第87話 怪しい動き
このダンジョンは昔銀鉱だったので、あちこち横穴があった。
横穴にモンスターが隠れていると危険だ。
式神達が先行してくれたので助かった。
特にシルヴィアの斥候としての能力が高くて助かっている。
しばらく進んでも、近くのデーモン達をさっきの襲撃で一掃してしまったのか、デーモンや他のモンスターの気配が感じられなかった。
少し気が抜けたところで、先行していたアシリアが戻ってきた。
「ご主人様。あっちに階段があったよ」
アシリアはいつも飛んでいるな。歩くと転びそうだけど……
「ナイスだ」
「んふふ。頭撫でてくれたら、もっと頑張るよ?」
「しゃーないな」
俺はアシリアの頭を撫でる
無邪気な笑みを浮かべるアシリアを見て、俺は色々と罪悪感を感じてしまった。
アシリアと俺は前世つながりがあるらしい。昔もこうやって頭を撫でていたのかな。
「うへへへ」
「ご主人様! 私も思いっきりオケツを……」
俺はシルヴィアの顔の口あたりを掴んで黙らせた。
「むがっ!」
シルヴィアとも前世つながりがあるんだよな!
いびつな関係だったのか!? すごく不安になる。
「それ以上しゃべるなってぬああっ!」
掴んだ手のひらを舐められた。
「うっ! なんかマズイ!」
そりゃそうだろう。刀を握っていたんだ。
「こらぁあ!」
琴音が割って入った。
「それ以上はダメ!」
「舐めただけだ!」
「絶対ダメ!」
「騒ぎすぎじゃ。来よったぞ」
下の階からだろう。
デーモン達が奥にあった階段から上がってきた。その数五体。
「ちょうどいいな。一体残して倒すぞ!」
言い終わる前に、式神達が一斉攻撃して一体だけ残った。
最後の一体も束縛の術で拘束されている。
過剰戦力過ぎないか?
アリサさんなんて、もう実況に専念して、オレリア王女から、また可哀想な視線をもらっているぞ。
エリスは王女達に補助魔法をかけていった。
なんだろう……かつて知った仲のような感じは……
「オレリア王女。防御障壁を貼りました。下級デーモン程度では、壊すことは愚か、傷ひとつつかないでしょう」
「わかりました」
オレリア王女は驚きながら自分の体を確かめるように見ていた。
「次は剣を出して。一撃で倒せるくらいの術をかけるわ」
「……よ、よろしくお願いしますね」
エリスが王女の剣に術をかけると、黄金色の光が剣を包み込んだ。
「すごい」
「束縛の術。解くよ」
アシリアの合図と共に、レッサーデーモンが動き出した。
式神達が下がり、オレリア王女と近衛騎士二人が前に出る。
「ここは私とカイゼルが抑えます」
「いえ。私が一人で倒します」
オレリア王女が近衛騎士を押しのけて前に出た。
「危険です!」
「大丈夫ですよ。この万能感……やれます!」
「レオナ。行かせて差し上げろ。ここまでお膳立てされたんだ。きっと大丈夫だ」
「カイゼル!」
レオナが信じられないとばかりにカイゼルを睨んだ。
「はあああっ!」
カイゼルが女騎士を止めている間に、オレリア王女がデーモンに向かって突撃した。
デーモンが魔力弾を放つと、オレリア王女は剣で弾き飛ばし、更に間合いを詰める。
「スラッシュ!」
オレリア王女の剣にかかった術がスキルに反応し、爆発するように光が増した。
そしてその斬撃はレッサーデーモンをいともたやすく斬り裂き、一撃で仕留めてしまった。
「す、すごい……」
オレリア王女は光る剣を見ながら呟いた。
「危ないから解除するわね」
エリスがオレリア王女に手をかざすと、剣にかかった光がスゥッと消える。
「助かりました。今の魔法。教えてくれませんか?」
「んー。こっちの魔法じゃないから、理解できないと思うわ」
「そうなのですか?」
「えぇ。天使の魔法って言えば納得するかな?」
「なるほど。人の身には使えない魔法なのですね」
「まぁ。そんなところかしら」
エリスの術はすごいな。今までの式神とは段違いの強さだ。
「下に降りる前にお昼にしよう。シルヴィア。念のため少し先を偵察してきてくれ」
「わかったぞ」
案内妖精がレッサーデーモンの死体を回収すると、俺は飛び散った血を祝詞で清めた。
同時に琴音も祝詞を唱え、辺りに魔を払う結界を張った。
その間にアリサさんがアイテムボックスからテーブルと椅子を取り出して、テキパキと準備をしていく。
俺と琴音はカレーが入った寸胴や、炊き立ての米が入ったおひつを取り出した。
ギルドの食堂で大量に作ってもらったんだ。
キャンプと言えばカレーだ。
しかも追加でとんかつも取り出す。
俺は琴音とアリサさんに手伝ってもらい、人数分のカツカレーを盛り付けていった。
もちろん式神達の分もな。
ふははは! 王女達よ! カレーの美味さに恐れ慄くがいい!
「なんだこれは?」
カイゼルが難癖つけてきた。
「匂いは良いが……見た目は汚物がかかってるではないか! こんな物を王女に食べさせるのか!」
「お前。言ってはならないことを言ったな……」
許せん!
俺は目にも止まらぬ速さで刀を抜き、カイゼルの首元に刃先を突きつけた。
「き、貴様……」
「秀一殿。剣を下げてください。部下の失言は私が謝りましょう」
「オレリア様!」
「……カイゼル」
「くっ……すまない。俺が悪かった」
「ふん。食ってみろ。飛ぶぞ」
王女達は席について、恐る恐るスプーンでカレーを口に運んだ。
「んんっ!」
オレリア王女の目が見開いた。
「これは……辛いけど……美味しい……」
「確かに……これは止まりません」
レオナも次々とカレーを口に運んでいく。
「上に乗ってる揚げ肉も美味しいですね」
「……確かに」
カイゼルは悔しそうだ。
カレーの匂いに誘われたのか、レッサーデーモンが階段から上がってきたけど、結界に阻まれて入ってこれない。
式神達が数を減らすと、食事を終えた王女が剣を持ち上げた。
「エリス殿。また術をかけてくれませんか?」
「んー。良いわよ」
エリスがオレリア王女にバフをかけると、女騎士と男騎士もあわてて、オレリア王女に続く。
「あなた達にもかけるわね」
「かたじけない」
「すまんな」
俺はどうも気になって戦いに参加せず、オレリア王女達の戦いを観察した。
エリスの術がかかってるおかげで、オレリア王女達は危なげなく戦っている。
しかしどうもカイゼルの動きがおかしい。何か違和感を感じる。
カイゼルがレッサーデーモンの攻撃に弾き飛ばされ、オレリア王女の方に倒れ込んだ。
光に包まれた剣が、オレリア王女に襲いかかる。
「クイックステップ!」
俺は高速移動スキルを使って、王女のすぐそばに移動すると、オレリア王女を突き飛ばした。
「ひゃっ!」
間一髪、オレリア王女のすぐそばを、光に包まれた剣が通り過ぎた。
俺は追撃してくるレッサーデーモンに向かって居合の構えを取る。
「抜刀一閃」
俺は刀を鞘から抜きつつ、デーモンを横一文字に切り裂いた。
そしてレッサーデーモンが絶命したのを確認すると、今度はオレリア王女と対峙していたレッサーデーモンに向かって手を突き出した。
「光の精霊よ。光陣より来たりて、我が前に盟約を示せ! シャイニング・スピア!」
光の槍がデーモンの頭を吹っ飛ばした。
琴音達も助太刀に入り、デーモン達があっという間に駆逐されていった。
「も、申し訳ございません」
カイゼルは王女に向かって頭を深く下げていた。
カイゼルのミスは本当にミスだったのだろうか……




