第82話 キャンプとBBQ
今俺達は、国境都市のアザトスに常駐している。
もちろん寝る時もこの都市でだ。
いつもはギルドの自室だから、快適だったんだけど、石造りの建物は全然快適じゃなかった。
日中は熱がこもり、夜は冷え込む。
特に壁が冷たくて、近寄ると冷えるんだ。
もちろん床もな。木の板や絨毯が敷いてある場所はまだマシだけど、廊下は特に冷える。
そこで俺達は大きな部屋の中にテントを持ち込むことにした。
エアテントをご存じだろうか?
支柱の代わりに、空気の骨格で形を保つ、簡易シェルターみたいなものだ。
設営は簡単。地面に広げて空気を入れて、固定するだけ。
俺と琴音は一度ギルドに戻ることにした。
ネット通販でエアテント、家具、キャンプ用品を買うためだ。
自室のパソコンからしか買えないからな。
師匠に許可を取ってから、隣の街まで高速飛行魔法で飛び、そこからアストラルゲートを使ってギルドまで戻る。
今更ながらゲートの便利性を痛感したし、こんなものを魔族が近くに設置しに来ているのは怖い。絶対阻止しないとだめだな。
まずはベッドを二つ。
そしてソファーとテーブル。
電気はないので、電池式のLED照明、キャンプ用のコンロや燃料等々……
そして忘れちゃだめなのが食材!
お肉屋や野菜、魚をたんまり買い込む。
後に師匠達から代理購入をお願いされたものも購入した
あまり長く国境都市から離れるわけにはいかないので、パパっと済ませて戻る。
戻ってきたらテントの設置だ。
ポンプは電気がないので、手動のものを使った。
すごい疲れた……
床も石造りなので、一部剥がしてテント端を地面にペグ――固定具を打ち付けていく。
エアテントは結構奮発して、大きいものを購入した。
大人が四人入っても余裕があって、立っても天井にぶつからないくらいに大きい。
「秀ちゃん! ベッド二つ置いても全然平気だね!」
「あぁ! 余裕あるな!」
「床のシートも結構分厚いからそんなに冷えないね」
ソファーやテーブルまで置いていくと、ちょっとした部屋みたいになった。
「とりあえずこんなもんかな?」
「暖房はどうしよう?」
「さすがに灯油はネットで売ってなかったもんね」
「暖房の魔法とかないかなぁ」
「色々試したら閃くかな?」
「夜までに頑張るか」
室内で火の魔法を使うのは危険なので、俺達は外で魔法の練習を始めた。
「あんた達何やってるの?」
アリサさんが声をかけてきた。
「夜冷えるから、暖房の魔法を閃こうと思って」
「なるほどね。私はダウンジャケットとか頼んだけど、魔法って手があったか!」
「一緒に練習する?」
「する! どうせ敵が来るまで暇だしね」
光の魔法や発火の魔法を何度も何度も唱えること数時間。
やっと閃くことができた。
「やっとだぁ!」
「おおっ! 秀ちゃん呪文教えて!」
「いいぞ!」
「私も!」
夕方までかかってしまったけど、夜までに覚えられてよかった。
夕飯はみんなで集まってバーベキューだ。
国境都市はモンスターに占領されていたから、店なんてやっていないし、そもそも住人がいない。
王女様が連れてきた近衛達が、兵糧を分けてくれると申し出てくれたが、自分達が持ち込んだ食べ物の方が美味しそうだったので、失礼がない言い方で断った。
俺達はネット通販で購入したバーベキューセットを広間に設置し、肉や野菜を焼いていく。
「よう。美味そうじゃねぇか」
丁度焼けたところで師匠が来た。
「焼けてますよ」
ちなみに肉や野菜は経費だ。
「おう。俺より先に王女様に食べさせてやりな」
師匠の後ろには、控えめなドレスを着た女性がいた。
長い金髪に青い瞳。歳は俺達と同じくらいだ。
王女の後ろには赤い騎士服を着た男女がいた。
近衛騎士だろうか? 騎士達の年齢は俺達……アリサさんより少し上っぽいな。
「美味しそうな匂いですね」
王女の声色からしてちょっと機嫌が悪そうだ。
そういう時は上手いもの食べるに限る。
俺は木の皿に肉と野菜を乗せて、焼肉のタレをかけ、フォークを添えて王女に差し出した。
「どうぞ。お口に合えばよいのですが……」
「いただくわ」
王女が皿に手を伸ばしたその時――
「オレリア様! お待ちください!」
女騎士が待ったをかけた。
肩まである銀髪に紫色の瞳。オレリア王女の近衛騎士ってところだな。もしそうなら貴族でもあるのかな?
「やはりこのような場所で食事などありえません」
「沖田が焼きたてが美味しいと言ったのです」
女騎士はキッと師匠を睨んだ。しかし師匠はどこ吹く風だ。
「レオナ。毒見なんていりません」
「しかし! 素性もわからぬ者が作ったものを、何の警戒もなしに食べるのは危険です!」
「では。これはあなたが食べて判断しなさい」
オレリア王女がレオナに皿を差し出した。
「はっ!」
レオナと呼ばれた女騎士は、厳しい目で肉を見たあと、パクッと食べた。
すると驚いた顔になり、じっくり嚙み締めた後、幸せそうな笑顔になっていた。
「問題ありません……」
「そこの者。あと二つよこしなさい。カイゼル」
オレリア王女が控えていた男近衛騎士――カイゼルを呼んだ。
「毒見しなさい」
「はっ」
俺は素直に従って、二皿盛り付けし、カイゼルに渡した。
こっちも貴族っぽいなぁ。金髪碧眼の美男子だ。
男騎士は小さい肉を食べて確認した後、オレリア王女に皿を渡した。
「どうぞ。大変美味です」
「沖田の関係者でしょう。大丈夫に決まっています」
そう言ってオレリア王女は、肉をフォークで刺して口に運んだ。
「んんっ!」
オレリア王女の目がクワッと開いた。
美味いだろう。ちょっと高めの和牛カルビだぞ。
「こんな肉……王宮でも食べたことありません……」
ちょっと悔しそうだ。
「まだまだいっぱいあるので、どんどん食べてください」
オレリア王女は一口ごとに、幸せそうな顔をするが、ふとした瞬間悔しそうな顔をした。
「あなた達はいつもこのような物を食べているのですか?」
「いつもではないけど、だいたいこんなもんです。野外じゃなければ、もっといいものもありますよ」
「なっ! これよりも……」
「王女様。そろそろ本題入りましょ」
師匠がオレリア王女を促した。
「そうですね。この近くにあるダンジョンに行きます。護衛しなさい」
こんな状況でダンジョン!?
意味がわからない。




