第90話 不寝番と危険な朝食
夕飯を食べ終えて、食事の後片付けも終わったら、後は寝るだけだ。
不寝番は式神にお願いしてある。
レオナとカイゼルも不寝番を申し出てくれたけど、カイゼルが信用できないので断った。
ただ……式神が美少女なのがまずかった。
女の子に不寝番させて俺は寝る。
どんだけダメな奴だよって炎上した。
確かにそうだ。
式神を呼び出して見張らせると、女の子を呼び出して見張らせるでは全然違う。
やっぱり俺も不寝番をしようって言ったけど、明日のためにも体調を整えろって説得されてしまった。
自衛隊の訓練に参加してたから、これくらい大丈夫なんだけどな。
まぁ耐えられるだけで、辛いものは辛いし、体力の回復も必要だ。
体調管理が大事だってことで納得した。
エリスが配信に出てくれて、自分達は人ではないから大丈夫よって説明してくれたので、何とか炎上は収まった。
けれどエリス達って普通に寝るんだよな。
以前アシリアを呼び出した時に、寝てたことがあったし……
式神というより、普通の人間みたいだ。
もっと扱い方を考えないといけないな……
「それじゃあ。みんなよろしくな」
俺は後ろめたさを感じつつも、琴音と一緒にテントに入った。
「待ちなさい!」
アリサさんが俺の腕をつかんだ。
「ん? どうした?」
「どうしたって……琴音ちゃんと同じテントに入るつもり?」
「国境都市でも一緒のテントだったし……何か問題でも?」
「いや、でも未成年の男女が同じテントって……ダメじゃない?」
「アリサちゃん。今更だよ? それに私達恋人同士だし」
「えっと……その……」
アリサさんが顔が赤くなっていく。
「大丈夫! ベッドも分けてあるから。さすがにダンジョンでイチャイチャしないよ。ちょっと秀ちゃん成分は補充するけど!」
「あーもー! わかったわよ! リア充爆発しろ! お休み!」
コメント欄を見ると、秀ちゃん成分ってなんだよ! と怒りのコメントや怒った顔のマークが半分、もう半分は応援メッセージだった。
異世界配信する前も、応援のコメントをちらほらもらってたんだよね。
ほとんどが陰陽師の同僚と自衛隊の顔見知りだったけど……
他のカップルチャンネルだって、配信者を応援するようなリスナーが多かったし、仲がいいことで怒る人はいなかった。
でも今はカップルチャンネルのというより、異世界冒険チャンネルになってしまったから、リスナー層も変わってしまったってことか。
琴音のファンもだいぶ増えてきたしな……
「秀ちゃん成分は……内緒だよ? バイバイ!」
そう言って琴音は配信を閉じた。
リスナーのことなんて全く気にしていない。
そんな自由奔放なところも好きなんだよな。
「不謹慎です! 不潔です! 秀一殿はカイゼル達のテントに泊まるべきです!」
なぜかオレリア王女がご立腹だった。
「そもそも護衛なら不寝番をすべきです!」
狐鈴がオレリア王女の真後ろに立つと、面倒くさそうな顔をしてボソボソと呪文を唱えた。
するとオレリア王女、レオナ、カイゼル、ガデスがスゥっと倒れた。
睡眠の術を使ったな!
「まったくやれやれじゃな」
狐鈴はオレリア王女を後ろから抱きとめて、そのままエアテントに連れて行った。
狐鈴がボソッと呪文を唱えると、陰から管狐達が沸いて出るた。そしてレオナの元に集まって、その体を持ち上げ、狐鈴の後を付いていった。
俺は紅蓮童子と轟雷童子にお願いして、カイゼルとガデスをエアテントに運んでもらった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝エアテントから出ると、デーモンやよくわからないモンスターの死骸が山積みにされていた。
「がーはっはっはっ! 秀一よ。やっとお目覚めか!」
紅蓮童子のモーニングコールはやかましくて仕方ないな!
「ふはははっ! 天使共より多く狩ってやったわい!」
轟雷童子もだよ! まるで子供だ!
「アシリア達は?」
「あっちのテントで寝ておるわい」
紅蓮童子が予備のテントを指さした。
「ただ単にお前達が長く起きてただけとか?」
「我らは数日寝なくても問題ないのでな」
「うむ。天使共が見張りをしている間、ここら一帯のデーモンどもを狩りつくしてやったわい! ふははは!」
今度は轟雷童子がふんぞり返って豪快に笑った。
「それは助かるよ。目的は殲滅だからな」
「それなのだが、一つ下の層に強力なデーモンの気配がしたぞ」
「うむ。我ら二人だけでは倒せそうになかったのでな。近寄らなかった」
童子達と話していると、みんな起きてきた。
俺はお湯を沸かして、アイテムボックスからサンドイッチを出していく。
「……今日は結構です」
オレリア王女は不機嫌な顔をして断った。
「携帯食料を消費しないといけないので」
「スープはいりますか?」
「お構いなく」
やっぱり狐鈴が無理やり寝かせたのがまずかったのかな?
オレリア王女はガデスがアイテムボックスから取り出した椅子に座り、レオナとカイゼルが食事の準備を始めた。
オレリア王女はカイゼルからパンとチーズ、そしてスープを受け取った。
ポーターのガデスではなくて?
カイゼルもアイテムボックス持ちだったのか?
気になった俺は、パンに向けて鑑定スキルを使ってみた。
『腐敗で偽装された毒。動けなくなり、解毒後も軽度の後遺症を残す』
オレリア王女がパンをちぎって口に運ぼうとしていた。
「待て!」
俺はオレリア王女の腕をつかみ、食事を中断させる。
「無礼者!」
カイゼルが剣を抜いて、俺に突きつけてきた。
「このパン、腐っているぞ!」
「そ、そんなことありえない! どこも腐ってないじゃないか!」
「レオナさん。鑑定スキルありますか?」
「……ある。だがレベルが低いから、それほどあてにならないぞ」
そういってレオナはオレリア王女が持つパンを凝視した。鑑定スキルを使っているのだろう。
「見た感じ普通のパンだが……一部腐敗になっているな。カイゼル。これはどういうことだ?」
「すみません。腐っていたとは知らずに……。その場所だけ切り取っていただければ……」
「ふざけるな! 一部とはいえ王女に出せるパンではない!」
「俺の鑑定スキルだと、腐敗で偽装された毒だ。一部を切り取っても、染み込んでいるんじゃないか?」
「カイゼル! 貴様!」
「ガデス。これを用意したのはあなたですか?」
オレリア王女はガデスにパンを見せた。
「いいえ。私が用意したものではありません」
「そうですか。カイゼル。あなたがアイテムボックス持ちだとは知りませんでした。それともその背嚢に入れてきたのですか?」
「……はい」
「食料はアイテムボックスに入れる決まりでは?」
「……そうです」
「のう。姫とやら。昨日、カイゼルがデーモンに弾かれ、お主に向かって倒れたのを覚えておるか?」
狐鈴が少しだけ妖気を発した。自分に注目を集めるために。
「ええ。秀一殿が助けてくれなければ危ないところでした」
「アレはわざとじゃ。証拠ならダンジョンを出たら用意できるぞ。我らの行動は全て望遠の術で監視されておるからな」
リスナーがアーカイブ動画で、怪しいシーンを探してくれたのだろう。
狐鈴はそれを印刷するつもりなのだろう。
「でたらめを言うな!」
カイゼルは狐鈴に剣を向けた。
「姫よ。お主にはアリサが知らぬ言葉で、独り言をしゃべっているように見えていたみたいじゃが、アレは望遠の魔法に指示を出していただけじゃ」
適当にでっち上げたな。
アリサさんが怪訝な顔をしているが、空気を読んで黙っている。
「そういうことだったのですね」
オレリア王女がカイゼルに厳しい視線を送ると、レオナがオレリア王女とカイゼルの間に割って入った。
「カイゼル。貴様どういうことだ!」
レオナも剣を抜き、カイゼルに突きつけた。
「ここまでか……」
カイゼルは剣を手放して、膝をついた。




