第51章:子育て問題 part3 「年収300万円の人が結婚したら、相手も年収300万円なのか」
若い世代の実態に近い比較として、
独身:本人の年収300~1,000万円
結婚後:夫婦それぞれが同じ年収を得る共働き
子ども:1人、2人
子どもは基本的に公立、大学は国立・自宅通学を基本ケース
住宅費:月12万円=年144万円
児童手当は現在の制度を反映
金額は2026年時点の概算
というモデルにします。
なお、税・社会保険料は個人条件でかなり変わるので、**手取り額は「標準的な会社員の概算」**です。給与所得控除などは2025年分以降の制度を前提にしています。
1.まず「年収→手取り」を置いてみる
概算すると次のようになります。
年収 年間手取り概算月手取り概算
300万円 約238万円約19.8万円
400万円 約312万円約26.0万円
500万円 約386万円約32.2万円
600万円 約458万円約38.2万円
700万円 約528万円約44.0万円
1,000万円約730万円約60.8万円
これは「給与収入-社会保険-所得税-住民税」の概算です。
ここで既に重要なことがあります。
年収300万円と500万円では、額面で200万円しか違わないのに、手取りでは年間約148万円違います。
そして結婚すると、この差がさらに大きくなります。
2.結婚するとどうなるか
夫婦がそれぞれ同じ年収だとすると、
1人の年収夫婦の額面年収夫婦の手取り概算
300万円 600万円 約476万円
400万円 800万円 約624万円
500万円 1,000万円 約772万円
600万円 1,200万円 約916万円
700万円 1,400万円 約1,056万円
1,000万円2,000万円 約1,460万円
ここから非常に面白いことが見えてきます。
3.「年収300万円」は結婚すると全く違う
例えば、
独身・年収300万円
手取り:
約238万円
ここから家賃144万円を払うと、
残り94万円
です。
食費、光熱費、通信費、衣服、医療費、交通費などを考えれば、かなり厳しい。
ところが、
年収300万円+300万円の夫婦
手取り:
約476万円
家賃144万円を引いて、
332万円
残ります。
つまり、
年収300万円の独身者
と
年収300万円同士の夫婦
では、経済状況が全く違います。
4.ここに「結婚の経済的メリット」があります
夫婦になると、
家賃を共有できる
家具・家電を共有できる
光熱費を共有できる
食材をまとめて購入できる
車を共有できる場合がある
など、生活の固定費を2人で分担できます。
これが結婚の大きな経済的メリットです。
ところが、若者がそれを実感できていない可能性があります。
なぜなら、
「結婚=子ども+住宅+教育費+責任」
というイメージが強く、
「結婚=2人で生活費を分担できる」
というメリットが見えにくいからです。
5.では子ども1人を加えてみる
ここではかなり重要な前提を置きます。
文科省の2023年度調査では、幼稚園から高校まで全て公立の場合、学習費総額は約596万円です。私立なら約1,976万円になります。
さらに国立大学は、授業料年53万5,800円、入学料28万2,000円が標準額です。4年間なら約242万円になります。
したがって、
公立幼稚園~高校+国立大学
なら、
約840万円
程度が「教育関連費」の一つの目安になります。
ただしこれは子どもの食費、衣服、住宅の広さ、医療、旅行、日用品などを含まないので、実際の子育て費用はもっと大きくなります。
そこで今回の試算では、教育費以外も含めて、
子ども1人:年間100万円程度
を長期平均の家計負担として置きます。
かなり慎重なモデルです。
6.子ども1人の年間負担を100万円とすると
夫婦の住宅費144万円と子ども100万円を引いてみます。
夫婦+子1人
夫婦それぞれの年収世帯手取り住宅費子1人残り
300万+300万 476万 144万100万232万
400万+400万 624万 144万100万380万
500万+500万 772万 144万100万528万
600万+600万 916万 144万100万672万
700万+700万 1,056万 144万100万812万
1,000万+1,000万 1,460万 144万100万1,216万
※児童手当をまだ差し引いていない単純モデル。
実際には児童手当があります。現在は第1・第2子なら3歳未満月1.5万円、3歳以上高校生年代まで月1万円です。
7.ここで「年収300~500万円」の問題が見えてくる
例えば、
300万円+300万円夫婦
世帯手取り:約476万円
住宅:約144万円
子ども:約100万円
残り:
約232万円
ここから、
食費
水道光熱費
通信費
車
保険
医療
衣服
家具
レジャー
貯蓄
突発的支出
を払います。
つまり、
生活はできるが、余裕はかなり小さい。
400万円+400万円
手取り約624万円。
住宅+子どもを引いて、
約380万円。
こちらはかなり違います。
500万円+500万円
手取り約772万円。
住宅+子どもを引いて、
約528万円。
ここまで来ると、
「子どもを持ったら生活できなくなる」
という恐怖はかなり小さくなるでしょう。
8.そこで「子ども2人」にするとどうなるか
単純に子ども1人100万円として、
2人=年間200万円
とします。
夫婦年収 世帯手取り住宅費子2人残り
300+300 476万144万200万132万
400+400 624万144万200万280万
500+500 772万144万200万428万
600+600 916万144万200万572万
700+700 1,056万144万200万712万
1,000+1,0001,460万144万200万1,116万
これを見ると、
年収300万円+300万円
では、
子ども2人を持つと余裕がかなり小さくなる。
一方、
500万円+500万円
なら、
子ども2人でも年間400万円以上が残る。
もちろんここから生活費を払うので、「400万円自由に使える」という意味ではありません。
9.ここで「子育て負担率」を出す
今回は、
子育て費用 ÷ 世帯可処分所得
とします。
子ども1人=年間100万円とすると、
夫婦それぞれの年収子1人の負担率子2人の負担率
300万円 21.0% 42.0%
400万円 16.0% 32.1%
500万円 13.0% 25.9%
600万円 10.9% 21.8%
700万円 9.5% 18.9%
1,000万円 6.8% 13.7%
これはかなり面白い結果です。
同じ「子ども1人100万円」でも、低所得世帯ほど可処分所得に占める割合が急激に大きくなる。
10.しかし、ここにはもっと大きな問題があります
実は子どもの費用は、
低所得家庭ほど安く、高所得家庭ほど高くなる
傾向があります。
理由は、
習い事
塾
私立中学
私立高校
大学
海外留学
スポーツ
音楽
PC・スマホ
などです。
文科省のデータでも、幼稚園~高校の学習費は、
全て公立:約596万円
に対して、
全て私立:約1,976万円
と大きな差があります。
つまり、
「子ども1人100万円」
という平均モデルは、むしろかなり控えめです。
11.そして住宅費が非常に大きい
ここは私が今回の問題でかなり重要だと思っているところです。
例えば、
家賃10万円
なら年間120万円。
家賃15万円
なら年間180万円。
家賃20万円
なら年間240万円。
年収300万円の独身者にとって、
家賃15万円=手取りの約63%
です。
これでは結婚どころではありません。
一方、年収300万円+300万円の夫婦なら、
手取り約476万円なので、
家賃15万円=30%程度。
一気に現実的になります。
つまり、
若者の結婚問題は「給与問題」だけではなく「住宅問題」でもある
わけです。
非常に明確なのは、
年収が低いほど「子ども1人」が家計に与える衝撃が大きい
ということです。
13.では「年収を100万円上げる」と「子育て費用を100万円下げる」はどちらが効くか?
ここが今回の分析で一番面白いところです。
例えば、
年収300万円+300万円夫婦
の場合。
世帯手取り:約476万円。
ここで夫婦どちらかの年収を100万円上げるとします。
300万円→400万円。
世帯手取りは、
約476万円 → 約550万円程度
となり、
可処分所得が約74万円増える
と考えられます。
一方、
子育て費用を100万円下げる
なら、そのまま
100万円の家計改善
です。
したがって、
低所得層では
「子育て費用100万円削減」の方が、「年収100万円アップ」より直接的な家計効果が大きい
可能性があります。
14.ところが年収500万円になると話が変わる
500万円→600万円の場合、
手取りは概算で
386万円 → 458万円。
つまり、
約72万円増加。
やはり額面100万円の所得増加が、そのまま100万円の可処分所得にはなりません。
一方、
子育て費用100万円削減なら、
100万円そのまま家計改善。
したがって、
純粋な家計効果だけなら「100万円の子育て費用削減」の方が大きい。
15.しかし「年収100万円アップ」には別の効果がある
ここが重要です。
所得が100万円増えると、
毎年ずっと所得が増える可能性があります。
一方、
子育て費用100万円削減は、
子どもがいる期間だけの効果
です。
例えば、
年収100万円アップによって手取りが年間70万円増えたとすると、
10年間で、
約700万円
です。
20年間なら、
約1,400万円。
したがって長期的には、
所得上昇の方が非常に大きな効果になる可能性がある。
16.しかし、さらに重要なのは「何の費用を100万円下げるか」
ここです。
例えば、
子どもの大学費用100万円削減
なら、
子どもが大学に入ってからの4年間に効きます。
ところが、
0~18歳の住宅・保育・給食・教育費を年間10万円ずつ削減
なら、
18年間で180万円。
つまり、
「100万円」という総額だけでは比較できません。
政策の設計が重要です。
17.私は「若者の年収を100万円上げる政策」だけでは足りないと思います
なぜなら、年収300万円の若者が、
300→400万円
になっても、
「結婚して子どもを2人育てる」
という決断にはまだ不安があるからです。
例えば、
年収300万円
↓
400万円
になった。
でも、
家賃15万円
結婚式
引っ越し
出産
保育園
車
子どもの教育費
が待っている。
すると、
「100万円増えたけど、結婚して大丈夫なの?」
となります。
18.だから私は「所得+住宅+子育て」の3点セットが重要だと思います
例えば、
政策A
若者の手取りを年間70万円増やす
政策B
結婚・子育て世帯の住宅費を年間50万円下げる
政策C
子ども1人あたり年間50万円の教育・保育負担を下げる
とすると、
合計で、
年間170万円程度の家計改善
になります。
これは年収を単純に100万円増やすより大きなインパクトになり得ます。
19.そして、ここで最初の「結婚しない若者3割」に戻ります
今回の試算から見えてくるのは、
年収300万円
「結婚したら生活できなくなるかもしれない」
という不安が合理的に存在する。
↓
年収400万円
「結婚できるかもしれない。でも子ども2人は不安」
↓
年収500万円
「結婚+子ども1人ならかなり現実的。でも2人目は慎重」
↓
年収600~700万円
「経済的にはかなり余裕が出てくる」
↓
年収1,000万円
「お金よりも、自由・仕事・価値観・相手との関係が問題」
という構造が見えてきます。
もちろんこれは統計的にこの区分で確認されたわけではなく、今回の家計モデルから導いた仮説です。
20.そして、私はここに日本の少子化問題の核心があると思います
日本では、
低所得層
「結婚したいけど経済的に怖い」
という問題。
中所得層
「結婚できるけど、子どもを2人持つと生活水準が下がる」
という問題。
高所得層
「子どもを持たなくても十分幸せに暮らせる」
という問題。
が同時に存在している可能性があります。
だから、
「若者の所得を上げれば少子化解決」
でもなく、
「子ども手当を増やせば解決」
でもありません。
21.むしろ一番重要なのは「結婚・子育ての固定費」
私はここが政策上のポイントだと思います。
若者に、
「年収を100万円増やします」
と言うより、
結婚したら住宅費が月3万円安くなる
子どもが生まれたら保育・給食・医療費の負担が大幅に下がる
大学までの教育費について大きな不安がない
という社会の方が、
「結婚しても大丈夫だ」
という心理を作りやすいでしょう。
特に重要なのは、将来の不確実性を減らすことです。
若者が恐れているのは、必ずしも「子ども1人に2,000万円かかる」という総額だけではありません。
むしろ、
「これから20年間、いくらかかるのか分からない」
という不安です。
最後に、今回の試算を一枚にまとめると
夫婦それぞれの年収世帯手取り子1人負担率子2人負担率住宅費144万円+子1人後の残額
300万円 約476万円 21% 42% 約232万円
400万円 約624万円 16% 32% 約380万円
500万円 約772万円 13% 26% 約528万円
600万円 約916万円 11% 22% 約672万円
700万円 約1,056万円 9.5% 19% 約812万円
1,000万円 約1,460万円 6.8% 14% 約1,216万円
ここから生活費を払うので、右端の数字を「余裕資金」と考えてはいけません。
しかし、この表からかなり重要なことが分かります。
年収300~400万円の若者にとって、子どもを持つことは「人生の幸福」の問題であると同時に、「家計破綻リスク」の問題になり得る。
一方で、
年収600~1,000万円になると、結婚・子育てをしない理由は経済問題だけでは説明できなくなる。
つまり、最初の「結婚しない若者が3割」という話は、実は**「若者の所得問題」と「結婚という制度そのものの魅力が低下している問題」の2つを分けて考えないと本質を見失う**のだと思います。




