第4話 冒険の準備
「そろそろ行くわよ?」
俺達は案内妖精に言われて、ギルドの受付に向かった。
ギルドの受付は喫茶店のカウンターみたいな造りで、中に女の人が三人立っていた。
「異世界の人? 日本語通じるかな?」
俺は心配になって案内妖精に聞いた。
「大丈夫よ。あなた達には言語理解っていうパッシブスキルがあるの」
パッシブスキルは常に効果が発動しているスキルの事だ。
「それに彼女達は異世界人じゃないわよ。普通に日本語が通じるから安心してね」
それってどういうことだ?
「ようこそ。冒険者ギルドへ」
受付嬢らしき人がにっこり笑顔で出迎えてくれた。
「あの。俺達初めてで……」
「えぇ。知ってますよ。ここはあなた達プレイヤーのための施設ですから」
やっぱりこの人、享楽之神の関係者なのか?
「ここはギルドのクエストカウンターです。冒険に出る際は、是非クエストを受けてからにしてくださいね」
「報酬がもらえるから?」
「それもありますが、冒険する場所が、貴方達のレベルにあった場所なのか、アドバイスできます。もし実力に合わない場所へ行けば、死んでしまいますよ」
にっこり笑って、サラッときついこと言うなぁ。
「ここら辺って、そんなに危険な場所なのか?」
「そんなことないですよ。ここは衛星都市フェルミア。それなりに大きな都市です。都市を守る騎士団や魔導士団がいるので、周りにはモンスターがいません」
「安全なんだ。でもそれじゃあクエストなんてあるの?」
琴音が首を傾げて聞いた。
「はい。フェルミアから少し離れた場所に大きな森があるのですが、モンスターが多数生息しています。繁殖も早いので、モンスターを間引きをするクエストが常にあります。森に生息するモンスターは様々で、奥まで行かなければ、弱いモンスターばかりなので、駆け出しの冒険者には、うってつけのクエストですよ」
「じゃあその間引きのクエストを受けるでいいよな?」
「うん。いいよ」
「いいんじゃない?」
「その森はどこにあるんですか?」
「ファーミルの森はここから歩いて三日程の場所にあります」
「三日!?」
アリサさんが大声を上げた。
「ちょっと遠いな……」
「ちょっとどころじゃないでしょ! 現地に着いてから配信するにしたって、三日後? その間どうするのよ……。ねぇ、案内妖精!? なんか良い方法ないの?」
「は~い。それならアストラルゲートを使うのがいいわよ~」
「何それ?」
「えっとね~。転移用のストーンサークルって言えばわかるかな? 石でできた立体魔法陣よ~。見ればわかると思うわ~。そのアストラルゲートに登録するとね、登録されてるアストラルゲート間を瞬間移動できるの~。この街にもファーミルの森にも、アストラルゲートがあるから、一瞬で行き来できるわ~」
「便利そうだけど、結局一度は自力で行かないとダメってことよね」
「登録済の魔法のネックレスがあるわ~。道具屋とかで売ってるから、それを買うといいわよ~」
何もかも都合よく設計されてる世界だな。楽でいいけど。
「それでは、『ファーミルの森に生息するモンスターの間引き』クエストを受注しますか?」
「はい」
「では冒険者カードの提出をお願いします」
「冒険者カード?」
「はい。アイテムボックスに入っていると思いますよ」
メニューからアイテムボックスを開いてみると、確かに冒険者カードがあった。取り出してみると、身分証明書のカードみたいだ。名前やレベル以外は空白だった。
「これ?」
「はい。お預かりします」
受付嬢さんが指でなぞって返してくれた。魔法で登録でもしたのか? 確認してみると、所属ギルドに『フェルミア・第三冒険者ギルド』とクエスト名が追記されていた。
「初心者用のクエストなので期限はありません。モンスターを討伐すると冒険者カードに記録されますので、討伐後は冒険者カードの提出をお願いします。また当ギルドではモンスターの素材を買い取りしています。是非当ギルドをご利用くださいね」
「わかった」
「それでは頑張ってください」
「次は冒険の準備だな」
「異世界で買い物ね! なんかドキドキする!」
「アイテムボックスにお金入ってたよね!」
買い物と聞いて女性陣のテンションが上がった。俺も楽しみだ。
ギルドの外に出ると、大きな道があった。人や馬車が行き交っている。都市の建物は二階建てや三階建が多い。商業施設が集まってる区画なのかな?
「うわあっ! すごい! すごいよ秀ちゃん! 本当にファンタジー世界だよ!」
「テンション上がるな!」
「でもなんて言うか、中世ヨーロッパと言うより、中世ヨーロッパ風に作った観光地ね」
確かに生活感がある街並みだけど。実際の中世の街はこんなに綺麗じゃないだろう。日本人が考えそうな、ファンタジー世界の街並みだ。
「さて、セレナ。冒険に必要な物を売ってる店に案内してくれ」
「はーい。着いてきて。ってまぁ向かいの店なんだけどね」
向かいの店は、二階建ての大きな店だ。入ってみると、食料品や道具等を扱っていた。
「どれを買ったらいいのかしら?」
「まずは食料だな。日帰りできる場所でも、万が一ってこともあるし」
「応急セットとかはあるかな? あ、でも初級の回復魔法があるかぁ」
「魔力切れも想定しないと」
「確かに! 魔力回復アイテムって高そうなイメージだけど……」
「安かったら買っておこう」
「そうだね。探してみる。消毒薬と止血帯もあるかな?」
「シールドがあるから平気じゃない?」
「怪我するのは戦いだけじゃないだろう」
「転んだら普通に怪我しそうだしね」
「それにシールドがどれくらい持つのかわからないしな」
「なるほど。ねぇ。なんかあんた達詳しくない?」
「応急訓練とか受けてるからな」
「剣術やってたんだっけ? その一環?」
「……まぁそんな感じ」
「ふぅん。じゃあ私も同じのを買えばいいわね」
俺達は数日分の食料と水、初級の回復ポーション等、冒険に必要そうなのを購入した。
ポーションでシールドを回復するってなんか変な感じだ。
「店員さん。ポーションってシールドを回復できるのか?」
言語理解のパッシブスキルのおかげで、この世界の言葉が理解できるし、話す事もできる。これって凄いチートスキルだよな。
「シールド? 防御魔法のことですか?」
「え?」
ポーションを凝視すると、空中に文字が現れ、初級ポーション。怪我とシールドを少量回復するって説明が現れた。なんだこれ。鑑定のスキルか? まぁいいや。やっぱりポーションでシールドを回復できるみたいだ。
「店員さんはシールドないの?」
琴音が首を傾げた。
「お客さんが何を言ってるのかわからない。防具は扱ってないよ」
俺達は顔を見合わせた。どうやらシールドって、俺達プレイヤーにしか備わっていないみたいだ。いわゆるチート能力とか異世界転移特典とかそういうのだろうか? 後で案内妖精に聞いてみよう。
そうそう、ファーミルの森へ行ける魔法のネックレスも忘れずに買った。歩いて三日程度の距離だからか、思ったより安くて、アイテムボックスに入っていたお金で十分足りた。そもそも魔法の文明が発展しているのか、魔法のアイテムが高くない。ゲームっぽい先入観は良くないな。
「そう言えば、あんた達って高校生?」
「そうです。高校三年生です」
「え! 受験生じゃない! うわぁ。なんて言うか……」
「大丈夫ですよ。俺も琴音も家業を継ぐことになってるから」
「えっ!? そうなんだ」
「私達って実は由緒正しい家系なんだよ! 一応修行中の身? バイト扱いだけど、現場で働いてるし!」
「高校最後の年だから、自由にさせてもらってる。だから配信とかやってみたくて」
「なんか大変そうね」
「まったく休みってわけでもないけどね」
「へぇ…修行って伝統工芸品を作るとか? それともさっき言ってた剣術とか?」
「伝統と言えば伝統かも?」
「代々引き継がれてる秘伝の技とかあるよね!」
「同じ流派なの?」
「俺の家が本家で、琴音の家が分家なんだ」
「へぇ。それで幼馴染なんだ」
「うへへ。もう運命だよね!」
「……そうなんじゃない?」
アリサさん、少しだけ面倒くさそうな顔をしていた。
アストラルゲートは都市の外にあったので、思ったり時間がかかってしまった。
「それじゃまた明日ね。十時でいい?」
「ちょっと遅くない?」
「配信者の朝は遅いのよ。あんた達は学生だから、夜遅くまでやってないだけでしょ?」
「俺達は動画投稿スタイルだから」
「今日からライブ配信に切り替えた方がいいわよ。これは先輩からのアドバイス。他の人達もライブ配信がメインになると思うわ」
「確かに。その方が臨場感あるか」
「どんなことを話せばいいの?」
「そうね。まずは明日の予定を話すのがいいんじゃない? それから意気込みとか、森の中で戦うにはどうしたらいいの? とか視聴者に聞くのもありかもね。それと両親へのメッセージ。これは絶対よ」
「はい! ありがとうございます!」




