第82話 キャンプとBBQ
俺達は国境都市の警備を任されているんだけど、アストラルゲートがないせいで常駐するはめになった。
だから国境都市にある空き家で寝泊まりしていたんだけど、石造りの建物は全然快適じゃなかった。
あぁ、ギルドの自室が恋しい。
ギルドの建物自体が現代技術で造られた物だから、すごく快適なんだけど、ここは違う。
世界観が『剣と魔法の異世界』のせいなのか、建築技術が凄く低い。
見た目はそこそこ綺麗な建物に見えても、所詮は石造りの建物だ。
魔法技術で断熱処理くらいしろよって思うが、そんなものはなかったようだ。
日中は熱がこもり、夜は冷え込む。
特に壁が冷たくて、近寄ると冷えるんだ。
もちろん床もな。木の板や絨毯が敷いてある場所はまだマシだけど、廊下は特に冷える。
そこで俺達は空き家ではなく、兵士達の訓練所に目を付けた。
ここなら開けた場所があり地面は土だ。しかも四方は石の壁があり、防風にもなっている。
一応王女の近衛騎士に、ここで野営する許可を取りに行った。
今この都市はほぼ無人だ。俺達と王女とその近衛騎士しかいない。
近衛騎士は逃げ出した住人の家を借りればいいのに、わざわざ野営する意味がわからないと、怪訝な顔をしたけど許可は下りた。
ふふふ……。エアテントをご存じだろうか?
鉄の支柱の代わりに、空気で膨らむチューブを支柱にした、簡易シェルターみたいなものだ。
素材も断熱材が使われていて、冬でも温かい。
設営は簡単。地面に広げて空気を入れて、固定するだけ。
俺と琴音は一度ギルドに戻ることにした。
ネット通販でエアテント、家具、キャンプ用品を買うためだ。
自室のパソコンからしか買えないからな。
師匠に許可を取ってから、隣の街まで高速飛行魔法で飛び、そこからアストラルゲートを使ってギルドまで戻った。
今更ながらゲートの便利性を痛感したよ。
そして改めて思った。こんなものを魔族が近くに設置しに来ているのは怖いと。
絶対阻止しないとだめだな。
国境都市にアストラルゲートがないのも納得がいく。
ここを占拠されたら、一気に王都まで攻められてしまう。
自室に戻ると安心感が半端ない。
ふかふかなベッドでひと眠りしたいところだけど、国境都市を長く離れるわけにはいかない。
俺はすぐにパソコンを起動した。
後ろで琴音が俺のベッドにダイブして、すぐに寝息を立てたのはちょっとムカついた。
いたずらしてやろうか?
そんな思いを振り切って、通販サイトを開く。
まずはベッドを二つ。
そしてソファーとテーブル。
琴音の趣味に合わせて購入っと。
電気はないので、電池式のLED照明、キャンプ用のコンロや燃料等々……
そして忘れちゃだめなのが食材!
お肉屋や野菜、魚をたんまり買い込む。食材は経費で落ちるので、遠慮なく買い込んでいく。
最後に師匠達から代理購入をお願いされたものも購入した。
さてと、可愛い寝息を立てている琴音を起こそうか。
◇◆◇◆◇◆◇◆
……少し遅くなったけど、戻ってきたので、エアテントの設置だ!
一応配信を開始してから、テントの設置を始めた。
まずテント端を地面にペグ――固定具を打ち付けていく。
テントの設置は自衛隊の訓練で経験済みだ。
エアテントは初めてだけど、基礎的なものは似たようなものだろう。
わからないところはリスナーに聞けばいいしな。
ポンプは電気がないので、手動のものを使った。
すごい疲れた……
エアテントは結構奮発して、大きいものを購入してある。
大人が四人入っても余裕があって、立っても天井にぶつからないくらいに大きい。
「秀ちゃん! ベッド二つ置いても全然平気だね!」
「あぁ! 余裕あるな!」
「床のシートも結構分厚いからそんなに冷えないね」
ソファーやテーブルまで置いていくと、ちょっとした部屋みたいになった。
「とりあえずこんなもんかな?」
「暖房はどうしよう?」
「さすがに灯油はネットで売ってなかったもんね」
「暖房の魔法とかないかなぁ」
「色々試したら閃くかな?」
「夜までに頑張るか」
室内で火の魔法を使うのは危険なので、俺達は外で魔法の練習を始めた。
「あんた達何やってるの?」
しばらくすると、アリサさんが声をかけてきた。
「夜冷えるから、暖房の魔法を閃こうと思って」
「なるほどね。私はダウンジャケットとか頼んだけど、魔法って手があったか!」
「一緒に練習する?」
「する! どうせ敵が来るまで暇だしね」
光の魔法や発火の魔法を、何度も何度も唱えること数時間。
やっと閃くことができた。
「やっとだぁ!」
「おおっ! 秀ちゃん呪文教えて!」
「いいぞ!」
「私も!」
夕方までかかってしまったけど、夜までに覚えられてよかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
夕飯はみんなで集まってバーベキューだ。
国境都市はモンスターに占領されていたから、店なんてやっていないし、そもそも住人がいない。
王女が連れてきた近衛達が、兵糧を分けてくれると申し出てくれたが、自分達が持ち込んだ食べ物の方が美味しそうだったので、やんわりと断った。
そして俺達はネット通販で購入したバーベキューセットを広間に設置し、肉や野菜を焼いていく。
「よう。美味そうじゃねぇか」
丁度焼けたところで師匠が来た。
「焼けてますよ」
「おう。俺より先に王女様に食べさせてやりな」
師匠の後ろには、控えめなドレスを着た女性がいた。
長い金髪に青い瞳。歳は俺達より少し上くらいだ。
王女の後ろには赤い騎士服を着た男女がいた。
近衛騎士だろうか? 騎士達の年齢は俺達……アリサさんより少し上っぽいな。
「美味しそうな匂いですね」
王女の声色からしてちょっと機嫌が悪そうだ。
そういう時は上手いもの食べるに限る。
俺は木の皿に肉と野菜を乗せ、焼肉のタレをかけた。そしてフォークを添えて王女に差し出した。
「どうぞ。お口に合えばよいのですが……」
「いただくわ」
王女が皿に手を伸ばしたその時――
「オレリア様! お待ちください!」
女騎士が待ったをかけた。
肩まである銀髪に紫色の瞳。オレリア王女の近衛騎士ってところだな。もしそうなら貴族でもあるのかな?
そして王女の名前は、オレリアね。
以前師匠との話に出てきた気もするけど、気に留めていなかったから忘れていた。
「やはりこのような場所で食事などありえません」
「焼きたてが美味しいと、沖田が言っていました」
女騎士はキッと師匠を睨んだ。しかし師匠はどこ吹く風だ。
「レオナ。毒見なんていりませんよ」
「しかし! 素性もわからぬ者が作ったものを、何の警戒もなしに食べるのは危険です!」
「では。これはあなたが食べて判断しなさい」
オレリア王女がレオナに皿を差し出した。
「はっ!」
レオナと呼ばれた女騎士は、厳しい目で肉を見たあと、パクッと食べた。
すると驚いた顔になり、じっくり嚙み締めた後、幸せそうな笑顔になっていた。
「問題ありません……」
オレリア王女はそれを見て少し呆れたような顔になった。
「そこの者。あと二つよこしなさい。カイゼル」
オレリア王女が控えていた男近衛騎士――カイゼルを呼んだ。
「毒見しなさい」
「はっ」
俺は素直に従って、二皿盛り付けし、カイゼルに渡した。
こっちも貴族っぽいなぁ。金髪碧眼の美男子だ。
男騎士は小さい肉を食べて確認した後、オレリア王女に皿を渡した。
「どうぞ。大変美味です」
「沖田の関係者でしょう。大丈夫に決まっています」
そう言ってオレリア王女は、肉をフォークで刺して口に運んだ。
「んんっ!」
オレリア王女の目がクワッと開いた。
美味いだろう。ちょっと高めの和牛カルビだぞ。
「こんな肉……王宮でも食べたことありません……」
ちょっと悔しそうだ。
「まだまだいっぱいあるので、どんどん食べてください」
オレリア王女は一口ごとに、幸せそうな顔をするが、ふとした瞬間悔しそうな顔をした。
「あなた達はいつもこのような物を食べているのですか?」
「いつもではないけど、だいたいこんなもんです。野外じゃなければ、もっといいものもありますよ」
「なっ! これよりも……」
「王女様。そろそろ本題入りましょ」
師匠がオレリア王女を促した。
「そうですね。近々この近くにあるダンジョンに行きます。護衛しなさい」
こんな状況でダンジョン!?
意味がわからない。




