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第83話 王女の依頼

 とんでもないことになってしまった。

 王女を護衛しながら、ダンジョンアタックをするとか、厄介ごと極まりない。

 

 昨日の夜の会食は、面接みたいなものだったのかな?

 俺達の実力は、ある程度知ってるみたいだったので、王女の護衛に相応しいか。信用できる者なのか、実際に会って確かめたってところかな。

 

 俺達は朝食を取った後、師匠に連れられて領主の館に訪れた。

 王女が寝泊まりする場所だけあって、綺麗に整えられていた。

 ここでダンジョン攻略の打合せを行うらしい。

 

 まず思ったのが、兵士の数が少ない。

 王女を護衛する兵はもちろん、国境都市を防衛するには全然足りない。

 俺達やキャサリンさんのパーティーがそのまま残っているのも、人手不足を少しでも解消するためだろう。

 そもそも俺達に、国境都市を奪還するように依頼してきたのも、兵士の数が足りないからだろう。


 領主の館に来る前に、師匠が大まかな説明をしてくれた。

 

 この国のしきたりで、王位継承権を得るには、何かしら功績が必要らしい。

 例え王子だろうと王女だろうと関係ない。

 何の功績もないものに王位は渡せないということなのだろう。

 

 普通ならモンスターや盗賊団の討伐。ただし自ら戦うのではなく、配下の騎士に戦わせて、自分はお飾りでもよい。

 または武闘大会で良い成績を残す、魔法学会で魔術研究の結果を発表するなど様々だ。

 

 昔はもっと大がかりで大変だったけど、今は形骸化しているらしい。

 だからこそ、王女自ら兵を率いて、国境都市を奪還するなんて過剰すぎるのでは? と思ったら理由があった。

 

 今この国では、アルベール王子とオレリア王女の間で、王位継承争いが起きているのだ。

 順当にいくのなら、長男であるアルベール王子が王位を継ぐはずだ。

 だからオレリア王女は、王位継承に興味がなく、ただ体裁のために何かしら功績を残そうとしていたらしい。

 

 しかし数年前から、アルベール王子の様子がおかしくなったそうだ。

 素性の知れない者を引き入れたり、圧政とも思われる政策を提案したりと、黒い噂が絶えなくなった。

 オレリア王女は兄に任せていては、国が危ないと思い、兄以上の功績を残そうと考えるようになった。

 

「よう。来たぜ」


 王女がいる部屋に通されるなり、師匠が言い放った。

 

「その無礼な口の聞き方! どうにかならんのか!」


 王女の側に控えていた女騎士――レオナが怒鳴った。

 

「俺様、この国の人間じゃないんでね。従う必要ある?」


 師匠が肩をすくめておどけた。


「それでも王族に対する口の聞き方というものがあるだろう!」


 師匠の態度にレオナの叱責は止まらない。


「おやめなさい。私はもう諦めました。彼の言う通り、沖田はこの国の人間ではありません。そして我々は沖田に頼るしかないのです」


「くっ。オレリア様がそういうのなら……」


「で、このくそ忙しい時に、なんでダンジョンに行く必要があるんだ? 手柄なら国境都市の防衛だけで十分だと思うが?」


 師匠の問いに答えてくれたのは、もう一人の男騎士――カイゼルだった。


 問題は二つあった。

 一つは援軍が来ない。このままでは国境都市の防衛が難しくなる。

 もう一つは国境都市の防衛が、功績にならないというのだ。


 国境都市にはアストラルゲートがない。

 なぜならここを落とされたら、一気に攻め込まれるからだ。

 王都から援軍を派遣するには、国境都市に一番近い街に援軍を転移させ、そこから国境都市へ進軍することになる。

 

 ここで問題が発生した。国境都市とアストラルゲートがある街の間に、大きなダンジョンがあるのだが、そこにデーモンが住み着いているのを冒険者が発見した。

 それを知ったアルベール王子は、移動経路の安全を確保してからでないと、援軍の騎士団を送れないと王に進言し、それが通ってしまった。

 

 更にアルベール王子は、国境都市奪還の功績を認めなかった。

 俺達が戦い、王女は傍観していただけだと。

 それでも俺達を動かしたっていう実績があると思うけど、王子は王女自ら指揮を執ったわけではないと難癖をつけて認めなかった。

 

 ……まぁそれに関しては、俺達は何も言えない。

 師匠もやっちまったなぁって顔をしていた。

 功績を稼がないといけない王女達をお飾りにして、自分達だけで奪還しちゃったからな……

 それにもしかしたら、ダンジョンに住み着いたデーモンは、魔王軍襲撃時に逃走したデーモンだったり、国境都市奪還時に逃走したデーモンだったりするかもしれない。


 そしてそんなに功績が欲しいなら、王女自らダンジョンに潜り、デーモンを掃討し、進軍経路の安全を確保しろと言ってきた。

 そうでないと援軍も送れないと。


「なるほどな。それで俺達に護衛して欲しいと」


 師匠が苦い顔をした。

 俺達にも原因があるから断れない。


「はい。国境都市に援軍を送れないのは非常にまずい状況です」


「オレリア様。彼らの力を借りたら、また難癖をつけられるのでは?」


 カイゼルが進言した。


「ですが。我々だけでデーモンを倒すのは難しい。いえ、はっきり言いましょう。不可能です」


「あーそれなんだけどさ。黙ってれば良くね? ダンジョンに行くのって誰かに話したの?」


「いいえ。この場にいるものしか知りません」


「なら大丈夫だろ?」


 師匠はカイゼルに視線を向けた。

 まるでカイゼルがバラすのではないかと疑ってるようだ。


「バレたらこの中の誰かが、王子と繋がってると考えた方がいいんじゃねぇか?」


「何だおまえ! 俺を疑っているのか!?」


「いいや?」


「カイゼル良しなさい。沖田も我が騎士を愚弄するのはおやめください」


「そんな気はなかったんだけどね。んで、こっちは秀一達を貸し出せばいいんですかね? キャサリン達じゃだめだった?」


「彼らは投影の魔法を見ながら、興奮して喋っていただけでした。護衛の意味を理解していなかったようです」


 王女の声音は冷えていた。

 俺達がかなり攻勢に出てたからな。きっとこっちまで来ないだろうと思って、実況配信に夢中になっていたんだろう。


「あー。それは済まない。代わりに秀一達を好きに使って」


「えぇ。そうさせていただきます。私も投影の魔法で彼らの働きを見ました。正直怖いくらいの実力を持っていましたので是非お願いしたいです」


「アレを見てたからわかると思うが、狐様の扱いにだけは気をつけて下さいよ。冗談抜きで国が滅ぶんで」


「わかっています……」


「童よ。我をなんだと思っておる」

 

 狐鈴がため息を吐きながら師匠を睨んだ。


「一応釘を刺しておこうと思いまして」


「ふん。まぁいい。それで、そのダンジョンとやらを、根こそぎ破壊すればいいと思うのじゃが?」


 狐鈴の提案に、王女の表情が固まった。


「それはだめです。奥には銀鉱も発見されているので」


「ふむ。そうか。では水責めもやめておいた方がいいか」


「水責め?」


 オレリア王女が聞き返した。


「術でダンジョンに水を流し込み、窒息死させれば良かろう? あぁ。地下水が流れていたら無駄じゃが……」


「功績を残さねばなりません。正攻法でお願いします」


「あいわかった」


 狐鈴は素直に引き下がった。


「で、ダンジョンの情報はあんの? 踏破までどれくらいかかるとか?」


「デーモンが住み着く前の話ですが、慎重に進んで五日はかからないとか。詳細については後ほど資料を渡します」


「了解だ。その間国境都市は俺達が守ってやる。安心して踏破してきてちょうだいな」


「ええ。そうさせてもらいます。こちらの準備はできていますが、そちらは?」


「秀一。明日中にできるか?」


「はい。対ダンジョン装備を通販で買い込もうと思います。人数分経費で落ちますか?」


「あー見積もり出して、結城ちゃんと相談だな。そうなると、ちと時間がかかるな。王女様。出発は明後日の朝で」


「わかりました」


 今度のダンジョンは、常夏の島とは違う。

 シールドが破壊されたら強制転移などない。

 更に守る対象が増えてしまった。

 きちんと準備しなくてはならない。


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