第77話 大天使調伏
地上に戻ると、師匠達が大の字になって倒れていた。
疲労困憊で動くことができなさそうだ。
狐鈴の姿がないな……どこに行ったんだ?
「やっと戻ったか。お前ら後で扱きな」
「えええっ! 俺達ちゃんとやりましたよ! 大天使だって倒したし!」
「うるせぇ! 狐様を制御できるようになれ!」
「んな無茶な!」
「お前が主だろう!」
「いやいや、沖田さん。あれを制御しろなんて無茶ですよ」
真田さんがなだめてくれた。イケメンすぎる。
「それはそう。でもお仕置きは必要」
一方御影さんは厳しい。それほど危険だったってことか。
「あぁわかったよ。んじゃ、王国から無茶ぶりされたらお前らが担当な」
「えええっ!」
「流れ弾を防ぐのがどんだけしんどかったか……。なんだあのふざけたレーザーは! 一発受け止めるだけで死を覚悟するほどだぞ」
「ぐっ……それで狐鈴は……」
「貸しにしてやるとか言って、逃げやがった」
「あいつめ……」
「まぁ、あの狐様に貸しを作れたし、良しとするか」
「本当に貸しって思ってくれますかね?」
「……怪しいところ」
「あぁ見えて義理堅いところあるぞ」
「じゃあまぁいいか」
「この貸しは大きいわね」
「それで、そいつが煌姫ってやつか?」
師匠が元大天使の方を見た。
「このたびはご迷惑をおかけしました」
「あぁ。死ぬかと思ったぜ。お詫びの代わりに一つ教えてくれないか?」
「なぁに?」
「愉悦之神とやらに捕まって、操られていたのか?」
「はい。私達は元々秀一様の式神でした。正確には秀一様の前世、それより前の前世からと……」
「代々式神として仕えているのか?」
「ええ。ただ、秀一様は毎回陰陽師に生まれ変わるわけではないの。前の時代も、その前の時代も、秀之介様は陰陽師じゃなかった」
「そりゃそうだろうな……」
「私達が憑りついていると、秀一様に負担がかかることもあったの。だから私達は妙光如来様の元で、修行をしながら、陰陽師に生まれ変わるのをずっと待っていた。今世は陰陽師に生まれ変わって、私達は歓喜したわ。でも、平安の時代と比べて、秀一様の力はあまりにも弱かった。私達全員で憑りついたら、負荷がかかって、迷惑がかかる。だから私達は、秀一様が力をつけるまで待っていたの」
「俺は……まだ一度に五人も呼べない」
憑りついているだけで、負荷がかかるってどんだけすごいんだよ。それを一度に全員呼ぶとか想像もできない。
「私達は十二人よ。十二姫将なんて呼ばれていたわ。頑張ってね」
「ええええっ!?」
「とんでもねぇな。俺様だって一度に十二体は呼べねぇぞ。で、肝心な話はこれからだよな?」
「ええ。待ちきれなくなった私達は、一度に十二体は無理でも、交代でお仕えしようって決めて、浄土世界を飛び出したの」
「そこで愉悦之神に捕まったと」
「その通り。私は抵抗して転生は免れたけど、捕まって依代にされたの。秀一様。改めて救ってくれて感謝するわ。また会えるのを、どれだけ待ち望んでいたことか……」
「事情はわかったけど、俺の方は何も覚えてない。というか前世のことを言われても……」
「そうね。では私のことは煌姫ではなく、エリスと呼んでね。他の式札と同じこっちの名前でよろしくね」
「わかった。よろしくな」
「はい。ご主人様」
煌姫、いや、エリスの視線が熱を帯びた瞬間、琴音が割って入ってきた。
「ちょっと! 黙って聞いていれば!」
「あら、琴音様。私は秀一様を取ったりしないわよ」
「え?」
「秀之介様と琴姫様が、同じ時代に生まれ変わって、再び出会えた。それを邪魔する気はないわ。他の十二姫将は知らないけど」
琴音の表情が険しくなる。これ以上は危険だ。
「琴姫……うぅ……」
「もうその話はいったんやめよう」
俺より先に、真田さんが割って入った。
「あら、ごめんなさい」
「なるべくその姿で現れない方が良い。大天使だった頃の姿になれないか?」
「えぇ。むしろそうしないとダメね。今はそうね……未調伏の状態? もう一度秀一様に調伏してもらう必要があるんだけど、煌姫として調伏されると、秀一様に負荷がかかり過ぎて、呼び出せないと思うの」
「えっ! そうなのか!?」
「えぇ。他の子もそうよ。真名で呼び出せば、きっと記憶も戻る。でも今の秀一様だと呼び出せない。むしろどうして狐を呼び出せるのか不思議だわ」
「狐鈴も同じだよ。真の姿で顕現していないから、呼び出せているんだ」
「なるほど。じゃあ大きな狐の時は、相当きつかったのね?」
「あの状態でもまだ真の姿じゃないんだ」
「とんでもないわね……」
「それじゃあ調伏するよ。エリスとして」
「はい。お願いね」
「オン・カンマニ・パドマ・シャリラ・ソワカ! エリスよ。調伏の印、いま結び奉る。縁鎖・魂縛・理鎖・封絶・従命! 急急如律令!」
「あぁ。この時をどれだけ待ち望んでいたことか……」
「ねぇ。秀ちゃん」
「どうした? 琴音」
「呼んでるの……轟雷童子が……」




