時雨が降り注ぐ、うだるような暑さの日だった。下校途中、いつものように楽しげに談笑する生徒たちの声が、鉛のように亙の心にのしかかった。もう、耐えられなかった。彼は、人通りの少ない路地裏で、膝から崩れ落ちた。アスファルトに顔を埋め、声にならない嗚咽を漏らす。


「…なんで俺はこんなにも人生上手くいかないんだよ!こんなに我慢してるのに…辛い…誰か助けて…なぜ周りの生徒たちはあんなに毎日楽しそうにしてるんだ…!」彼の心からの叫びは、誰にも届くことなく、夏の空に吸い込まれていった。


その時、背後から、わざとらしいひそひそ声が聞こえてきた。別のクラスの男女のカップルだった。彼らは、亙に聞こえるように、嘲笑を込めて話していた。


「こいつって感情のない無駄にでかい男って周りから言われてるよな笑 2組だっけ?怖いわー笑」カップルの男が、下卑た笑い声を上げる。


「なんでこいつ道端で泣いてるの?気持ちわる笑 こいつ邪魔だから別な場所行こ」カップルの女が、心底嫌悪感を露わにする。


その言葉が、亙の頭の中で、何かがプツンと切れる音を立てた。長年積み重ねてきた我慢の糸が、ついに切れたのだ。彼はゆっくりと立ち上がった。その巨体が、夕日に長く影を落とす。握りしめた拳が、軋むような音を立てて変形していく。皮膚が剥がれ落ち、肉が盛り上がり、骨が捻じ曲がる。それは、金属でできたドリルのような、禍々しい形へと変わっていった。


カップルの男は、その異様な光景に顔を青ざめさせた。「…嘘だろ…待て!?こっちへ来る!」恐怖に引きつった声で叫ぶ。


カップルの女は、腰を抜かしてその場に座り込んだ。「ひっ、ご、ごめんなさい!」震える声で謝罪の言葉を口にするが、もう遅かった。


桜木亙は、精一杯の力を込めて、そのドリルをカップルに向けて突き刺した。鈍い音と共に、二人の体は容易く貫かれた。周囲にいた高校生たちが、その光景を目にし、悲鳴を上げた。


「きゃー!ちょっと、誰か先生を呼んで!」

「桜木があの男女を…うそ…」

「おい!警察!警察を呼べ!」


騒然とする周囲の喧騒が、亙の耳には届かない。彼の瞳には、もう何の感情も宿っていなかった。ただ、深い虚無と、新たな決意だけが宿っていた。


「…もう誰も止められない。幸せそうにしているやつは、この俺が殺す。これからは、俺のやり方で生きていく。」


こうして桜木亙は、その身に「ソウルエンデム」を宿し、今の姿へと変貌を遂げたのであった。彼の心は、永遠に閉ざされ、世界への復讐を誓ったのだった。


ーーーーーーーーーーーー


扶情隼

「…お前にどんな辛い過去があるかわからないが、無差別に人を殺すのはあってはならないことだ!」

隼は、絞り出すような声で叫んだ。その言葉には、ぶみを殺された怒り、そして、この街の理不尽な暴力に対する、彼の純粋な正義感が込められていた。


桜木亙は、フッと鼻で笑った。その冷酷な瞳には、何の感情も宿っていない。

「いいか?

『正義は、人の数だけ存在するんだ』。

お前はお前なりの正義があり、俺は俺なりの正義ってもんがある。だから俺は俺なりに生きる。幸せそうに暮らしているやつは全員、このドリルで突き刺してやるよ」。彼の言葉は、過去の絶望と、そこから生まれた歪んだ正義を、静かに、しかし明確に語っていた。


亙は、言葉と共に、磁気を操った。周囲に散乱していた太い鉄パイプが、まるで意思を持ったかのように宙に浮き上がり、一斉に隼目掛けて飛来する。隼は、胸の傷の痛みで身動きがままならない。辛うじて致命傷は避けたものの、何本もの鉄パイプが彼の巨体を拘束した。


「いって!くそ…身動きが取れねぇ…」隼は、鉄パイプに締め付けられ、苦悶の声を上げた。その体は、まるで巨大な繭の中に閉じ込められたかのようだ。


亙は、ドリルに変形した左腕とは反対の右手で、新たな武器を出現させた。それは、三本の鋭いアームを持つ、禍々しい形状の物体だった。アーム真ん中からは、マグマのように赤く燃え盛る液体が、どろりと垂れ流れている。その熱気が、周囲の空気を歪ませる。


亙は、そのアームのようなもので、弱りきった隼を掴み上げた。隼の巨体が、無重力のように宙に持ち上げられる。胸の傷口からは、さらに血が噴き出し、彼の意識は朦朧としていく。


「あっ、くそ…身動きが取れない…俺はこのまま、この知らない地で、死ぬのか…」

隼の脳裏に、ウィーリス荘の仲間たちの顔がよぎった。ぶみの、温かい毛並みが、指先に残っているような気がした。こんな場所で、こんな男に、命を奪われてたまるか。


桜木亙は、宙吊りになった隼を見下ろし、冷酷な声で告げた。「お前の過去は知らない、人を無差別に殺すのは違う、とか色々ほざきやがって。私は私なりにやらせてもらう。扶情隼。君の墓場はここだ」。彼の言葉には、一切の躊躇も、憐憫もなかった。ただ、絶対的な支配者の宣告だけが響く。


「「じゃあな。」」


亙の言葉が、冷たい風に乗って、夜の街に吸い込まれていった。アームの先端が、隼の心臓目掛けてゆっくりと収束していく。絶望的な状況の中、隼は、ただ、仲間たちの顔を思い浮かべることしかできなかった。彼の命の灯火が、今、まさに消えようとしていた。

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