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第94話 暗躍するデーモン達

「殺しはしない。お前、元式神なのか?」


「……意味がわからない」


 確かに。転生したら記憶はリセットされんだった。


 こうやって話をしている間にも、デーモンロードの体がジワジワと再生していく。

 ただ、角を折られたせいか、再生速度は遅い。


「お前、名前はあるのか?」


 俺は少し強めに言霊を乗せて聞いた。


「……クリス」


「オン・カンマニ・パドマ・シャリラ・ソワカ! クリスよ。調伏の印、いま結び奉《たてまつ》る。縁鎖《えんさ》・魂縛《こんばく》・理鎖《りさ》・封絶《ふうぜつ》・従命《じゅうめい》! 急急如律令!」



「……なっ!? なにこれ!?」


 デーモンロード……いや、クリスの欠けた角、蝙蝠《こうもり》の翼、尻尾が塩になってドサっと落ちた。そして体を取り巻いていた瘴気も消えた。

 クリスは悪魔的な特徴がなくなり、ただの銀髪赤目のゴスロリ美少女になった。

 ただ、凹凸のない体と童顔のせいで、少し幼く見える。

 

「おあっ!」


 尻尾や翼がなくなったせいか、なんとか立っていたクリスが、よろけて尻もちをついた。


「……翼と尻尾がないから……バランスが……」


「立てるか?」


 そういって俺はクリスに手を差し伸べた。


「……うん」


「お前はもう俺――早川秀一の式神だ」


「……このつながりは……私はもう、秀一様のものってこと?」


「そうだ」


「……わかった。ここにいても退屈なだけ……一緒についていく」


「クリス。ここで何をしていたんだ?」


「……待機」


「何のために?」


「……ギュゲスから連絡が来たら、王都を襲うため」


「ギュゲスってデーモンか?」


「……うん。アルベール王子に化けてる」


「この国を滅ぼそうとしてるのか?」


「……うん。アルベール王子だけじゃない。……多くのデーモンが人間に化けて入れ替わっている」


「なっ! なんですって!」


 いつの間にか側に来ていたオレリア王女が声を上げた。


「どういうことですか! 兄様は……アルベールは……」


「……だれ?」


「依頼主だ。詳しい話をしてくれないか?」


「……わかった。アルベール王子はもういない。ギュゲスが殺して入れ替わった」


「……っ!」


 オレリア王女は口に手を当て悲痛な顔になった。しかしそれも少しの間だけ。歯を食いしばって気丈に振る舞う。


「……そう……ですか……。あの優しかった兄様は……あんなことをする人じゃなかった。これで汚名を返上できます」


「詳しい計画を教えてくれないか?」


「……ごめんなさい。それくらいしかわからない」


「途中から計画に参加したのか?」


「……うん。というか、ずっと閉じ込められていた? 目覚めたのはつい最近?」


「私の時と同じだな」


 ジャネットがボソッと呟いた。

 クリスが首を傾げてジャネットを見た。


「私もずっと意識が曖昧な空間にいた。目覚めたら私はヒュドラとして暴れていた。そしてすぐに主様が駆けつけて、私をヒュドラから開放してくれたのだ」

「……仲間? 私もそう。気づいたらここにいて、役目が与えられていた」


 デーモンとしての記憶が植え付けられて、転生したのか?


「秀一様が来るまで暇だった。まぁやる気もなかったけど……」


「あなたらしいわね」


 エリスが目を細めて微笑んだ。


「……私を知ってるの?」


「えぇ。あなたは私達の仲間よ。愉悦乃神によって、無理矢理転生させられたの。記憶もリセットされているけど、もしかしたら思い出すかもしれない。結構強引に転生させてるみたいなのよね」


 無理矢理転生させられたから、記憶のリセットも不完全ってことか?


「……じゃあ。秀一様のことも思い出す?」


「絶対とは言い切れないけど」


「私は少し思い出したぞ」


 ジャネットが得意げに胸を張った。


「え! そうなのか!?」


 俺がジャネットを見ると、なぜかボッと真っ赤になった。


「うむ。主人様と……いや、恥ずかしくて言えない。あれは何かの間違いに違いない! そんなはずはない!」


 ジャネットは悶々とした後、頭を抱えて唸り出した。


「ちょっとどういうこと!?」


 琴音がジャネットに食って掛かった。


「いや、琴音様は関係ない。ずっとずっと昔のことだ。平安よりも前の……うぅ……もやっとする」


「ジャネット。もういい。あまり思い出すな」


「そ、そうだな!」


「秀ちゃん! どういうこと!?」


「俺に聞かれても……」


「クリス。とりあえず。妙光如来様の元へ行きましょう。ジャネット。あなたも一度戻った方がいいわ。一度一緒に戻りましょう」


「そうだな」


 俺は妙光如来様が創る浄土世界への扉を開くと、三人は戻って行った。

 さてと、もう一人だ。


「セリーニだったよな」


「はい。秀一様」


「セリーニはすでに配信デビューしてたりする?」


 コメント欄に月華様コールが凄いことになっている。

 月華ってセリーニのことだよな。

 応援コメント以外にも、なぜか『馬鹿な……』とか、『早く戻って仕事してください』とか、陰陽局のスタッフアカウントまであった。


「というか陰陽局の人?」


「デビューはしてませんが、陰陽局で働いていますので、たまに浄土世界経由で戻らせて頂きます」


「えっ! 帰れるの!?」


 アリサさんが会話に飛びついた。


「浄土世界経由なので、人間には無理です。成仏しますよ」


「そっかぁ。やっぱだめかぁ」


「セリーニ。月華と呼んだ方がいいのか?」


「こちらではセリーニで。月華は時が来たらお願いします。今その名で呼ばれたら……はぁ……はぁ……」


 セリーニは自分の体を抱きながら、蕩けた顔になった。目つきも危ない。

 一体全体どうしてそうなった!? 俺の前世とどういった関係だったんだ!?


「ちょっと! 秀ちゃんを変な目で見ないで! って、ひぃっ!」


 セリーニが琴音を見る目も怪しい。


「あぁ……琴音様も可愛い! 琴音様。ちょっと抱きついてもいいですか?」


「いや!」


「セリーニ!」


「はっ! 失礼。二人のチャンネルは開設当初から見ています。二人のファンだと思ってください」


「……あぁっ!」


 琴音が何かを思い出したみたいだ。


「秀ちゃん! セリーニって、たまに高額ウルチャくれる人だよ!」


「あっ! そうだ! 同じ名前だ!」


「ふふ。本当はもっと連打したかったのですが、周りがうるさくて……」


「ありがとうございます!」


「ありがとうございます!」


「頭を上げてください。あぁ……いや……これは……たまらん!」


 チャット欄に赤いウルチャで『月華様をお止めしろ!』、『一度送還してくれ!』と連打された。

 これは陰陽局の人達だよな。赤ウルチャで投稿ってことは、かなり切羽つまっているに違いない。


「セリーニ。すまないが一度戻ってくれ」


「そうですね。陰陽局で話をつけてきます」


 そう言ってセリーニは、自分で金の襖を召喚して戻っていった。


 俺と琴音は顔を見合わせて、しばらく黙り込んでしまった。


「なんだったんだ……」


「私達の熱烈なファンなのかな?」


「陰陽局の偉い人っぽいよな」


「そうみたいだけど、式神が働いてたの?」


「う~ん。さっぱりわからない。後で師匠に聞いてみるか……」


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