第96話 王宮に蔓延るデーモン
翌日俺達は、エイに乗って隣の街まで移動し、そこからアストラルゲートを使って王都まで飛んだ。
メンバーはオレリア王女、レオナ、カイゼル、ガデス、それと名前がわからない騎士や魔導士が五人。
こっちは俺、琴音、狐鈴、アリサさん。式神達は一度戻ってもらった。
ライブ配信はしばらく中止することになった。なぜならデーモンが人間に化けている。そうなるとデーモンと戦っていても、視聴者目線だと、人と斬り合っているように見える。配信でそれはまずい。ライブスフィアからもアカウント削除対象になってしまう。
ライブ配信はしないけど、上手いこと切り抜いたり、つなげたりして、動画として残すようにする予定だけどね。
案内妖精が撮影のために、辺りを飛んでいるけど、俺達にしか見えてないから、問題ないだろう。
王都に着くと、昨日の内に事前連絡がいっていたようで、アストラルゲートには豪華な馬車が複数停まっていた。
オレリア王女はレオナと、もう一人の女性騎士と共に馬車に乗り込んだ。
そして俺達も後続の馬車に乗り込んだ。
王都の道は舗装されていたけど、乗り心地はあまりよくなかった。
ガタガタと揺れるたびにお尻が痛い。
「結構揺れるぅ」
琴音の顔がぶれて見える。これは酔うぞ。
「サスペンションとかないからなぁ」
「舌噛みそうね」
「うむ。あだっ!」
狐鈴は一度舌を噛んだ後、黙りこんだ。
俺達はこっそりアイテムボックスからクッションを取り出して、お尻の下に敷いた。
エアテントの内装を用意する時に購入していて良かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
事前連絡が行き届いていたためなのか、王城へ入るのも、王がいる謁見の間へもすんなりと通された。
謁見の間に入ると、奥へ伸びる真っ赤な絨毯がまず目に入った。その絨毯の脇に、貴族っぽい人達がずらりと並んでいた。その後ろにも貴族の従者達が待機していた。
オレリア王女から教わった通り、俺達は顔を上げず、下を向きながら進み、オレリア王女が止まったところで跪いた。
合図があるまで、顔を上げてはいけないらしい。
「お父様。ただいま戻りました」
「おぉ。オレリア。よくぞ戻った。皆の者。面を上げよ」
俺達は顔を上げた。
玉座には短く整えられた髪に、厚みのある肩をした、壮年の男が座っていた。
年齢は四十半ばくらい。白髪はなく体つきは現役の騎士のように引き締まっていた。強き王であろうとする気概すら見える。
その隣には一回り年下に見える王妃が座っていた。
王は威厳に満ちていているが、王妃はオレリア王女を慈愛に満ちた目で見ていた。
「ふむ。噂の協力者は本当に女子供なのだな」
「彼らは腕は本物ですよ。ねぇ。カイゼル」
「はっ! 私も彼らの活躍を目の当たりにしました。国境都市での奮闘とダンジョンでの戦いは、正に人智を超えるものでした」
「そうか。ではオレリアの口から報告を聞こうか」
「ベリル銀鉱を占拠していた、デーモン達を掃討してきました。もう彼の地にはデーモンはいません。その証拠をここに」
ガデスが一歩前に出ると、王宮の小間使いらしい人達が、大きな台を持ってきた。
ガデスは真っ白な神々しい手袋を身に着けると、台の上にデーモンの角を次々と取り出して置いていった。
あの手袋って聖属性だったりするのかな?
俺達素手で掴んでたけど、大丈夫だよな? バッドステータスとかついてないし。
「おぉ……」
貴族達から驚きの声が上がった。
台の上は、デーモンの角で小山が作られていた。
「これがグレーターデーモンの角になります」
更に大きく禍々しい角を小山の横に置いていく。
「最後に……これが……デーモンロードの角です」
ガデスはグレーターデーモンの角より、一回り大きな角を台の上に置いた。
「これは……」
「なんて禍々しい……」
貴族達から不安そうな声が漏れた。
「本物かどうか鑑定させてもらおう」
そう言ったのはアルベール王子だ。
二十代半ばの金髪イケメンに見えるが、中身はデーモン。鑑定スキルを使ったら、『人間・レベル32』と表示された。
おかしい。鑑定スキルを使うまでもなく、禍々しいオーラを感じる。
こっそりパワー・チャージでバフをかけてから、再び鑑定スキルを使うと、『デーモンエンペラー・レベル180』と表示された。
ステータスの偽装か。そうじゃないと、王宮にいる鑑定スキル持ちにすぐばれるよな。
今までバレていないってことは、高レベルの鑑定スキル持ちの人間がいないってことか。
ちなみに俺の鑑定スキルのレベルは三。パワー・チャージを使って一時的に五になる。
王子お抱えの鑑定士らしき人が前に出てきた。
こいつにも鑑定スキルを使うと、『グレーターデーモン・レベル90』。
やっぱりそうか。こいつが鑑定すれば、偽物だと騒ぐに決まっている。
「必要ありません。こちら鑑定書です」
オレリア王女が言うと、レオナが王の従者に鑑定書を渡した。
それは俺が署名した鑑定書だった。
従者はそこに書かれた内容に驚きながらも、王に鑑定書を渡した。
「……鑑定者のレベルが八十八。鑑定レベル三だと?」
アルベール王子は少しホッとした顔になった。鑑定レベル三ならバレないと思ったのだろう。
デーモンにはバフを使わないのか?
「はい。信じられないと思いますが、この者がレベル八十八です」
オレリア王女に紹介されたので、俺は王に向かってお辞儀をした。
「早川秀一と申します」
みんなレベル八十八と聞いて、どよめいている。
この世界の住民による、レベルの最高到達点は四十七らしい。
「偽装ではないか?」
アルベール王子が鼻で笑った。
「ジルよ」
「はっ」
王にジルと呼ばれた男が、俺に向かって鑑定スキルを使った。
「信じがたいですが、この者はレベル八十八です。そしてその角もやはり本物です」
先手を打たれたアルベール王子は顔を険しくした。
俺は鑑定スキルをこの謁見の間にいるものにかけまくった。
まず王様と王妃様は人間だ。
絨毯の左右にいる貴族達は……三分の一がデーモンに成り代わっていた。
並び順からして、王子側の貴族っぽいな。
そして王子の側に控えている近衛騎士や近衛魔導士は全員デーモンだった。
ここで暴れられると厳しい。
「シューイチとやらよ。大儀であった」
「ありがたき幸せ」
返事はこんなんでいいのかな? いいみたい。
「まだだ。掃討したとか言っているが、本当に掃討したのか? 信用できんな。カイゼル。本当なのか?」
「はっ! この目で確かめてきました。しかし隠れているものがいるかも知れません。僭越ながら確認の兵を出すことを進言します」
「ちっ……」
カイゼルが答えると、アルベール王子は舌打ちした。
やけに人間くさいデーモンだ。それと上位のデーモンは人間っぽいのか?
デーモンロードは魂の核がクリスだったから気にしなかったけど。
「そうよの。オレリアの言うことは信用したいが、それでは皆が心配しよう。ディル。手配を」
「はっ!」
王様が言うと、伝令の兵らしい人が、早歩きで謁見の間を出て行った。
「では掃討したと仮定して、国境都市アザトスに援軍を送る準備を始めよう。撃ち漏らしがあれば、また討伐してきてもらうが、良いな」
「はい」
「うむ。三日後オレリアの労う宴を開く。皆存分に楽しむがよい」
解散間際、オレリア王女が一歩前に出た。
「お父様。一つお願いが」
「言ってみよ」
「そこに控えているお兄様の侍女ですが、カイゼルの妹です。カイゼルが少し兄妹で少し話がしたいと。護衛の褒美として、このまま連れて行っても良いですか?」
「好きにするがよい。部下思いの我娘に皆拍手を」
謁見の間に拍手が広がった。
これではアルベール王子は手が出せないだろう。




