第80話 もう一人の十二姫将
私は月華。秀之介様……いえ、秀一様の参謀式神。
もっとも秀一様は私のことなど覚えていないけど……
そもそも前世の記憶を覚えている方がおかしいので、それは気にしないわ。
私にはもう一つの顔がある。それは防衛省特別機関陰陽局の幕僚長としての顔。
私は秀一様が陰陽師の家系に生まれ変わったと知るなり、陰陽局の門を叩いた。そしてトップまで登りつめた。
今の時代の陰陽師と私では、呪力も術も比べ物にならなかったから、当然の結果。
中には私を調伏しようとした者もいたけど、相手にもならなかったわ。
人間が式神に使われるなんて皮肉よね。
秀一様は陰陽師になる。それは私達の悲願。ならば最高の環境を用意しなくてはならない。
今の私は幕僚長に相応しい姿をしている。
式神である私は姿も歳も自由に変えられる。今は二十代半ばの美女になっている。艶のある長い黒髪。美しいとされる女優の平均値で作った顔。そして異性を震わせる声。全て計算された造形よ。
立ち振る舞いも隙が無い。少し怖いくらいのお姉さん。秀一様の元に戻ったら同じ年の姿にする予定。
言葉遣いも年相応にしなくちゃね!
さて、今私は陰陽局特別監察室にいる。
ここでは数台のパソコンが稼働していて、それぞれ秀一様、琴音様、土御門亜理紗の配信が常に流れ、言動や行動がチェックされている。
ベテラン陰陽師の沖田、真田、御影の配信もチェックしているが、この三人は特に問題はない。沖田の言動には目に余るものがあったけど、意外にもきちんとしている。むしろ優秀よ。秀一様にきつくあたるところは少し許せないけど、厳しく育ててくれるのは、正解なので不問にしている。
そろそろ、陰陽局幕僚副長が来る頃。
「月華様。お呼びでしょうか?」
噂をすれば陰陽局幕僚副長が入室してきた。色々と大変な思いをしてきたのね。頭部がだいぶ悲惨なことになっているわ。術で毛を生やすことができるのなら、いくらでも術をかけてやりたい。主に私のせいなのだから。
「えぇ。時が来ました」
私は秀一様の配信から目を離し、幕僚副長に向き直った。
「時が……ですか……」
幕僚副長は苦虫を噛み潰したような顔になった。
私の前でそんな顔ができるのはごく少数。貴重な存在よ。
局長クラスだと、目を合わすことすらできないのよね。
「あなたに私の代わりを任せたいのだけれど」
「御冗談を」
「私が冗談を言っているように見えるのかしら?」
「見えますな。まだ享楽之神や愉悦之神の真名もわからないのです」
「全くふざけた名前ね。真名さえわかれば、例え神だとしても、どうとでもなるのに」
「それは月華様だから言えることかと。私達だけでは無理ですよ」
「不甲斐ないこと言わない」
「事実ですよ。永遠とも思える寿命を持ち、衰えない脳と体。そして長きに渡って貯えられた知識と経験。それを惜しげもなく使われている。そんな貴方の後継者ですか? 無理ですよ」
「私なら秀一様に呼ばれさえすれば、浄土世界を経由して、こことあちらを行き来できるのです。こちらにいる時は手伝いますよ。あなた一人では無理なら、補佐を複数つけなさい」
「……はぁ。あなたのせいですよ。最近私の髪が薄くなったのは」
「そのうち、育毛の術を編み出してみせるわ」
「あちらの世界に行く前にお願いしますよ」
「決心が付いたようね。ではご褒美に私のコレクションを見せて……」
「それは結構です! では私はこれにて失礼します!」
私は去っていった幕僚副長を見送ると、ふぅとため息をついた。
秀一様成分を補充しなくては。
「オン・リラ・リラ・ソワカ」
帰還の呪文を唱えると、少し薄暗く、ピンクの光で照らされた部屋に戻ってきた。
「煌姫ったら。あんなにはしゃいで! あぁぁあああああっ! 羨ましいいぃ! なんで! 私は! まだこっちにいるの!?」
あの時私は、結界で守られた陰陽局にいたので、愉悦之神の暴挙から逃れることができた。
だから輪廻転生による記憶の障害もない。
私は壁一面に貼られた秀一様の写真に手を這わせ、頬ずりする。
「もう少しよ! もう少しで秀一様の元へ行ける! あぁ……秀一様。なんて素敵。うへ、うへへ……」
おっとまずい。私の涎で、秀一様の写真を汚すわけにはいかない。
ここは私の秘密の部屋。秀一様のグッズを勝手に作り、部屋中に置いている。
陰陽局のスタッフがこの部屋で悶える私を見たら、一体どう思うのだろうか?
琴音様も可愛い。秀一様の好きなものは私も大好きよ!
漫画やアニメの主人公が、ヒロインと結ばれるのは当然。私にとって秀一様が主人公。これが究極の推し活!
立場上、秀一様のチャンネルにウルチャを投げれないのがもどかしかった。だから支援という名目で予算を組み、赤ウルチャを連打している。
ジャネットの推し活動もわかるし共感できる。しかしそれはまだ生ぬるい。
私は二人の子供に生まれたい。
できることなら三人でイチャイチャもしたい。二番でいい。むしろ二番がいい! この時代は秀一様と琴音様が恋仲なのだから! あの時の秀乃介様の願いがやっと叶うのだから!
二人が同じ時代、同じ年に生まれ変わったなんて、奇跡に等しい!
しかも二人共、陰陽師の家にだ!
これは妙光如来様の慈悲に違いない!
輪廻転生を司ってるかどうかまでは知らないけど!
だから私は用いる全ての権力を使って、二人を幼馴染になるように圧力をかけた!
仕組んだ!
誰にも邪魔はさせない!
白夜を初めとする秀一様激ラブ勢は危険だ。今世は琴音様に譲れ! 私達はずっと秀一様に取り憑いているのだ。別に時代の秀一様と添い遂げればいい!
平安時代のあの戦い。秀之介様に頼まれ、私だけあの光景を遠くから見ていた。戦いの後、式札を回収し、復活させ、再び私達が揃うようにと。
私は式札を持って妙光如来様の元へ訪れ、復活を頼んだ。
私達と妙光如来様との間には深い縁がある。
遠い、はるか遠い昔。妙光如来様が生きていた時代。秀一様も私達もそこにいた。
妙光如来様のお弟子様だった秀一様によって、私達は調伏され、人の姿に変えられた。
そして嫁となったのだ。
それがいけなかったのか、秀一様の前世は悟りを開くことも、浄土世界へ行くこともできなかった。それでも妙光如来様は秀一様と私達を弟子として扱ってくれた。
妙光如来様によって式神達は記憶の欠損もなく、無事に復活できた。
そして私達は秀一様の輪廻転生を待ち望んだ。
妙光如来様の元で修行しながら待ち望んだ。
時は平安から令和へと進み、その途中で生まれ変わった代々の秀一様は、必ずしも陰陽師ではなく、私達を見ることすらできなかった。
私達は人間に化けて秀一様に会いに行った。
時には恋仲になった者もいた。
私も明治時代の秀一様と夫婦になり、子を授かった! 満足だった!
そして今世の秀一様は陰陽師の家系に生まれ変わった。
私達は歓喜した。私達式神は秀一様にお仕えしてこそだ!
しかし今世の秀一様は、私達を使役するほどの実力がなかった。狐と鬼だけで精一杯だった。
陰陽局の幕僚長になっていた私は、沖田に秀一様を鍛えるように命令した。
そしてそろそろ秀一様に再び仕えてもらおうとしたその矢先に、憎き愉悦之神が、私の仲間を捉えた。
その時私は陰陽局の結界の中にいたから助かった。
また私一人だけ……。
私はいつまで見ていればいいのだろうか。そう思って落ち込んでいたら、秀一様は次々と仲間達を助けだし、再び式神として従えてくれた!
やはり秀一様は私達の御主人様だ!
「ああああっ! もうたまらん! たぎる! 至る! ふおおおお!」
私は秀一様の抱き枕を乱暴に抱きしめて、そのままゴロゴロと転がり、ビッタンビッタンと跳ねまくった。
浄土世界で煌姫に会わねば。
画面越しでは伝わらない秀一様の感想を聞きたい!
そして盗……ゲフンゲフン。秀一様の成長を記録するために、写真を撮って来てもらうように依頼しなくてはならない!
動画キャプチャでは画質が悪いのだ!




