第7話 レベルアップと閃き
俺達にはチートみたいなパッシブスキルがいくつかあった。そのうちの一つがアナライズだ。いわゆる鑑定スキルで、モンスターを集中して見ると、名前とレベルが浮かび上がる。目を離すとすぐに消えるけどな。
森の中を少し進むと、木の陰に茶色い小鬼みたいな奴が隠れていた。見た目はファンタジーゲームでよく見る奴だけど、名前はグレイブ。レベルは二。近くの木の陰にもう一体いるが、待ち伏せしてるのがバレバレなんだよな。俺は琴音に目配せをすると、琴音は頷き返してきた。
俺達は気づかないフリをしながら距離を詰め、相手が動く前に一気にダッシュ!
直前になって待ち伏せがバレたと気づいたのか、小鬼が動揺した。しかしもう後の祭りだ。手に持った錆びた短剣を構える前に、剣のスキル、スラッシュで首を一刀両断した。
グレイブは何が起こったのか理解できない顔のまま頭が飛び、首から血しぶきを上げて絶命した。
ちょっとグロ過ぎて、アリサさんが口に手を当てている。
配信だとモンスターもポリゴンキャラになるんだよな? もしかしたら、血しぶきとか、真っ赤じゃなくて、虹色になってたりして……
琴音の方を見ると、既に切り伏せて、剣を鞘に収めるところだった。
「二匹だけか」
「そうだね」
「良く人型のモンスターを斬れるわね……」
アリサさんが頭のない死体を見ないようにしていた。
「まぁ……やらないとこっちがやられるからな」
「躊躇がないところが怖いって言ってるのよ」
え? ドン引きされてる?
「アリサさんは経験値入った?」
ナイス琴音! 話が逸れるといいな。
「えっと……入ってるわね」
「良かった」
「あっ! レベルが二になってる!」
「本当だ! ステータスポイントもらえてる!」
「こっちは何もしてないのに悪いわね」
「気にしなくていいぜ」
「そうそう。気兼ねなく倒せるしねー」
「そっち!? ちょっと好戦的過ぎない?」
「はーい! レベルが上がったね!」
琴音の案内妖精が出てきた。
「ステータスを確認してみて! 筋力とか魔力とかが上がっているよね!?」
「あぁ。上がってる」
「ステータスポイントがもらえてるはずだけど、今は使わないで欲しいの。冒険から戻ってから使ってね!」
「どうしてだ?」
「例えば筋力に振れば、強制的に肉体改造されて、強い筋肉痛に襲われるの」
「えええ! ムキムキマッチョになっちゃうの?」
「ボディビルダーみたいな、見せるための筋肉じゃないから、心配しなくていいぞ」
「なら良いけど」
「……多少腹筋割れるかもだけど」
「えええ!」
「俺はどんな琴音でも大好きだぞ」
「秀ちゃん……」
「ちょっといいかな? まだ話は終わってないぞ」
「あ、はい」
「痛みはすぐに治まるけど、ステータスを上げる時は、安全な所でしてね」
「わかった」
「それともう一つアドバイス。剣を振るえば剣技が上がり、技――スキルのレベルが上がったり、新しいスキルを閃いたりするよ」
「どういう事だ?」
「どうやったらうまく剣を振るえるか、スキルはどうやって使うか、そういった事をこの世界が教えてくれるんだ。脳に使い方を定着させるとか、インプットさせるって言えばわかるかな? そして時には新しいスキルや魔法を定着せる。まるで自分で閃いたみたいにね!」
「何それ怖い」
「口で説明してもわからない事もあるから、実戦で確認してみて!」
まるで案内妖精の説明が終わるのを待っていたかのように、敵意ある気配がした。
「なんか来るぞ! アリサさん下がって!」
「えっ!」
ガサガサと茂みの奥で何かが走る音がした。それも複数だ。
「火の精霊よ。紅き矢となれ……」
茂みの奥から、毛むくじゃらの蜘蛛が飛び出してきた。でかい。大型犬くらいあるぞ。
「ファイア・アロー!」
火の矢が蜘蛛の腹にカウンター気味に命中し、その腹を爆散させた。
「ライトニングブラスト!」
隣で琴音が放った稲妻が、別の蜘蛛を絡めとり、黒焦げにした。
「キモいキモい! 閲覧注意いいいい! 苦手な人は配信閉じて! また見に来てよねぇええ!」
アリサさんは流石ベテラン配信者だ。しゃべりながら杖で蜘蛛を叩くとは。
ひるんだ蜘蛛に向かって、俺はスラッシュを放ち二つに切り裂いた。
「輝き燃えたる火の精霊よ。我に集いて力を示せ! ファイアーボール!」
琴音は蜘蛛近づきたくないのか、遠距離に徹してるな。茂みの向こうで、複数の蜘蛛が爆散した。ついでに茂みも吹き飛んで、視界が一気に開けた。おいおい奥からぞろぞろと来るじゃないか。
「囲まれないように、下がりながら戦うぞ!」
「了!」
「てか逃げよう! もう帰りたい!」
アリサさんの叫びは聞かなかったことにして走る! 走る! 走りながら魔法を撃つ! 蜘蛛達は木に糸を吐き、ワイヤーアクションみたいに飛んで追いかけてきた。
火事になるんじゃないかって思うほど、火の魔法を撃ちまくったが、薄暗く湿った森のせいか、思った程火が燃え移らない。まだ弱っちいからか?
魔法を連打してると、今度はアイスランスの魔法を閃いた。なんて都合がいい! 案内妖精がこの状況を把握して、スキルを解放してるんじゃないかって疑っちゃうぜ。
「水の精霊よ。冷気をまとい、槍となれ!」
突き出した手の先に、青白い光が集まり、瞬く間に氷の槍が出来上がる。
「アイスジャベリン!」
氷の槍が蜘蛛を貫通し、たまたま後ろにいた蜘蛛まで貫いた。
「こっちの方が買取高くなりそうだな!」
余裕あったら後で回収したい。
「私も閃き来た!」
「そんな余裕なし! キモいのは燃やすううう!」
「秀ちゃん! でかいのくるよ!」
「オッケー!」
バキバキと木々をへし折る音が響き、車ほどある大きな蜘蛛が見えた。
「いやあああっ! キモいいいい!」
本来なら駐屯地に逃げ帰るべきだろうが、そんなカッコ悪いことはしたくないな!
「輝き燃えたる火の精霊よ。我に集いて力を示せ! ファイアーボール!」
牽制に火の玉を撃った後、走る勢いのまま近くの木を駆け上がり、デカ蜘蛛の真上へとジャンプする。今更ながらデカ蜘蛛を凝視すると、スキルが発動した。ジャイアントスパイダー・レベル8! こっちはさっきからガンガン経験値入ってレベル五だ。格上過ぎるってほどでもないな!
「援護任せて!」
琴音は身体を捻ってとんぼ返りしながら反転し、身を低くしながらデカ蜘蛛に向かった。
蜘蛛が上か下か迷う。その一瞬が命取りだ。
剣を下に向けると、急にスキルを閃いた!
「フォール・ストライク!」
落下しながら蜘蛛の腹の上に剣を突き立てる。抵抗は一瞬。貫通してキモイことになるかと思いきや、蜘蛛の腹が爆散した。
うげぇ。蜘蛛の体液やら糸の素やらを浴びてしまった。
「なんなのあの動き! あんなアクロバットな動き、普通できないわよ!」
流石アリサさん。配信を意識して話してる。
俺も琴音も配信の事が頭から抜けていて、気の利いたことを話せていない。
「えっ? 私も凄い? ブレイブハートって言うパッシブスキルがあるから戦えるけど、あんな戦い方できっこないわ!」
アリサさんの背後から蜘蛛が! コメントなんて読んでるじゃねぇ!
「火の精霊よ」
俺は大きな声で詠唱し、琴音に目配せする。
「アリサさんしゃがんで!」
「紅き矢となれ!」
「え?」
「しゃがめぇえ!」
琴音が強めに叫ぶと、やっとアリサさんがしゃがむ。
「ファイア・アロー!」
火の矢はアリサさんの頭上をすり抜け、蜘蛛の頭部を破壊した。
「ひいいっ!」
「っあぶなー!」
「ナイス避け! とっさに動けるのは凄いぜ!」
「そうそう。それが生きるか死ぬかの境目だよね」
「え? もしかして私、死にそうだった?」
「シールドがあるから、ちょっとは持つかもしれないけど……」
「後ろから羽交い絞めにされてカミカミされたら、あっという間かもしれないね」
「怖い事言わないでよ!」
この後俺達は撤収する事にした。アリサさんの気力が限界っぽいし、何より服が蜘蛛の体液で気持ち悪いし……。体を拭くタオルとか、飲み水以外の水も持ってくるべきだな。




