第100話 終わらないデーモン襲撃
救援に来たと見せかけた騎士達、いや、デーモン達を倒しても、離宮での戦いはまだ続いていた。
とめどなく襲い掛かってくるデーモン達。
もう暗躍するのは諦めたのか?
「円月斬!」
俺は迫りくるグレーターデーモンに向かって一歩踏み込み、刀を横薙ぎに振るった。
グレーターデーモンは俺が踏み込んだことによって間合いが狂い、その腕を振り下ろす前に、腹を斬り裂かれた。
「紅蓮撃!」
俺は魔力を刀に込めながらスキルを発動。返す刀が途中で炎に包まれ、グレーターデーモンの胸を切り裂いた。
肺を焼かれたグレーターデーモンは、口から炎を吐き、身もだえた。
俺は更に刀に魔力を込める。
「雷閃斬!」
バチバチと刀に稲妻が宿る。
俺は一歩踏み込むと同時に、刀をグレーターデーモンの腹に突き刺した。
稲妻がグレーターデーモンの体中を駆け巡り、黒焦げにして焼き殺した。
「……神々の御力を奉りて、禍事・罪・穢れを祓い給え、鎮め給え。恐み恐みも申す」
琴音が祝詞を唱えると、そこら中に散乱しているデーモンの死骸が塩に変わっていく。
「ふぅ……」
琴音の顔に隠せないほどの重い疲労が見える。
アリサさんも立っていられず、座り込んだ瞬間、気絶するように眠りに落ちた。
俺はアリサさんを抱き上げると、狐鈴が張った結界の中にそっと横たえた。
「もう何度目の襲撃だ……」
外を見ると、うっすらと明るくなってきていた。
元気なのは式神達だけだな。
俺はシルヴィアやクリスだけじゃなく、アシリアとジャネットを呼びだしていた。
エリスとセリーニも呼び出したいところだけど、残りの呪力が厳しい。
「流石に終わったか?」
俺は離宮から出て辺りを見渡すと、違和感を発見した。
「え……」
騎士服を着た男達が十人ほど集まって、輪になって呪文詠唱している。
どうみても普通じゃない。騎士が呪文? 急いで鑑定スキルを発動すると、グレーターデーモンと表示された。
「まずい! 琴音! 外だ!」
俺は全速力で走りながら呪文を唱える。
「オン・アマリタ・シンダラ・ボダナン・ソワカ!」
射程距離まで到達すると、止まってババっと手印を結ぶ。
「オン・クティラ・カラシャナ・バザラ・サトバ・ソワカ!」
騎士達の周りに、円を描くように巨石が地面から生えた。
馬鹿な! あれはアストラルゲートか!? 地中に隠していたのか!
「天光満ちる神威の刃。穢れを断ちて輪廻を正す! 浄天滅闇! 悪鬼退散! 急急如律令!」
俺の頭上に梵字と幾何学模様で構成された、巨大な魔法陣が展開した。
そして魔法陣から光の剣が次々と放たれ、巨石に向かって飛んで行く。
完成する前に壊れろ!
しかし俺の願いは届かなかった。
グレーターデーモンが盾となって光の剣を受け止めた。
何発か光の剣が巨石に命中したが、ビクともしない。
見た目でだまされた。ただの石じゃないぞ。
そして巨石が発光し、アストラルゲートからデーモン達がゾロゾロと現れた。
「まずい……」
現れたデーモンはレッサーデーモンなど下級のデーモンが多いが、人に化けていないから、瘴気を撒き散らしている。
「秀ちゃん! とりま祝詞!」
「了解! アシリアは琴音のガード! 残りはデーモン達を片付けるぞ!」
俺は呪力を温存するために魔法に切り替え、琴音に向かってくるデーモンをアシリアと一緒に倒す。
だがアストラルゲートから、デーモン達がどんどん出てくる。。
ジャネットとシルヴィアがアストラルゲートを破壊しようと前に出るが、さすがに辿り着くには時間がかかりそうだ。
そうこうしているうちに、デーモン達が四方八方に散らばっていく。
鑑定スキルを発動させると、レベル四十から六十代くらい。
王宮にいる騎士や魔導士じゃ歯が立たない。虐殺されてしまう。
狐鈴は王女とアリサさんを守っている。呪力がもたないかもしれないけど、エリスを出すか?
「がーはっはっはっ!」
「あーはっはっはっ!」
祝詞を唱え終えた琴音が、童子達を呼び出した。
「ごめん。騎士や魔導士から敵判定されたら逃げて!」
「承知!」
「問題ない!」
童子二人がデーモンの群れに突っ込むが、数の暴力はどうしようもない。
デーモン達はとうとう中庭から、王宮へ雪崩れ込もうとしていた。
守り切れない。
そう思ったその時――
「オン・ラーヴァ・ソワカ!」
聞き覚えのあるチャラいおっさんの声がしたかと思うと、デーモン達の足元に五芒星の光が浮かび上がった。
その次の瞬間、轟音と共に火柱が上がる。こっちまで熱が伝わってくるほどの威力に、デーモン達は一瞬にして焼き尽くされた。
「ぬおおおおおっ!」
キャサリンさんが錐揉みしながら空から降ってきて、アークデーモンを押し潰した。
もはや人類とはかけ離れたマッチョだ。
「はああっ!」
そのままキャサリンさんは、近くにいたレッサーデーモンに正拳突きをぶちかますと、レッサーデーモンは粉々になって吹っ飛んだ。相変わらずデタラメすぎる。
「カーニバルの時間だよ!」
レンさんの声が聞こえたと思ったら、中庭に生えている木々が見る見るうちに成長して、デーモン達の行手を阻んだ。
「秀一君! 助けに来たわよ!」
今度はまどかさんが空から降ってくると、呪文を唱え始めた。
すごい魔力だ。その分詠唱も長い。
「まどかは私が守る!」
凛さんが遅れて降り立ち、襲いかかってくるデーモン達を次から次へと切り捨てた。
「……破壊の権現となれ! ディストゥラクション!」
まどかさんがアストラルゲートに向けて、巨大な光球を放った。
耳をつんざく轟音と共に視界が真っ白になり、次の瞬間爆風が吹き荒れた。
「いえい!」
アストラルゲートはだいぶボロボロになっていたが、まだ健在だった。
「ありゃ? あのゲート頑丈だなぁ」
まったくだ。一体どんな素材でできているんだ……
それでもまどかさんの魔法によってデーモンの数がだいぶ減ったみたいだ。
「助かったよ」
「いいよいいよ。もう一発撃って破壊したいところだけど……」
まどかさんは空を指さした。
プレイヤー達が空から駆けつけてくれた。彼らは次々と下りて、デーモン達に襲いかかった。
そのまま空から魔法でアストラルゲートを狙撃する人もいる。
「よう。秀一。遅くなったな」
師匠が呪弓を構えて矢を放つと、デーモンジェネラルの上半身が吹っ飛んだ。
「師匠!」
「おいおい。お前ら、詰みかけてただろ」
「いや、その……」
「よく頑張った。後は任せておけ。お前は呪力を回復させとけ。まだ何が起こるかわからねぇ」
そう言って師匠は俺に札を放った。
札は俺の胸にピタッと張り付き、徐々に呪力を補填してくれた。
「ありがとうございます」
「んじゃ、やりますかっと」
師匠は弓をアイテムボックスにしまい、錫杖を取り出した。
「オン・シュバラヤ・ハラ・ハラ・ソワカ」
そして錫杖でココンカンカンと叩くと、地面から水が湧き出た。
「水気、玄冥の冷にて敵を穿て」
湧き出た水が、氷柱となってデーモン達を貫いた。
「木気、生の理にて芽吹け」
水の柱から根や蔦が生え、周りのデーモン達に巻き付き、貫き、縛り上げた。
「火気、業を燃やし、煉獄となれ」
根や蔦が一斉に燃え上がった。超高温の青い炎だ
「金気、白刃化せ。刃となり矢となり、邪を穿て」
炎が集まり、高熱の剣となり、生き残っているデーモン達に襲いかかった。
俺の五行とはレベルが違う。詠唱も短い上に、全てが攻撃的で殲滅力も桁違いだ。
師匠は俺を見てニヤリと笑った。真似てみろってことだ。
アストラルゲートからデーモンが現れなくなり、やっと終わったかと思ったら、立派な服を着た人が転送してきた。
「まったく、やってくれたな」
そいつはアルベール王子……いや、アルベールだった。




