第89話 浄化の塩
「デーモンが消えた……。これは塩……」
オレリア王女は塩に変わったデーモンの死体を確かめようと近寄ると、
「オレリア王女! 危険です!」
レオナが腕を掴んで止めた。
「そ、そうですね」
「大丈夫ですよ。神様の力によって浄化の塩と化しただけです」
俺が教えると、オレリア王女は別の意味で顔が強張った。
「それって聖遺物では……」
「それほど大げさな物じゃないです。確かに清らかな塩ですが、こんな洞窟にばら撒かれたのは舐めない方がいいかと……」
「な! 舐めません! 失礼な!」
オレリア王女は顔を真っ赤にして怒り出した。
「秀一殿」
レオナが少し不満そうな顔で声をかけてきた。
「ん?」
「次回からは角を切り取ってからにして欲しい」
「グレーターデーモンの角なんて何に使うんだ?」
まさか怪しい儀式とか……
「討伐の証拠にしたい」
「証拠か……デーモンの角って危険な物だと思います。できれば証拠として見せた後、浄化させて欲しい。アイテムボックスに入ってる死骸も、なるべく早く浄化したいんだ」
「わかった。角は我々の方で切り取るから死骸の処理も頼みたい。できれば綺麗なところで……塩にして持ち帰りたい。神の御業で塩にしたなら、神殿に寄付したいのでな」
「了解です。やるなら瘴気がない場所の方がいい。ダンジョンを出てからにしましょう」
いくら浄化された塩だからって、元はデーモンだぞ。理解できない。
◇◆◇◆◇◆◇◆
しばらく進むと、通路が急に開けて広い空間に出た。
天井も高く、ここならテントを張っても余裕がある。
もう外は暗くなっているだろうし、王女達の疲労も心配だ。
「今日はここで野営しよう」
「同意見だ」
レオナがホッと息を吐いた。
もしかしたら休憩をしたかったのかもしれない。だからといって、大人の自分から言い出せなかったのだろう。オレリア王女はまだ毅然としているな。レベルがそこそこ高いからか?
それとも我慢していたのか……
だめだな。レベル差も考えて行動しないと。
「ここで準備をします。少し待っていてください」
祝詞を唱えて辺りを清め、エリスとアシリアが聖なる結界をはっていった。
続いてエアテントを設置して、最後にカセットコンロをいくつか取り出した。
ふははは!
オレリア王女達よ! 日本の鍋を食らうがいい!
疲れた時でも、これなら食べられるだろう!
カイゼルよ! カレーの時のように見た目で文句は言わせんぞ!
ついでに少量だけど、お酒も提供しておく。
そして食事の間、交代で見張りをだすために、童子二人とジャネットの召喚だ。
「オーガみたいな者と竜人みたいな味方を呼び出します」
「オーガ!?」
「竜人!?」
レオナは呆れたような、何かを悟ったような顔になっていた。
一方カイゼルの顔は険しくなっていた。
「がーはっはっはっ!」
「あーはっはっはっ!」
なぜか紅蓮童子と轟雷童子がマッスルポーズをキメて現れた。
琴音にいいところを見せようと思っているのだろうか?
「ふん。のけ者にした罪は重い」
ジャネットは不機嫌そうだ。
「ジャネット。悪かったよ。オレリア王女様。この子はちょっとキツイ性格だけど、いいやつなので。気にしないでください」
「……はあ。よろしくお願いいたします」
「主よ! キツイとはひどいではないか!」
「オレリア王女にきつく当たらない?」
「……保障はできない」
「……」
「わっ! わかった! 善処する! だから……次回も呼んでくれるか?」
ジャネットが少し不安そうな顔になった。
え? こいつツンデレだったのか?
「頑張ったらな!」
「任せておけ!」
「まずは飯だ!」
俺は鶏肉、白菜、豆腐、長ネギ、春菊、ニンジン、しめじで塩鍋を作っていく。
琴音は、豚肉、キャベツ、長ネギ、しめじ、もやし、ニンジンでとんこつ醤油鍋だ。
俺は締めに雑炊まで作れるように米、琴音はラーメンの麺を用意した。
コンロのスイッチを入れて、鍋を温め始めると、旨そうな匂いがダンジョン内に漂い始めた。
「これは食欲をそそりますね……」
オレリア王女はとんこつ醤油鍋に吸い寄せられていった。
馬鹿な! 疲れた体にとんこつ醤油は重いだろう!
琴音を見ると、ドヤ顔で鼻で笑われた。
まだだ! まだ俺には式神達がいる!
しかし式神達はみんな琴音に鍋をよそってもらっていた。
「えええ……」
「浄土世界だと濃い味ってなかなかないのよ」
エリスが申し訳なさそうに、言い訳してくれた。
「そうか……」
「大丈夫。ご主人様のも食べるから」
ふと見ると、オレリア王女達が箸の使い方がわからず、困っていた。
見よう見まねで何とかしようと奮闘している。
「すみません。今スプーンとフォークを出しますね」
「いいえ。やってみます。見本を見せて頂けますか?」
「こう」
俺は箸を持って、開いたり閉じたりした。
「……わかりました」
オレリア王女が真剣な顔で箸を構えた。
その様子を案内妖精が撮影してたりする。
豚肉を一口食べた瞬間、オレリア王女の目がふわっと緩んだ。
「美味しい……」
オレリア王女はあっという間に深皿を空っぽにした。
「そちらも頂いてよろしいですか?」
「えぇもちろん」
俺は塩鍋を深皿によそった。
「この白い柔らかい物は何ですか?」
「豆腐といいます。熱いので気を付けてください」
オレリア王女はなんとか箸で豆腐を……刺した。
まぁ何もいうまい。
「不思議な食感ですね」
オレリア王女達は夢中になって食べていた。
カイゼルさえも無言でフォークを動かしていた。
オレリア王女達は雑炊まで平らげて、すっかり満足そうだ。
視界の右下に表示させた、チャット欄はすごい勢いで流れていた。
『本物の王女様!?』
『ロイヤル過ぎる!』
『何語?』
『全然わからないけど声が綺麗』
『響きもいいね』
『琴音ちゃんの現地語も可愛いな!』
すごい反響だ。
俺達は言語理解のパッシブスキルがあるから聞き取れているけど、リスナーのみんな聞き取れてない。
無自覚だったけど、俺達ってこっちの人と話す時はこっちの言葉をしゃべってるんだよな。
って事は今日の配信って、俺達の言葉も聞き取れてないよな……
そういえば、オレリア王女が言ってた。
アリサさんが話してる言葉がわからないって……
アリサさんはやっぱりプロだ。




