第43章:歴史比較 part1 「1930年代との類似」
現在は、
1930年代の「国際秩序の弱体化・民族主義・領土問題」
1970年代末~1980年代の「米ソ対立・中東危機・軍拡」
第一次世界大戦前の「大国間競争と同盟関係の緊張」
2000年代以降の「グローバル化への反発とポピュリズム」
が同時に重なっていると考える。
現在、ロシア・ウクライナ戦争、米国とイランの戦争、米国と欧州の関係変化、欧州の右派・民族主義勢力の伸長が同時進行しており、実際に専門家からも「1930年代との類似」や「新しい冷戦」に近いという議論が出ています。
1.一番近いのは「1930年代」
現象を歴史的に考えるなら、まず1930年代を見るべきだと思います。
当時は、
世界恐慌
↓
国内政治の不安定化
↓
民族主義・排外主義の台頭
↓
民主主義への不信
↓
強い指導者への期待
↓
国際協調の弱体化
↓
領土拡張を求める国家の出現
↓
戦争
という流れがありました。
1930年代のヨーロッパでは、ドイツ、イタリアなどでファシズム・権威主義が台頭し、国際連盟による集団安全保障も機能不全に陥りました。さらに世界恐慌による貿易縮小や経済的自立政策が各国の対立を強めました。
現在との類似
1930年代 現在
世界恐慌 格差・インフレ・生活不安
民主政治への不信 既成政党への不信
民族主義 ナショナリズム
移民・少数派問題 移民問題
「自国民を優先」 America First等
国際協調への不満 EU・国際機関への不満
領土拡張 ロシアの対ウクライナ戦争
軍拡 NATO・欧州の再軍備
強い指導者への期待トランプ、プーチン等
国際秩序の弱体化 国連・国際協調への不信
ここはかなり似ています。
実際、現在の欧州でも右派勢力が伸長しており、ドイツのAfDなどの勢力拡大が大きな政治問題になっています。ただし、欧州全体が一方向に右傾化しているわけではなく、国によって右派の後退もあります。
2.特に似ているのが「第一次世界大戦後の秩序崩壊」
ここが非常に重要です。
第一次世界大戦後には、
「二度と大戦争を起こさないための国際秩序」
が作られました。
中心になったのが、
国際連盟
軍縮
集団安全保障
国際協調
国境の尊重
です。
ところが1930年代になると、
「そんな国際ルールを守っていたら自国だけ損をする」
という考え方が強くなります。
日本の満州事変、イタリアのエチオピア侵攻、ドイツのラインラント進駐、オーストリア併合、チェコスロバキアのズデーテン地方併合……と、既存秩序が次々と破られていきました。
そして非常に危険なのが、
最初にルールを破った国に対して、国際社会が十分なコストを負わせられなかった
ことです。
すると、
「ルールを破っても大丈夫なのでは?」
と他の国も考えるようになります。
これは現在のロシア・ウクライナ戦争を考える際にも重要な視点です。
実際、2022年のロシアによるウクライナ侵攻について、1930年代のドイツの領土拡張との類似性を指摘する議論があります。もちろん、プーチン=ヒトラー、ロシア=ナチス・ドイツという単純な比較は適切ではありません。しかし、「既存の国際秩序を軍事力によって変更しようとする大国」という構造には類似点があります。
3.しかし「1930年代」だけでは説明できない
ここが面白いところです。
現在の
アメリカ vs イラン
を考えると、むしろ1970年代末~1980年代が参考になります。
1979年には、
イラン革命
イラン・アメリカ大使館人質事件
ソ連のアフガニスタン侵攻
米ソ対立の激化
NATOの軍事的緊張
中東情勢の不安定化
が一気に起きました。
そして1979年のイラン革命とソ連のアフガニスタン侵攻は、米ソ間のデタント(緊張緩和)を終わらせる大きな転換点になりました。
つまり、
1979年も「世界秩序の大転換期」だった
わけです。
現在も、
ウクライナ
中東
米中対立
NATO
ロシア
イラン
欧州の安全保障
が連鎖しています。
この点では、現在は「第二次冷戦」のような側面も持っています。
4.さらに「第一次世界大戦前」にも似ている
もう一つ非常に重要なのが、1910年代です。
第一次世界大戦の直前には、
「どこか一国が戦争を始めたから世界大戦になった」
という単純な構造ではありませんでした。
むしろ、
ドイツ
ロシア
フランス
イギリス
オーストリア=ハンガリー
オスマン帝国
などの大国が、それぞれ自国の安全保障と勢力圏を拡大しようとしていました。
そして、
一つの地域紛争が大国間の同盟関係を通じて拡大した
のです。
現在も、
ロシア
↓
ウクライナ
↓
NATO
↓
アメリカ・欧州
という構造があります。
中東でも、
イスラエル
↓
イラン
↓
米国
↓
湾岸諸国
↓
ロシア・中国
という複雑な関係があります。
つまり現在の危険性は、
「戦争が一つあること」よりも、「複数の地域紛争が大国間競争によって連結されていること」
にあります。
5.そして「1970年代」も非常に似ている
実は私は現在を理解する上で、1930年代と同じくらい1970年代が重要だと思います。
1970年代には、
ベトナム戦争
石油危機
インフレ
スタグフレーション
中東戦争
イラン革命
ソ連の軍事的拡張
アメリカの国力への不安
社会不安
政治への不信
が重なりました。
つまり、
「経済危機+戦争+エネルギー危機+政治不信」
です。
これは現在にもかなり近い。
現在も、
ウクライナ戦争
+
中東戦争
+
エネルギー問題
+
インフレ
+
格差
+
移民問題
+
既成政治への不信
が重なっています。
6.そしてトランプの「America First」は1930年代だけではない
ここは少し慎重に考える必要があります。
トランプのナショナリズムをそのままファシズムと呼ぶのは、歴史的には雑すぎます。
しかし、
「自国の利益を最優先し、国際的な同盟や国際機関を相対化する」
という思想には歴史的な系譜があります。
1930年代にも、
「自国経済を守る」
「外国との競争を制限する」
「国際機関に拘束されたくない」
「自国の主権を最優先する」
という考え方が強くなりました。
現在のトランプ政権についても、欧州への関与を従来とは違う形で捉え、欧州の民族主義・ポピュリスト勢力と思想的な接近を見せているとの分析があります。
ただし、1930年代との決定的な違いもあります。
現在のアメリカには、
選挙制度
議会
裁判所
州政府
民間メディア
市民社会
などの巨大な制度的抵抗力があります。
したがって、
「トランプ=ヒトラー」
という比較ではなく、
「1930年代型のナショナリズムが、21世紀の民主主義国家の中で再び強くなっている」
と考えたほうが歴史的には正確です。
7.現在の世界を歴史的に並べると、こう見えます
第1段階
第一次世界大戦前
「大国間競争」
↓
第2段階
第一次世界大戦
↓
第3段階
1920年代
「国際協調・平和の構築」
↓
第4段階
1930年代
「経済危機+民族主義+権威主義+国際秩序崩壊」
↓
第5段階
第二次世界大戦
↓
第6段階
1945~1970年代
「アメリカ主導の国際秩序+米ソ冷戦」
↓
第7段階
1979~1980年代
「冷戦再激化+中東危機+軍拡」
↓
第8段階
1990~2000年代
「アメリカ一極・グローバル化」
↓
第9段階
2010年代~現在
「一極世界の終焉」
↓
第10段階
現在
「多極化+ナショナリズム+地域戦争+国際秩序の再編」
という流れです。
8.では、現在は「第三次世界大戦前」なのか?
ここは非常に慎重になるべきところです。
私は、
「1939年直前と同じ」とまでは言えない
と思います。
理由があります。
1930年代と違って現在は、
① 核兵器がある
米国・ロシアなどの核保有国同士が直接全面戦争をすることには巨大な抑止力があります。
② NATOが存在する
1930年代の国際連盟よりはるかに強力な軍事同盟です。
③ 経済的相互依存が非常に大きい
完全なブロック経済になっていません。
④ 民主主義国家がまだ圧倒的に多い
1930年代のヨーロッパほど独裁体制が広がっているわけではありません。
だから、
「1930年代の再来」ではない。
しかし、
「1930年代に見られた危険な現象の一部が再び現れている」
という評価なら、かなり妥当だと思います。
9.むしろ一番危険なのは「1930年代+1914年型」が混ざること
私はここが現在の最大のポイントだと思います。
1930年代型:
ナショナリズム
+
移民問題
+
経済不安
+
政治不信
+
強い指導者
に加えて、
1914年型:
大国間競争
+
軍拡
+
同盟関係
+
地域紛争
が重なっています。
さらに1979年型の、
中東危機
+
エネルギー危機
+
米露対立
も加わっています。
したがって現在は、歴史上の一つの時代に似ているというより、
「1914年・1930年代・1979年の危険な要素が同時に存在している時代」
と考えると非常に分かりやすいです。
そして、もう一つ非常に興味深い問題があります
現在の世界情勢をさらに深く考えると、
「なぜ人々は右派・ナショナリズム・強い指導者を支持するようになるのか?」
という問題に行き着きます。
これは1930年代を理解するうえでも核心でした。
そして現在も、
グローバル化
↓
産業構造の変化
↓
中間層の不安
↓
格差
↓
移民問題
↓
既成政党への不信
↓
「自国を取り戻せ」という政治運動
という流れが見えます。




