第202話 それぞれの戦い
俺は牛頭を倒すと、魔王に注意を向けながら琴音の様子を見た。
戦闘音と琴音の呪文を耳にしていたから、有利なのは分かっていた。
「オン・アーラ・ヴァジュラ・カーンタ・ソワカ! 浄化の光輪により、穢れを焼き、闇を祓う!」
琴音の刀に梵字で出来たリングが幾重にも巻き付いた。
「妖魔討滅! 浄刃・陽光輪! 急急如律令!」
琴音の刀から純白の炎が噴き出し、馬頭の上半身を吹っ飛ばした。
そのまま返す刀で下半身も抉り取ると、残った足は灰となって吹き飛んだ。
魔王は式神を封じ、物理攻撃に強いモノを仕向けてきたようだけど、俺と琴音は近接でも戦えるからな。
どうだ! と魔王を見るが、顔が牛の頭蓋骨だから顔色がわからない。
一方狐鈴は……
「人に仕える狐か。尾も牙も泣いておるわ!」
「カカカ! 玉藻前の名と怨念を元に作られた紛い物が、よう吠えるのぉ!」
炎や雷の魔法を繰り出しながら、問答していた。
「わらわを紛い物呼ばわりとは、万死に値する!」
玉藻前の尻尾が光ったかと思うと、狐鈴の目が見開いた。
すると一瞬狐鈴がビクッと動揺したが、柏を一つ叩いて、冷静さを取り戻した。
「味方の死を見せたか……。性格が悪いのぉ」
「それでも一瞬の隙ができたぞ」
狐鈴の周りに呪符が現れ、大量の狐火が次々と放たれ、狐鈴に襲いかかった。狐鈴は避ける暇もなく、狐火に包まれ、轟音と爆発した。
炎が晴れると、そこにいたのはいつもの巫女服ではなく、ピンクのフリフリドレスに、ハートのステッキを持った魔法少女(?)がいた。
「マジカル☆フォックス! いっくよー!」
「なんと面妖な! 恥を知れ!」
玉藻前が手に持った扇子を一振りすると、炎が三日月状に広がり、狐鈴に向かって襲いかかった。
「マジカル☆バスター!」
ちなみにマジカルは可愛い声で、後半のバスターは気合いとドスがきいた叫び声だ。
光の奔流が炎を飲み込み、玉藻前に迫る。
「くっ」
玉藻前は瞬間移動のように空中に回避した。
「マジカル☆ショット! いっぱいじゃぁああ!」
ハート型の魔力弾が大量に放たれ、玉藻前に襲いかかった。
しかし玉藻前は瞬間移動しながら避け、お返しとばかりに、火球を次と放つ。
「いいのぉ! いいのぉ! 魔法少女っぽい戦いじゃのぉ!」
狐鈴の魔法少女の定義が物騒過ぎる。
狐鈴と玉藻前との攻防が続くのを横目に、俺はアリサの方を見た。
般若は攻撃の手を止め、アリサに何か語りかけていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「憎くないのか?」
般若は戦いの手を止め、アリサと対峙していた。
妖怪としての般若は、女性が持つ強い嫉妬、怒り、怨念、そしてその裏にある深い悲しみが具現化した存在だ。
精神的な攻撃をしかけようとしているのか?
「何が?」
アリサはイライラした声で返した。
「我は知っておるぞ。お前が愛する者に側に、女の影があるだろう?」
アリサの心を読んだのか?
「女の影? 琴音ちゃんのこと?」
「そうだ。憎かろう。邪魔であろう。それを隠すのはしんどいであろう」
「はぁ? もう慣れたわ。私は私の好きにする。それに私って秀一君の眷属なのよ。それってワンチャンあるかもじゃない?」
「強がるな。お前の奥底には、ドス黒いものがある。見えぬふりをしているだけだ」
「……そうね。羨ましかったわよ。秀一君の隣で笑う琴音ちゃんが」
「そうであろう。そうであろう!」
「悔しかったこともある。胸が痛くなったこともある。どうして私じゃないんだろうって、思ったこともある」
般若の口元が、嬉しそうに歪んだ。
「やはり……やはり!」
「でもね。それを琴音ちゃんを憎む理由になんてしない!」
アリサの周囲に陽炎が揺らめいた。
「秀一君が好き。この気持ちは本物よ。何度も自分に聞いたわ。でも琴音ちゃんも大切なの」
「世迷言を……」
「琴音ちゃんは恋敵かもしれない。でも、それだけじゃない!」
アリサは一歩踏み出した。
「一緒に戦って、一緒に修行して、一緒に笑って、私にとって琴音ちゃんは……大事な親友なのよ!」
「綺麗事を! 怒れ! 憎め! 呪え! 我のように!」
般若の髪が柳のように伸び、アリサに襲いかかった。
「来い! 朱雀!」
いつもとは違う、孔雀くらいの大きさの朱雀がアリサの影から飛び出し、迫り来る般若の髪を、身にまとった炎で燃やしながら、般若に体当たりした。
「ぐあああっ!」
朱雀はそのままスゥっと消えた。なんて省エネな術だ。
「おのれぇ!」
般若の手にスゥっと刀が現れた。
「白虎!」
般若が何かをする前に、熊くらいの白虎がアリサの陰から飛び出し、その場で爪を振るうと、真空波が放たれた。
般若は刀で受け止めようとしたが、刀ごと体を引き裂かれた。
「玄武!」
今度は般若の足元から、車くらいの玄武が現れて突き上げつつ氷漬けして消えた。
「青龍!」
そして氷漬けになった般若を、丸太くらいの太さの青龍がばねのようにぐるぐると巻き付き、稲妻を放って消えた。
般若はズタボロになりつつも、まだ存在していた。
しかし青龍が攻撃している隙に、アリサの呪文が完成した。
「妖狐の焔よ、此処に顕現せよ!」
アリサが結ぶ手印の先に、青い狐火が現れた。
「妖炎爆雷! 急急如律令!」
放たれた青い狐火が、般若に着弾すると、耳をつんざく轟音と共に、般若の後方に向かって爆裂した。
爆発の方向まで操れるとは、出会ったころは想像もできなかったよ。
般若は跡形もなく吹き飛び、残るは玉藻前と魔王のみとなった。




