第99話 夜襲
崩れた壁や窓から、黒装束の人影が入ってきた。その数十。
昼間に襲ってきた奴らと同じく、黒いローブを羽織り、抜き身の剣を持っていた。
狐鈴も気配に気づいていたのか、奴らが侵入してきたころには、オレリア王女達を中心に、女性騎士達も包み込むように結界が完成していた。
「……ケーキのお礼はする。オン・ヴァジュラ・ソワカ」
クリスは召喚した大鎌をクルクルと回転させ、狙いをつけた襲撃者に向かって突っ込んだ。
「……えい」
気の抜けた声を共に、黒装束の襲撃者を一刀両断。
続けて側にいた黒装束も、大鎌を回して切り捨てた。
絶命したデーモンは、人として化けることが出来なくなり、グレーターデーモンの姿に変わっていく。
クリスの戦いを見とれている場合じゃない。
黒装束の襲撃者が、俺にも剣で斬りかかってきた。
俺は刀で剣を受け流し、襲撃者の体勢が崩れたところに、刀を斜めに斬り上げた。
「昇月!」
襲撃者の腕が宙に飛び、俺は返す刀で横薙ぎに刀を振るった。
「月環刃!」
「グウアアッ!」
刀は襲撃者を切り裂き、上下に分けた。
襲撃者は断末魔を上げると同時にグレーターデーモンの姿になり、こっちに倒れ込みつつ、最後の力を振り絞って噛みつこうとしてきた。
しかし俺はその首をはねつつ避ける。
そこへ仲間の死骸の陰から、別のデーモンが襲い掛かってきた。
その表情はどこか狂気を感じた。
「くっ!」
「……アイス・ピラー!」
アリサさんが放った氷の錐が、下から襲撃者を貫いた。
「ナイスだ!」
俺は刀を横薙ぎに振るい、襲撃者の首をはねた。
「私だってやれるのよ!」
辺りを見ると、残りの襲撃者は琴音とシルヴィアが倒していた。
「人がデーモンに……その黒装束は」
リデアさんが結界から出ようとしたその瞬間。狐鈴がリデアさんを腕をつかんだ。
「まだ終わっておらん」
そう。まだ離宮のまわりに気配がある。
壊れた壁の外から、複数の青い火球が飛び込んできた。
「もうなりふり構ってられないってか!」
俺は札をばら撒き、手印を結ぶ。
「オン・ラハラ・ソワカ! 札よ。壁となれ! 急急如律令!」
短い呪文で済むが、障壁としては威力は弱い。それでも相殺くらいはしてくれる。
青い炎は、札の障壁に防がれて、小爆発が連鎖的に起こった。
その爆発の中から、襲撃者が再び飛び出してきた。
一対一ではかなわないと思ったのだろう。三人の襲撃者が琴音へ襲い掛かった。
「琴音!」
俺は琴音に襲い掛かる襲撃者を一刀両断。
琴音は襲撃者の剣を刀で弾き、もう一人の襲撃者の前に札を放つ。
「オン・タラカ・ホン! 爆破符・焔散! 急急如律令!」
爆風が襲撃者を吹っ飛ばした。
後方でアリサさんが呪文を唱え始めた。
「あまたに漂う風の精霊よ。天空より御下りて敵を撃て。来たれ、蒼き稲妻! ブルー・ライトニング・レーザー」
吹っ飛んだ襲撃者に青いレーザーが突き刺さり、貫通したレーザーが離宮から飛び出し、遠くの方で爆発が起こった。
「あ! やばい!」
しかしそれが功を奏したのか、遠くから足音や怒鳴り声が聞こえてきた。
「何事ですか!」
騎士達が離宮に詰めかけてきた時には、デーモン達は全て倒されていた。
「敵襲です! 第一暗殺部隊に扮したデーモンが……」
騎士が剣を抜き、ホッとして結界から出た女性騎士に斬りかかった。
「……え?」
「待て!」
俺は女性騎士の前に飛び出し、刀で騎士の剣を弾き、横薙ぎに刀を振るった。
騎士は後ろに下がって、俺の斬撃を避ける。
「デーモンか!」
「いかにも。首を突っ込まなければ、死なずに済んだものを」
「パワー・チャージ!」
スキルを強化してから鑑定スキルを使った。『デーモンジェネラル・レベル120』
「オン・アーラ・ヴァジュラ・カーンタ・ソワカ!」
俺は琴音に目配せしながら、呪文を唱えた。
「ふははっ! 面白い術を使うな!」
「浄化の光輪により、穢れを焼き、闇を祓う! 妖魔討滅! 浄刃・陽光輪! 急急如律令!」
俺は浄化の炎が宿った刀を上段に構え、ダンッと踏み込むと同時に袈裟斬りに刀を振り下ろした。
「天割断!」
「ふんっ!」
デーモンジェネラルは剣で俺の斬撃を受け止めた。
俺はすぐさま身を低くしながら、その場で回転するように剣を振るった。
「月環刃!」
デーモンジェネラルは軽く飛んで避けつつ、剣を唐竹に振り下ろした。
俺は紙一重で避けつつ後退し、代わりに琴音が矢のような突きを放ちつつ前に出た。
「穿牙!」
デーモンジェネラルは避けられる体勢ではない。
「ぐっ」
琴音の刀がデーモンジェネラルの肩に突き刺さる。
「雷閃斬!」
琴音は刀が突きさしたままスキルを発動させると、刀が稲妻に包まれた。
「ぐあぁ!」
琴音はそのまま袈裟斬りに振り落とし、足を踏ん張りつつ曲げ、体を伸ばしつつ刀を斬り上げた。
「紅蓮撃!」
今度は琴音の刀が炎に包まれ、デーモンジェネラルを焼き斬る。
「白刃天斬!」
琴音の連撃は続き、純白の光に包まれた刀が、デーモンジェネラルを下から斬り裂いた。
よろけたデーモンジェネラルの口元が、ニヤリと歪んだ。
「琴……」
「氷華突!」
琴音の刀がデーモンジェネラルの胸に突き刺さり、刀から氷の槍がいくつも放たれ、背中を貫通した。
「見事……」
いや、途中からデーモンジェネラルは手を抜いていた気がする。
そして最後の笑み。あれはいったい……
「……何が見事よ」
琴音も気づいているみたいだ。
あれではまるで自殺みたいじゃないか。
今日襲撃してきたグレーターデーモンだって同じだ。あんなに簡単に倒せるはずがない。それにあの狂気じみた顔。
一体どうなっているんだ……




