第93話 月華の策
「オン・チャンドラ・マハー・ヴァジュラ! 星月の座、月の軍人、采配を刻む霊軍将。ここに応えよ。来たれ! セリーニ! 急急如律令!」
くっ……真名ではない呪文を教えてもらったけど、呪力をごっそり持っていかれた。
黄金の襖が宙に現れると、タンッと開き、奥から同世代の女の子が現れた。
艶のある長い黒髪。まるでモデルのように整った顔立ち。
服装は白いワンピース。
清楚で可憐な女の子だ。
彼女は宙に浮いた襖から、まるでそこに階段があるかのように、空中を一段一段と降り、地面に立つと優雅にお辞儀をした。
「十二姫将が一人。月華。こちらではセリーニとお呼びください」
まるで計算されたような動作に、俺は一瞬目を奪われそうになった。
「あぁ。セリーニ。よろしく頼む」
「はい。秀一様。私、配信を見ていました」
「えっ! 配信を見てた!?」
「はい。ですから全て把握しています。少し失礼しますね」
セリーニはそう言って、狐鈴の元へ向かった。
狐鈴はオレリア王女を守るために、結界を張って動けない。
「狐鈴様。初めまして。セリーニと申します。以後お見知りおきを」
「む? お主、式だな」
「はい。秀一様の式神です。狐鈴様の配信もいつも見ていますよ。チャンネル登録もしています」
「おぉ! リスナーであったか!」
「突然で申し訳ないのですが、お願いがあります。この採掘場を包み込むような結界を張ってください。王女の守りは私が引き継ぎます」
「作戦があるのじゃな?」
「はい。これでも十二姫将の参謀でございます」
「うむ。わかった」
狐鈴は月華と入れ替わると、パンっと柏打って呪文を唱え始めた。
「オン・コウテン・カンダラ・ソワカ。八方を鎖し、九天を蓋せ。天蓋結界・金輪障壁! 急急如律令!」
狐鈴は両手で手印を結び、タタンタンと足で地面を叩いた。
すると採掘場の中心から透明な膜が膨らみながら広がり、俺達やデーモンロードをすり抜け、採掘場の壁まで広がると、油膜のように輝く結界になった。
「我は結界の維持に専念する。強力な術を放ってもダンジョンに影響はない。思う存分暴れるがいい」
「狐鈴様。ありがとうございます。オン・ヒラ・ヒラ・サマリ・ソワカ」
セリーニはオレリア王女達の周りに札を放って呪文を唱えると、梵字が浮かび上がり、柱のような結界が王女達を包み込んだ。
「みんな。セリーニの指示に従ってくれ」
「ありがとうございます。秀一様、琴音様、ジャネット、シルヴィアは近接でデーモンを抑えてください。アリサは妖炎爆雷を唱えなさい。エリスとアシリアはアリサに合わせて」
俺はセリーニの指示に従い、デーモンロードに向かって間合いを詰めと、既に琴音がデーモンロードと激しい斬り合いを繰り広げていてた。
「くっ! 強い!」
琴音の刀が弾かれ隙ができた。
「やらせるか!」
俺は琴音の隙を埋めるように踏み込み、刀を袈裟斬りに振るった。
「円月斬!」
「そろそろ飽きてきちゃったな」
デーモンロードの大鎌が真っ赤に光った。
俺の白く光った斬撃が、真っ赤に大鎌に弾かれる。
そしてデーモンロードは大鎌の柄頭で俺の腹を突いた。
「ぐっ!」
俺は咄嗟にシールドをオンにしてはじき返す。
「む。なんだそれ?」
しかしシールドは一気にレッドゾーンまで減った。
俺と琴音はいったん下がると、アリサさん、エリス、アシリアが広範囲な魔法を放った。
デーモンロードの周囲に狐火が降り注ぎ、次々と爆発していく。
更に六本の光の奔流が横に並んでて襲い掛かり、続いて光の球がばら撒かれ、次々に大爆発する。とてもじゃないが、避けきれないだろう。
デーモンロードはたまらずドーム状の結界を張ったが、今度はシルヴィアとジャネットが近接攻撃で結界を破壊した。
そこへ再び広範囲の術が叩き込まれ、ダンジョンに轟音が響き渡った。
炎と光が乱舞し、土埃が舞う。
「秀一様! アリサをガード!」
視界が悪くなったその瞬間、光と煙を斬り裂いて大鎌が飛来した。
狙いはアリサさんだ!
俺はとっさにアリサさんの前に飛び出し、刀で大鎌をはじき返した。
セリーニの指示がなかったら、間に合わなかったかもしれない
大鎌は上方に飛んで行ったが、途中で不自然に軌道を変え、デーモンロードの元へ返っていった。
「あ、ありがと……」
俺はアリサさんの言葉を無視して、デーモンロードに再び突っ込む。
その時、人型の式札がひらりと俺に追尾してきた。
通話の呪符か。
やはりセリーニの声が聞こえてきて、その後ボッと燃えて消えた。
「エリスとアシリアは援護射撃」
俺の脇をレーザーと光弾が追い抜き、デーモンロードに襲いかかった。
「シルヴィアとジャネットは左右から挟み込んで。琴音様は秀一様と連携準備」
「しつこいなぁ!」
デーモンロードはレーザーを避け、大鎌で光弾を弾き、俺に向かって突撃してきた。
「月矢穿」
俺は刀を腰だめにした後、矢を放つように、突きを放った。
デーモンロードが反応して避けようとする。
「クイック・ステップ!」
しかし俺はセリーヌのアドバイス通り、移動スキルを使って加速すした。
「はあっ!」
デーモンロードはよけきれずに、頭の両脇に生えている角に刀が突き刺さり、角が宙を飛んだ。
俺はデーモンロードの脇を駆け抜け、俺の真後ろにいた琴音が追撃をかけた。
「……妖魔討滅! 浄刃・陽光輪! 急急如律令!」
刀にリングのような光の波紋がいくつも現れた。
「はぁっ!」
デーモンロードは避けようとしたが、左右からシルヴィアとジャネットが挟み込み、動きが封じ込まれた。
その隙を見逃す琴音じゃない。
琴音の刀がデーモンロードの首に迫る。
それでもデーモンロードは身をひねってかわしたが、もう片方の角が宙を舞った。
「ドラゴンブレス!」
ジャネットが至近距離から吐いた炎が、デーモンロードを包み込み、
「ガルルッ!」
シルヴィアの巨剣がデーモンロードの尻尾を斬り飛ばした。
バランスを崩したデーモンロードに向かって、エリスのレーザーが翼を貫き、アリシアの浄化の光が身を焼いた。
ボロボロになったデーモンロードの前に立つと、デーモンロードは自嘲めいた笑いを浮かべた。
「……殺せ」




