第98話 囮の晩餐会
オレリア王女は王様の女性近衛騎士を呼んで、離宮で夜会を開くことになった。
騎士の名前はリデアさん。なんでもオレリア王女が小さい頃に遊び相手になってくれた人で、今でも交流がある。
リデアさんは夜会の後も、オレリア王女と一緒に離宮で就寝することになっている。もちろん囮のことも説明済みだ。
オレリア王女は、王様――ザイウス王にはまだアルベール王子のことを話していない。
証拠がないのだ。俺が鑑定してアルベール王子がデーモンエンペラーだって言っても信じないだろう。
かといって、ザイウス王のお抱え鑑定士のジルでは、鑑定レベルが低くて、デーモンエンペラーの偽装を見抜けない。
みんなの前で祝詞を使えば、デーモンの偽装を解くことができるが、そのままレベル九十のデーモン達が大暴れしたら、俺達はともかく王宮は壊滅だ。
あれ? もう積んでないか?
どうにかして、王族やまだ無事な貴族を保護して、デーモン達と戦わないといけない。
それにどうしてデーモン達はここまで根を伸ばしているのに、暴れないのだろうか?
国民にばれないように、王国を乗っ取るつもりなのだろうか?
だとしたらデーモン達にどんなメリットがあるんだ?
まだデーモンが何を考えているのかわからないけど、デーモンか人間かを選別するには、鑑定スキルをもつ者が多いに越したことはない。
……いるじゃないか。鑑定スキルを持つ者なんてたくさん。
俺は一度国境都市まで戻り、師匠に声をかけ、デーモン掃討作戦に参加できるプレイヤーを集めてもらうことにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆
そして夜になり、離宮で夜会が行われた。
夜会とは晩餐会である。
離宮に豪華な食事が振る舞われ、なんと俺達も参加だ。
リデアさんは友人の女性騎士を二人連れてきており、襲撃者対策もバッチリ……なのか?
相手は高レベルのグレーターデーモンなんだけど……
装備も鎧装備せず、騎士服を着て、腰に剣をぶら下げているだけだ。
まぁ鎧なんて平時に着てないよな。
「まぁ! これは何て食べ物なのでしょうか? とても美味しいです!」
女性騎士の一人が、ミートパスタを食べて、幸せそうな顔をした。
それはネット通販で購入したパスタとレトルトのソースだ。
しかしレトルトを侮るなかれ。日本の大企業が研究に研究を重ねて作った努力の結晶である。
美味しいに決まっている!
「こちらのお肉も美味しい」
それは冷凍ハンバーグ。ちょっと高めのやつだから、こっちも美味しいはずだ!
「さすがオレリア様です。こんなに美味しいものは初めてです」
「ふふ。デザートも楽しみにしてください」
「それはもう!」
最後はネット通販で買ったケーキを食らうがいい! 結構高かったんだぞ!
備蓄しておいたやつがあってよかった。
時間経過しないアイテムボックスに感謝だな。
対価で金貨をもらったけどな!
オレリア王女との商売が始まる気がする……
俺は腹八分目も食べずにみんなから離れた。
そしてこっそり式神達を呼んで、外に配置した。
呼んだのは近接が得意なクリスとシルヴィアだ。
夜中に魔法で派手に暴れたら、すぐに逃げてしまうかもしれない。
童子二人も近接が得意だけど、見た目はこっちで言うとオーガだからな。召喚して疑われたらまずい。
だから琴音は召喚しないで、オレリア王女の側にいる。
「ねぇ。ちょっといい?」
アリサさんが話しかけてきた。ちょっと顔が赤いな。
「お酒飲んだ?」
「え? ちょっとだけね」
「ちょっとだけならいいか。で、どうした?」
「昼間はありがとうね。守ってくれて」
「あぁ。こっちこそ悪かった。抱き寄せる形になって」
「あれね! ちょっとびっくりしたわよ! でも……ちょっとだけ、かっこよかったわよ」
「やっぱ酔ってない?」
「酔ってない! とんだ褒め損だわ! こんなこと滅多に言わないのに!」
「悪かったよ」
「ねぇ。気づいてる?」
「ん?」
「オレリア王女が時々早川に熱い視線を送ってるの」
「え?」
「ダメだこりゃ。あんた本当に琴音ちゃんしか見てないのね!」
「まぁそうだけど」
「……くっ。なんかムカつく! 琴音ちゃんが羨ましいなぁ。私も早川みたいに一途に思ってくれる人が欲しいな」
「それ、配信で絶対言っちゃダメなやつ」
「まぁ彼氏募集中は言う人いるわよ。今いませんアピールになるし」
「なるほどなって! おいいっ!」
外に呼んだはずのクリスが、ちゃっかり席に着いて、デザートのケーキを食べているんだけど!
「クリス!」
「ちょっと早川!」
俺はアリサさんを無視して、ズンズンとクリスの元へ急ぐ。
突然現れたクリスに、リデア達は警戒して剣に手をかけたが、オレリア王女が護衛だと説明すると、ようやく手を離した。
オレリア王女も元デーモンロードのクリスを、どう扱えばいいか困っているようだった。
無理もない。今は敵対してないが、元デーモンロードだからな。若干体が震えているのは気のせいではないだろう。
「クリス! 外で待機だろ!」
「……しゅーいち様。外は寒い」
「そうです! こんな小さい子に外にいろだなんて! 鬼畜ですか!?」
女性騎士の一人に怒られた。
「クリスちゃんって言うのね。お菓子いっぱい食べる?」
「……食べる! お姉さんいい人。絶対守ってあげる!」
「あら。可愛い。私達も強いのよ」
「……? そうなんだ」
クリスと女性騎士に力量差があるからな。クリスはキョトンとした後スルーした。
こいつ絶対面倒だと思って、会話を放棄したな。
ドンと激しい音がした。
刀を抜いて振り返ると、窓にへばりついているシルヴィアがいた。
さっきの音は、壁を叩いた音みたいだ。
「ずるいぞ!」
仕方ないのでシルヴィアを中に入れた。
「獣人!?」
「大丈夫です。彼女も頼もしい護衛です」
オレリア王女は若干頭を抱えつつ説明してくれた。
「シルヴィア! 見張りはどうした!?」
「美味しそうな匂いがした! クリスも食べるのに私だけ外は……はっ! これはお仕置きか! いや、こういうのは嫌だ!」
「何あれ……」
「お仕置きって何?」
「いや、シルヴィアはいつもよくやってるぞ! 見張りを放棄したのはダメだが……」
「ならお仕置きだな! お尻でいいぞ! いつでも覚悟はできているぞ!」
「え? 変態?」
「うわぁ」
「何あれ?」
リデアさんと女性騎士達の視線が痛い。
「シルヴィア! お前! いい加減にしろ!」
「あぁ! 怒られるのも……いい!」
「あの……シルヴィアさん。こちらに来て一緒に食べませんか? ダンジョンでは助けてもらったので、ご褒美です」
「いいのかっ!」
シルヴィアが尻尾をブンブン振って、オレリア王女達の元へ駆けて行った。
「何か辛いことでもありましたか?」
オレリア王女が心配そうに聞いた。
そういえばダンジョンに行った時は、奇行に走らなかったしな。
「え? うーん。最近ご主人様がお仕置きしてくれない」
「……お仕置きとは?」
「お尻に鎖を刺して電撃を流すんだ!」
「えっ!?」
「最低!」
「そ、そんなことされたのですか?」
「うわぁぁ……」
「え? 百年の恋も覚めるというのは、このことですね……」
女性騎士達はおろか、オレリア王女もドン引きしていた。
「みんなご主人様のこと馬鹿にした?」
「
「ち、違うんだ! アレは事故だったんだ! なぁ琴音!」
「私は別の敵と戦ってたからねぇ」
琴音が味方してくれない!
「秀ちゃんは式神をもっと教育するべきだよ。だからこんな状況になるんだよ」
「ぐ……わかった……」
「それは私も思うなぁ。配信でも評判悪いし」
アリサさんまでジト目になって不機嫌そうだ。
さっきまで機嫌良かったのに。
「みんなご主人様を悪く言うのはよせ」
急にシルヴィアの雰囲気が変わった。なんだろうこの懐かしい感じは。
「確かに私の趣味は異常だ。でもご主人様はそんな私でも側に置いてくれる。見捨てないでくれる。獣だった私を人間にしてくれた」
それはいつの頃に話だ?
俺の前世がシルヴィアを式神にした時の話か?
「私が笑えるのも、馬鹿なことができるのも、全てご主人様のおかげだ。だからご主人様を悪く言うのは許せない」
シルヴィアから異常なほど妖気が発せられた。デーモンロードと同じくらいの圧倒的な妖気が。
俺や琴音はいいけど、アリサさんはキツそうだ。
オレリア王女達の顔は真っ青だ。
「シルヴィア!」 妖気を抑えろ! 囮作戦が台無しになる!」
これは囮なんだぞ!
「全く。後できっちり教育だ! 体罰以外でな!」
「そ、そんな……」
「わ、わかりました。えっと……」
王族は軽々しく謝れないのだろう。女性騎士達が割って入って頭を下げた。
「ごめんなさい」
「非礼を詫びる」
「すまない」
「わかった! じゃあこれ食べていい?」
「えぇ。いくらでも」
シルヴィアはテーブルに並べられていた料理を美味しそうに食べ始めた。
主に俺が用意した奴を……
そんな様子を見ていると、 離宮の周りに複数の気配が現れた。
「秀ちゃん!」
「ああっ!」
寝静まってから来るかと思ったら、裏をかかれた。
こっちが待ち構えていると知ってたら、いつでもいいってことか?
「オン・アグニ・カジャラヤ・ソワカ! 天より降りよ、邪鬼断罪の刃! 召刃・天焔業刀! 急急如律令!」
「オン・カシャ・ザンマ・ソワカ! 天より降りよ、災厄を断つ刃! 召刃・天雷鳴刀! 急急如律令!」
俺と琴音は愛刀を召喚して身構えたその時、窓や壁が静かに崩れ落ちた。
魔法かそれともデーモンのスキルか!?




