第50章:子育て問題 part2 「一生結婚するつもりはない」
2025年実施・2026年9月公表の第17回出生動向基本調査では、「一生結婚するつもりはない」を年収300万円、400万円……という階層別に直接クロスした最新データは、概要資料では公表されていません。
一方、25~34歳未婚者の年収分布自体は公表されています。
そのため、以下では、
実際に確認できる所得と結婚の関係
そこからかなり妥当と考えられる所得階層別の構造
私の推測
を分けて考えます。
結論からいうと
私は、所得と結婚の関係は単純な
「年収が低いほど結婚しない」
ではなく、
低所得層では「結婚したくてもできない」問題が強く、高所得層では「結婚する必要を感じない」問題が強くなる
という二極化が起きている可能性が高いと考えます。
イメージとしてはこうです。
年収結婚に対する主な障壁と推測されるもの
~200万円経済的に結婚が難しい
200~300万円経済+将来不安
300~400万円結婚できるが、子育てまで考えると不安
400~500万円結婚可能性がかなり高まるゾーン
500~700万円経済的障壁はかなり低下
700~1,000万円「結婚する必要性」の問題が中心になりやすい
1,000万円~お金より価値観・自由・ライフスタイルの問題が中心
これは現時点の統計をそのまま表した表ではなく、既存統計から構造を推定したものです。
1.まず「年収が高いほど結婚しやすい」というデータはある
厚生労働省の縦断調査では、所得が高くなるほど、その後3年間に結婚した割合が高くなる傾向が確認されています。
例えば男性では、
100万円未満 → 8.2%
100~200万円 → 10.6%
200~300万円 → 15.6%
300~400万円 → 19.5%
400~500万円 → 20.6%
500万円以上 → 19.6%
でした。
女性でも、
100万円未満 → 14.8%
100~200万円 → 18.9%
200~300万円 → 20.0%
300~400万円 → 20.7%
400~500万円 → 21.8%
500万円以上 → 19.4%
となっています。これは少し古い調査ですが、「所得と結婚には一定の関連がある」ことを示す重要なデータです。
特に男性では差がかなり大きい。
100万円未満の8.2%から400~500万円の20.6%へ、約2.5倍です。
2.なぜ男性の所得が結婚に強く影響するのか
ここには男女の役割意識がまだ影響しています。
厚労省の分析では、20~39歳の男女の約6割が、
「結婚生活を始めるには夫婦で年収400万円以上必要」
と考えていました。
ところが実際の未婚者を見ると、
男性の約半数が年収300万円未満でした。
女性では約7割が300万円未満です。
つまり、
「結婚したい」
と思っていても、
「自分の収入では結婚生活を維持できないのでは?」
と考えてしまう若者が相当数いる。
特に男性ではこの心理が強い可能性があります。
実際、厚労省の分析では、25~34歳男性の約23%が「結婚資金が足りない」ことを独身理由として挙げていました。
3.しかし、年収300万円を超えれば全部解決するわけではない
ここが今回の問題の核心だと思います。
仮に、
年収250万円 → 400万円
になったとします。
確かに結婚しやすくなるでしょう。
しかし、
年収400万円 → 600万円
になったからといって、必ず結婚するわけではありません。
そして、
600万円 → 1,000万円
となれば、さらに結婚率が上がるとは限りません。
なぜなら、ある程度の所得を超えると、
「お金がないから結婚できない」
という問題が消えてくるからです。
そこで今度は、
「そもそも結婚する必要があるのか?」
という問題に変わります。
4.ここで「3割」の意味が変わってくる
最新の第17回出生動向基本調査では、18~34歳未婚者の
「一生結婚するつもりはない」
が、
男性24.0%
女性21.5%
となっています。
男女とも初めて2割を超えました。
しかし、この2割強を全部、
「経済的に結婚できない人」
と考えるのは間違いです。
むしろ、
A 結婚したいが、お金がない
B 結婚したいが、相手がいない
C 結婚してもいいが、今は自由を優先したい
D そもそも結婚する必要を感じない
E 結婚も子どもも望まない
という複数のグループが混ざっています。
5.所得300万円以下は「経済問題」がかなり大きい
ここはかなり明確です。
年収300万円というと、月収ベースでは約25万円です。
ここから、
税金
社会保険
家賃
食費
光熱費
通信費
交通費
などを払う。
一人暮らしなら何とか生活できても、
「結婚して子どもを2人育てる」
となると、心理的なハードルが一気に上がります。
だから、
「結婚したくない」
という回答の中に、
「本当は結婚したいけれど、現実的に無理だと思っている」
という人が含まれている可能性があります。
6.年収300~500万円が非常に重要なゾーン
私はここが日本の少子化対策を考えるうえで重要だと思います。
例えば男性が、
年収350万円
女性が、
年収300万円
なら、世帯年収650万円になります。
つまり現代の結婚では、
「男性一人で家族を養えるか」
よりも、
「夫婦2人の所得を合わせて家庭を作れるか」
というモデルに変わりつつあります。
実際、共働き世帯が一般化していることも厚労省が指摘しています。
ところが若者自身が、
「結婚するなら世帯年収400~500万円以上は必要」
と考えている。
すると、
低所得男性+低所得女性
の組み合わせでは、
「結婚したら生活が苦しくなる」
という心理が生じやすい。
7.そして年収500~700万円になると問題が変わる
ここからは私の推測ですが、
この層では、
「お金がないから結婚できない」
という問題がかなり弱くなります。
ところが、
「結婚すると自由がなくなる」
「自分のお金を自由に使えなくなる」
「趣味ができなくなる」
「子どもを持つとさらに大変」
という問題が出てくる。
つまり、
経済的障壁
↓
小さくなる
一方で、
自由を失うことへの抵抗
↓
大きくなる
という構造です。
8.年収700万円以上では、さらに別の問題になる
ここはかなり面白いところです。
年収700~1,000万円ある独身者なら、
「一人で生活する経済的能力」
がかなり高くなります。
つまり、
結婚しなくても生活できる。
しかも、
好きな家に住める
好きな車を買える
海外旅行に行ける
趣味にお金を使える
人間関係を自分で選べる
という生活ができます。
ここまで来ると、
「結婚しないと生活できない」
という昔の圧力が完全になくなります。
だから高所得層では、
「結婚したら幸せになる」
という期待が、
「結婚すると今の自由を失う」
というリスクに負けることがあります。
これはあくまで仮説ですが、かなり合理的な説明です。
9.実は「貧困」と「豊かさ」の両方が非婚を生む可能性がある
これが今回の問題の一番面白いところです。
私は日本の非婚化を、
左側
低所得
↓
「結婚したくても経済的に無理」
中央
中所得
↓
「結婚できるが、子育てまで考えると不安」
右側
高所得
↓
「結婚しなくても快適に生きられる」
というU字型の心理構造として考えると分かりやすいと思います。
ただし、これは「非婚率が所得に対してU字型になることが統計的に確認された」という意味ではありません。現在確認できる資料からの構造仮説です。
10.そして女性の場合は少し違う可能性がある
女性では、
低所得だから結婚できない
だけでは説明できません。
むしろ所得が上がるほど、
「結婚しなくても経済的に自立できる」
という状態になります。
例えば女性が年収700万円なら、
「結婚しなければ生活できない」
という状況ではありません。
そのため、
女性の経済的自立そのものが、結婚の必要性を低下させる
という側面もあります。
これは女性にとって悪いことではありません。
むしろ社会としては望ましい変化です。
ただし、少子化という観点では別の問題を生みます。
11.ここで「結婚のメリット」が問題になる
最新調査では、結婚に利点があると考える割合そのものが低下しています。
男性は以前の6割台から5割台へ、
女性は7割台から6割台へ低下しています。
つまり、
所得を上げるだけでは、結婚率を昔の水準に戻せない可能性があります。
なぜなら、
「結婚する経済的余裕」
と
「結婚したいと思う理由」
は別の問題だからです。
12.だから私は「所得×結婚」を4象限で考えた方がいいと思います
結婚したい結婚したくない
低所得経済的理由で結婚できない結婚の必要性を感じない+経済的不安
中所得結婚したいが将来・子育てが不安自由を優先
高所得条件の合う相手がいれば結婚一人でも十分幸福・経済的自立
この中で政策的に重要なのは、
「結婚したくない人」
ではなく、
「結婚したいのに、経済・住宅・子育て・出会いなどの条件が揃わず結婚できない人」
でしょう。
この層なら、社会制度によって状況を変えられる可能性があります。
13.さらに重要なのは「年収」より「可処分所得」
子ども1人を大学まで育てる費用の話。
例えば、
年収500万円
でも、
東京で家賃12万円
車あり
奨学金返済あり
親への仕送りあり
なら、生活はかなり厳しい。
逆に、
年収400万円+年収300万円
の夫婦なら世帯年収700万円。
しかも住宅費が安ければ、かなり違います。
つまり、
「個人年収」より「結婚後の世帯可処分所得-住宅費-子育て費用」
を見る必要があります。
14.そして、ここから非常に重要な仮説が出てきます
私は今回の問題について、
「若者の所得を上げれば少子化が解決する」
だけでは不十分だと思います。
むしろ、
第1段階
年収300万円未満の若者を300~400万円台に引き上げる
↓
「結婚できない」という経済的障壁を下げる。
第2段階
結婚後の住宅費を下げる
↓
結婚・同居のハードルを下げる。
第3段階
子ども1人目の費用を大幅に下げる
↓
「結婚=莫大な経済負担」という心理を弱める。
第4段階
2人目以降の費用をさらに下げる
↓
出生数を増やす余地を作る。
第5段階
結婚しても自由を失わない社会にする
↓
男性・女性双方にとって結婚の魅力を高める。
という順番で考える必要があります。
15.そして、今回のデータで私が一番気になるところ
最新の第17回調査では、未婚者の希望子ども数そのものが、
男性 1.64人
女性 1.70人
まで低下しています。さらに、未婚者の約6人に1人は、結婚しても子どもを望まないと答えています。
つまり日本は、
「お金がないから結婚できない」
という段階だけではなく、
「結婚して子どもを持つこと自体を人生の必須条件だと思わなくなった」
段階に入っています。
だから私は、
低所得者対策だけでは、今後の少子化を止めるのは難しい
と考えます。
ここから先は、かなり面白い分析ができます
「子ども1人を大学まで育てる費用」と今回の話をつなげると、
年収300万円・400万円・500万円・600万円・700万円・1,000万円
それぞれについて、
①独身の可処分所得
②結婚後の夫婦2人の可処分所得
③子ども1人を大学卒業まで育てた場合の負担率
④子ども2人の場合の負担率
⑤住宅費まで含めた実質的な余裕
を試算できます。
そうすると、**「なぜ年収300~500万円の若者が結婚・子育てを躊躇するのか」**が、かなり具体的な数字で見えてきます。
特に「年収を100万円上げる政策」と「子育て費用を100万円下げる政策」のどちらが家計に効くのかまで比較できます。




