第53章:子育て問題 part5 「子どもが生まれてから大学卒業まで、家計全体がどう動くか」
今回はかなり本格的に、**「子どもが生まれてから大学卒業まで、家計全体がどう動くか」**という形でシミュレーションします。
特に前回の話を踏まえ、単純に「子ども1人=年間100万円」ではなく、
夫婦の生活費
住宅費
食費
光熱水道費
通信費
交通費
日常雑費
保育・子育て費
公立学校
私立学校
学習塾
大学費用
自宅通学・大学生活の追加費用
児童手当
子ども2人・3人による住宅費増加
18年間の高校卒業まで
22年間の大学卒業まで
まで入れます。
なお、**現在の公的統計を基準にした「現時点価格モデル」**です。将来の物価・賃金上昇は入れていません。文科省の令和5年度「子供の学習費調査」では、公立小学校約33.6万円、公立中学校約54.2万円、公立高校約59.8万円、私立小学校約182.8万円、私立中学校約156.0万円、私立高校約103.0万円が年間の学習費総額です。しかも、この「学習費」には学校外活動費・塾なども含まれます。
大学については、私立大学の初年度納付金平均が約147.7万円、JASSOの令和6年度調査では大学昼間部の学生生活費は自宅で約180万円、アパート等で約234万円です。
1.まず結論
今回のシミュレーションでかなり重要なのは、**「子ども1人に必要な総額」よりも、「毎年の家計から何万円出ていくか」**です。
22年間で見ると、概算では、
教育パターン子ども1人・22年間
公立+塾なし約2,930万円
公立+塾あり約3,080万円
私立+塾あり約4,490万円
程度になります。
ただし、これは「教育費だけ」ではありません。
**食費、被服、日用品、交通費、子どもの生活費、大学時代の生活費なども含めた「子どもによる家計増加分」**です。
そして非常に重要なのが、
公立+塾なし → 公立+塾あり
では22年間で約150万円程度の差なのに対して、
公立+塾あり → 私立+塾あり
では約1,410万円も差が出る
ということです。
つまり、少子化を考える場合、単純な「子育て費用」だけでなく、教育水準をどこまで確保したいかが家計に非常に大きな影響を与えます。
2.今回のシミュレーションの前提
まず、かなり重要なので前提を明示します。
世帯年収
今回は、
世帯年収300万円、400万円、500万円、600万円、700万円、1,000万円
の6階層で比較します。
前回と同じく、概算手取りを、
世帯年収年間手取り
300万円約238万円
400万円約312万円
500万円約386万円
600万円約458万円
700万円約528万円
1,000万円約730万円
として計算します。
これはあくまでモデル値です。
3.夫婦2人だけの年間生活費
子どもがいない夫婦の基本生活費を、
年間360万円
と置きます。
内訳はおおむね、
項目年間
食費102万円
住宅費144万円
光熱水道30万円
通信30万円
交通30万円
日用品・衣服・その他24万円
合計360万円
です。
住宅費は月12万円を想定。
総務省の2025年家計調査では、二人以上世帯の消費支出は月31.4万円で、勤労者世帯の実収入は月65.4万円でした。今回のモデルは、若い子育て世帯を想定して住宅費などをある程度固定化した簡易モデルです。
4.子ども1人の生活費
教育費とは別に、
食費
衣服
日用品
医療
交通
子どもの小遣い
保育・日常生活
などを入れます。
概算すると、
年齢年間追加生活費
0~5歳約75万円
6~12歳約85万円
13~15歳約95万円
16~17歳約105万円
大学約80万円+大学費用
としました。
これは「子どもにかかる総費用」ではなく、教育費とは別の生活費です。
5.教育費① 公立+塾なし
文科省統計の学習費総額から平均的な塾代を除いてモデル化しました。
公立の場合、
小学校
約33.6万円/年
ですが、そのうち塾費用が平均約7.5万円程度です。
したがって、
塾なし:約26万円/年
程度としています。
中学校は、
学習費総額:約54.2万円
塾費:約23万円
なので、
塾なし:約31万円
程度。
高校は、
学習費総額:約59.8万円
塾費:約14.7万円
なので、
塾なし:約45万円
程度としています。
6.教育費② 公立+塾あり
こちらは文科省の学習費総額をそのまま使います。
つまり、
公立小学校
約33.6万円/年
公立中学校
約54.2万円/年
公立高校
約59.8万円/年
です。
このモデルはかなり重要です。
なぜなら、
「公立だから教育費が安い」
とは必ずしも言えないからです。
公立中学校では平均塾費だけで約23万円です。
7.教育費③ 私立+塾あり
文科省統計では、
学校年間学習費
私立小学校約183万円
私立中学校約156万円
私立高校約103万円
です。
私立小学校は特に強烈です。
6年間で、
約1,097万円
になります。
ここに幼児期・中高・大学を加えると、かなり大きな金額になります。
8.大学
大学は、
公立・国立系
年間約170万円
私立大学
年間約190万円
程度を家計負担としてモデル化しました。
ここには、
授業料
学費
通学
食費の増加
教材
大学生本人の生活費
などを含めています。
ただし、医学部などは完全に別世界なので、このモデルには含めません。
また、自宅外通学になると大きく増えます。
JASSOでは大学昼間部で、自宅通学とアパート等では年間学生生活費に約54万円の差があります。
したがって、今回の大学費用はかなり「平均的な大学生」を想定しています。
9.児童手当
現在の児童手当は、
3歳未満:月1.5万円
3歳~高校生年代:月1万円
第3子以降:月3万円
です。所得制限はありません。
したがって、1人あたり18年間で概算すると、
約234万円
です。
第3子についてはさらに大きくなります。
10.子ども1人・22年間の総額
ここからが本題です。
1人の場合
パターン22年間の家計負担
公立+塾なし約2,930万円
公立+塾あり約3,080万円
私立+塾あり約4,490万円
となります。
つまり、
子ども1人=3,000万円前後
というのは、かなり現実的な感覚です。
ただしこれは、
「22年間で3,000万円を一括で払う」
という意味ではありません。
実際には、
0~5歳 → 比較的小さい
↓
小学校 → 徐々に増える
↓
中学校 → 塾費用が増える
↓
高校 → 教育費増加
↓
大学 → 年間170~200万円程度
という形で山ができます。
11.18年間だけならどうなるか
大学を除いて高校卒業までを見ると、
教育パターン18年間
公立+塾なし約1,930万円
公立+塾あり約2,080万円
私立+塾あり約3,410万円
程度です。
したがって、
高校卒業まででも2,000万円前後。
私立中心なら、
3,000万円を超える
という構造です。
12.子ども2人になるとどうなるか
ここが少子化を考えるうえで非常に重要です。
2人目は単純に、
3,080万円 × 2 = 6,160万円
とはなりません。
なぜなら、
兄弟で服を共有
家具を共有
家電を共有
住宅を共有
食事を一緒に作る
教育環境を共有
できるからです。
一方で、
食費
学費
塾代
大学費用
はほぼ2倍になります。
2歳差で22年間をシミュレーションすると、
2人22年間
公立+塾なし約5,350万円
公立+塾あり約5,670万円
私立+塾あり約8,450万円
程度になります。
13.3人になると
さらに3人。
2歳差で、
3人22年間
公立+塾なし約7,280万円
公立+塾あり約7,750万円
私立+塾あり約1億1,860万円
です。
もちろん3人目は22年間の最後まで大学卒業しないため、22年間という区切りでは「3人全員の生涯教育費」を完全には含んでいません。
それでも、
私立+塾ありで1億円を超える
という結果になります。
14.では世帯年収300万円ではどうなるか
ここから非常に面白くなります。
世帯年収300万円。
手取り約238万円。
夫婦2人だけで生活費360万円なので、
子どもがいなくても年間約122万円の赤字
です。
したがって、この所得水準では、
「子どもを持つかどうか」
以前に、
夫婦2人の家計をどう成立させるか
が問題になります。
15.世帯年収400万円
手取り約312万円。
これでも夫婦2人の基本生活費360万円に届きません。
子ども1人を持つと、
さらに、
食費
保育
衣服
教育
医療
が増えます。
したがって、
年収400万円では「子ども1人+公立」でも家計にかなり強い圧力がかかる
という結果になります。
16.世帯年収500万円
手取り約386万円。
夫婦2人の基本生活費360万円を引くと、
残りは約26万円。
ところが子ども1人の場合、
年間70~150万円程度の追加支出が発生します。
したがって、
年収500万円でも「子ども1人なら余裕」とは言えない
という結果になります。
17.世帯年収600万円
手取り約458万円。
夫婦2人の基本生活費を引くと、
約98万円。
子ども1人なら何とか対応できますが、
塾
私立
大学
住宅ローン
車
老後資金
まで考えると余裕は大きくありません。
特に、
子ども2人
になるとかなり厳しくなります。
18.世帯年収700万円
手取り約528万円。
ここからようやく、
「子ども1人を育てながら多少貯蓄できる」
という家計になってきます。
ただし、
子ども2人+塾
になると、かなり余裕がなくなります。
さらに私立になると赤字化しやすくなります。
19.世帯年収1,000万円
手取り約730万円。
ここまで来ると、
子ども1人ならかなり対応できます。
子ども2人も、
公立中心なら比較的対応可能なモデルです。
しかし、
私立+塾
になると、子ども3人ではかなり厳しくなります。
今回のモデルでは、22年間の累積収支は概ね、
年収 1人・公立塾なし2人・公立塾なし3人・公立塾なし
300万円 ▲5,380万円 ▲8,360万円 ▲1億480万円
400万円 ▲3,750万円 ▲6,730万円 ▲8,860万円
500万円 ▲2,120万円 ▲5,100万円 ▲7,230万円
600万円 ▲540万円 ▲3,520万円 ▲5,640万円
700万円 +1,000万円 ▲1,980万円 ▲4,100万円
1,000万円+5,450万円 +2,460万円 +340万円
となります。
※これは「22年間、毎年その年収が変わらず、最初の貯蓄ゼロ、運用益なし」という非常に厳しい仮定です。したがって、この数字を実際の家計の貯蓄額と考えるべきではありません。
むしろ、
その年収で、その教育方針を維持すると、家計にどの程度の圧力がかかるか
を見るための指標です。
20.3パターンを並べると非常に面白い
22年間の累積収支を比較すると、
子ども1人
世帯年収 公立+塾なし公立+塾あり私立+塾あり
300万円 ▲5,380万 ▲5,530万 ▲6,940万
400万円 ▲3,750万 ▲3,910万 ▲5,320万
500万円 ▲2,120万 ▲2,280万 ▲3,690万
600万円 ▲540万 ▲690万 ▲2,100万
700万円 +1,000万 +850万 ▲560万
1,000万円+5,450万 +5,290万 +3,880万
ここからかなり重要なことが見えます。
21.「塾あり」の負担は実はそれほど巨大ではない
これは前回のあなたの指摘とも関係します。
公立+塾なしと公立+塾ありの差は、
22年間で約160万円程度
です。
つまり、
「塾に行くから子どもを持てない」
という単純な構造ではありません。
むしろ問題は、
私立化
です。
公立+塾あり
→ 約3,080万円
私立+塾あり
→ 約4,490万円
差は、
約1,410万円。
22.しかし「低所得者ほど教育費が重く感じる」というあなたの指摘は重要
ここが今回のシミュレーションで最も面白いところです。
例えば、
年収500万円世帯
手取り約386万円。
子ども1人、公立+塾ありなら、
年間の子育て・教育関連支出が、
100~150万円程度
になる時期があります。
つまり、
可処分所得の約25~40%
が子どもに吸収される可能性があります。
一方、
年収1,000万円世帯
手取り約730万円。
子ども1人、私立+塾ありでも、
同じように年間150~250万円程度の支出があったとして、
所得に占める割合は、
約20~35%程度
です。
しかも高所得世帯は、
貯蓄
住宅
車
旅行
老後資金
などの余力も比較的大きい。
つまり、
同じ100万円の教育費でも、低所得世帯と高所得世帯では「痛み」が全く違う
わけです。
23.そして「教育熱心な低所得世帯」が存在する理由
あなたが前回言った、
「自分たちより豊かな生活を子どもにさせたいから、無理して塾に行かせる」
という現象は、このモデルでも非常に合理的です。
例えば、
年収450万円の家庭が、
子どもの塾代として年間30万円払ったとします。
30万円は年収の約6.7%。
一方、年収1,000万円なら3%です。
同じ30万円でも、
家計に対する圧迫度が2倍以上違う。
しかも低所得家庭の場合、
「この30万円を削れば楽になる」
だけではありません。
親からすると、
「この30万円を削った結果、子どもの将来の選択肢が狭くなったらどうしよう」
という不安があります。
だから削れない。
24.ここに「少子化の非常に重要なメカニズム」がある
私は今回のシミュレーションを見る限り、
「子どもが高いから少子化する」
だけでは不十分だと思います。
むしろ、
「1人の子どもに十分な教育・生活水準を与えようとすると、2人目、3人目の限界費用が非常に大きくなる」
という構造があります。
例えば、
子ども1人
「この子には十分教育を受けさせよう」
↓
塾
↓
大学
↓
何とか払える。
ところが、
子ども2人
「同じ水準を2人に与えなければ」
↓
塾×2
↓
大学×2
↓
住宅も少し広くする
↓
貯蓄が減る
↓
老後資金が心配
となります。
さらに、
子ども3人
になると、
「3人とも同じ教育機会を与えられるのか?」
という問題が出てきます。
25.つまり「子ども1人3,000万円」だけを見ると本質を外す
本当に重要なのは、
限界費用
です。
例えば、
1人目
→ 約3,080万円
2人目
→ 約2,600万円前後
3人目
→ 約2,300~2,500万円程度
というイメージになります。
3人目は兄弟との共有が増えるので、1人目ほどはかからない。
しかし、
世帯所得に対する負担率は大きく上昇する。
ここがポイントです。
26.さらに重要なのが「教育格差」への恐怖
私はここが、単なる金額以上に重要だと思います。
親が、
「公立に行けばいい」
と思っていても、
周囲が、
小学校から塾
中学受験
高校受験
大学受験
英語
プログラミング
スポーツ
音楽
となってくると、
「うちの子だけ何もさせなくて大丈夫なのか?」
という不安が出ます。
文科省調査でも、学習塾費は公立中学校で年間約23万円、公立小学校でも約7.5万円あります。
つまり、
塾代そのものより、「塾に行かせないことへの不安」が問題
になる可能性があります。
27.今回のモデルから見える「少子化の家計ライン」
かなり乱暴に整理すると、
年収300~400万円
子どもを持つ以前に夫婦生活そのものが厳しい。
↓
年収500万円
子ども1人なら何とかするが、2人目から大きな不安。
↓
年収600万円
子ども1人は現実的、2人になると教育・住宅・老後との競合が強くなる。
↓
年収700万円
2人を公立中心で育てることは可能だが、教育熱心になると余裕が縮小。
↓
年収1,000万円
2人程度ならかなり対応可能。ただし私立+塾+住宅+大学下宿などが重なると3人は簡単ではない。
という構造が見えます。
ただしこれは、あくまで今回の固定条件によるシミュレーションで、現実の家計を階層化する公式基準ではありません。
28.そして、私はあなたの仮説はかなり重要だと思います
前回の私の説明では、
「高所得ほど子どもの教育費が高い」
という方向に寄りすぎていました。
今回のモデルを入れて考えると、より正確には、
「高所得家庭ほど教育費の絶対額を増やしやすい」
一方、
「低所得家庭ほど教育費が可処分所得に占める割合が大きくなりやすい」
です。
この2つは全く違います。
例えば、
年収400万円家庭が子ども1人の教育に年間50万円
と、
年収1,000万円家庭が年間100万円
なら、
絶対額は後者が2倍ですが、
所得比では、
12.5%
vs
10%
です。
さらに前者は、住宅費や食費などを払った後に残るお金が少ない。
したがって、
低所得家庭ほど「子どもへの教育投資を削れない」という葛藤が強くなる可能性があります。
29.そして少子化との関係で最も重要なのは「第2子」
今回の計算を見ると、
第1子を持てるか
だけではなく、
第2子を持てるか
が非常に重要です。
第1子については、
「何とか頑張って育てよう」
となる。
しかし第2子になると、
「同じ教育水準を2人に維持できるか?」
という問題になります。
そして第3子では、
「3人とも大学まで十分な教育を受けさせられるか?」
という問題になる。
このため、
「子ども1人なら持てるが、2人目は諦める」
という現象が起こりやすい経済構造になっています。
これは、あなたが最初に質問された「なぜ若い人が結婚しない・子どもを持たないのか」という問題ともかなりつながっています。
今回のシミュレーションの一番重要な数字
私は次の3つを押さえると分かりやすいと思います。
子ども1人・22年間
公立+塾なし:約2,930万円
公立+塾あり:約3,080万円
私立+塾あり:約4,490万円
そして、
子ども2人
公立+塾なし:約5,350万円
公立+塾あり:約5,670万円
私立+塾あり:約8,450万円
子ども3人
公立+塾なし:約7,280万円
公立+塾あり:約7,750万円
私立+塾あり:約1億1,860万円
です。
この数字を見ると、少子化の問題は単なる「出産費用」ではなく、20年以上にわたって家計の可処分所得を拘束する問題だということがかなり明確になります。
また、今回の計算では児童手当も入れています。現在は所得によらず高校生年代まで支給され、第3子以降は月3万円です。




