第52章:子育て問題 part4 「自分たちは裕福になれなかった。だから子どもには同じ思いをさせたくない」
日本では、「所得が低い家庭ほど教育費を節約する」とは限らず、子どもの将来のために家計を圧迫してでも教育費を投入する家庭があると考えるべきです。
1.「教育費」は所得だけでは決まらない
例えば年収400万円の家庭が、
「自分たちは裕福になれなかった。だから子どもには同じ思いをさせたくない」
と考えて、塾・通信教育・習い事などに年間50万円を使うことがあります。
一方、年収1,000万円の家庭でも、
「学校の授業をしっかりやればいい。塾は必要ない」
と考えれば、教育費がそれほど高くならないこともあります。
したがって、
教育費 ≠ 所得に比例
です。
むしろ、
教育に対する期待 × 子どもの進学目標 × 地域の教育環境 × 家庭の所得
で決まると考えた方がいいでしょう。
2.特に「中間所得層」が苦しくなる可能性があります
私はここが重要だと思います。
例えば、
年収400~600万円の家庭
を考えてみます。
この層は、
公立だけでいい
高校卒業でいい
という選択もできます。
しかし、
「できれば大学まで行かせたい」
「できれば良い大学に行かせたい」
「子どもには自分たちより良い生活をしてほしい」
となると、
塾+大学進学
が現実的な選択肢になります。
すると、
住宅費
+食費
+子育て費
+塾代
+大学進学費
が重なってきます。
ここで家計が圧迫されます。
3.そして面白いのが「教育費の逆進性」です
税制でいう「逆進性」と少し違いますが、家計負担という意味では似た現象が起こり得ます。
例えば、
年収400万円
教育費50万円
→ 手取り約312万円の16%
年収1,000万円
教育費100万円
→ 手取り約730万円の14%
となります。
つまり、高所得家庭の方が教育費の絶対額は大きくても、
家計に対する痛みは低所得家庭の方が大きい。
さらに低所得家庭が「子どもには良い教育を」と考えて無理をすると、
教育費 → 貯蓄減少 → 住宅購入困難 → 結婚・第2子を躊躇
という連鎖が起きる可能性があります。
4.「教育格差」の問題はさらに複雑です
ここで非常に皮肉な現象が起きます。
高所得家庭:
「子どもの教育にはお金をかけよう」
低所得家庭:
「自分たちは苦労した。子どもには同じ苦労をさせたくない」
この2つが同じ方向を向くことがあります。
すると、
所得に関係なく「教育競争」が激しくなる。
そして、所得が低い家庭ほど、
教育費が家計に占める割合が大きくなる。
だから、
「教育費が高いから少子化になる」
というだけでは不十分で、
「子どもに十分な教育を与えなければ、将来、経済的に不利になる」という不安が、教育費を押し上げている
と考える必要があります。
5.私は「塾代」は単なる教育費ではないと思います
これはかなり重要なポイントです。
例えば、
「学校の授業だけで十分」
と思っている家庭なら、塾代は必要ありません。
ところが、
「周りの子がみんな塾に行っている」
となると、
「うちの子だけ行かせないのは不安」
になります。
さらに、
「高校受験には塾が必要」
「大学受験には予備校が必要」
「このままでは良い大学に入れない」
と不安が連鎖します。
つまり塾代の一部は、
教育そのものの費用
というより、
「子どもの将来に対する不安の費用」
とも考えられます。
6.そして、これが「第2子問題」とつながる
ここが少子化を考える上で非常に重要だと思います。
夫婦が、
「子ども1人なら、多少無理をすれば大学まで行かせられる」
と思って第1子を持つ。
ところが子どもが成長して、
習い事
塾
高校受験
大学受験
などにお金がかかってくる。
すると、
「2人目も同じ教育を受けさせてあげられるだろうか?」
という問題が出ます。
そこで、
「1人ならいいけれど、2人は無理」
という判断になる可能性があります。
これは、出生数を考える上でかなり重要です。
7.実際、「子どもを持つなら十分な教育を受けさせたい」という意識は強い
内閣府などの調査でも、理想の子ども数を実現できない理由として、教育費を含む子育て費用の負担は繰り返し上位に挙げられています。
ここで重要なのは、
「子どもそのものにかかる費用」
だけではありません。
親が考えているのは、
「普通に育てる費用」ではなく、「将来困らないように育てる費用」
だからです。
この違いは非常に大きいです。
8.私は「少子化対策」を考えるなら、ここを変える必要があると思います
単純に、
「子ども1人につき年間10万円給付します」
ではなく、
教育にお金をかけなくても、子どもが十分な教育を受けられる社会
にすることです。
例えば、
公立学校の教育力を高める
↓
「塾に行かせないと不安」という状況を減らす。
放課後の無料学習支援
↓
低所得家庭でも学習機会を確保。
高校・大学の教育費負担を軽減
↓
「大学まで行かせたら家計が破綻する」という不安を減らす。
公立学校の進学支援を充実
↓
「良い大学に行くには私立中・塾・予備校」という構造を弱める。
9.すると「教育費100万円削減」の意味が変わります
先ほど私は、
「年収を100万円増やす」vs「子育て費用を100万円減らす」
という比較をしました。
ここで、単純に現金を100万円給付するより、
「教育費を100万円払わなくて済む」
方が、心理的効果まで含めて大きい場合があります。
例えば、
年収500万円の家庭で、
塾代+大学費用への不安=年間100万円
だとします。
これが公教育の充実などによって、
30万円
になれば、
毎年70万円の負担軽減です。
しかも、
「子どもが2人になっても教育を受けさせられる」
という安心感が生まれます。
これは単純な70万円以上の意味を持ちます。
10.つまり「子ども1人の費用」より「子ども2人目の限界費用」が重要
私はここが、今回の議論の次のポイントだと思います。
例えば、
1人目
教育費100万円
→ なんとか払える。
2人目
さらに100万円
→ なんとか払える。
3人目
さらに100万円
→ 貯金ができなくなる。
となると、
「2人までは何とか」
という家庭が増えます。
ところが、
教育費が公的に軽減されれば、
1人目100万円
↓
70万円
2人目100万円
↓
70万円
となり、
第2子を持つ心理的ハードルが下がります。
11.そして、ここから非常に重要な仮説が出てきます
日本の少子化を考えると、
「貧しいから子どもが少ない」
だけではないと思います。
むしろ、
「子どもを持つなら、十分な教育を与えて、少なくとも自分より豊かな人生を送らせたい」
という親の願望が強い。
これは一見すると非常に良い親心です。
しかし、それが、
子ども1人当たりに投入する教育資源の増大
につながり、
結果として、
「子どもをたくさん持つより、少ない子どもに多く投資する」
という選択を合理的にしてしまう。
私はこれが日本の少子化を考える上で、かなり重要な仮説だと思います。
12.実は「量から質への転換」が起きている可能性があります
昔:
3~4人子どもを持つ
↓
全員に大学教育を必ず与えるとは限らない
現在:
1~2人に絞る
↓
その代わり、一人一人に多額の教育投資をする
という変化です。
つまり親からすると、
「子どもの数を減らして、一人当たりの人的資本投資を増やす」
という合理的な選択になります。
経済学的に見ると、これはかなり自然な行動です。
13.だから私は、少子化対策の目標を変える必要があると思います
「子どもを増やしてください」
ではなく、
「子どもを増やしても、一人一人に十分な教育を与えられる」
という社会を作る。
これなら、
「子ども2人だと教育費が倍になるから無理」
という問題を直接解消できます。
そしてこれは、先ほどの所得階層の話ともきれいにつながります。
年収300~400万円
教育費の負担率が非常に大きい
↓
第2子を躊躇
年収500~700万円
教育競争に参加できるが、子ども2人だと負担感が強い
↓
第2子・第3子を慎重に判断
年収1,000万円以上
経済的余裕はあるが、そもそも結婚・出産の必要性を感じない場合がある
↓
所得政策だけでは解決できない
という構造です。




