第201話 魔王の式神
「式を失った陰陽師など、牙を抜かれた獣に等しい」
「カカカッ! 魔王よ! お主、時代遅れじゃな! 秀一と琴音は式がなくとも戦えるぞ!」
狐鈴の言う通り、現代の陰陽師は式神に頼り切った戦いはしない。
そもそも今の時代、《《本物の式神を使える陰陽師》》は少なくなった。その分、身体能力の向上と術を発展させてきた。そして人造式神や機動式神を作り出し、時代に合わせてきたんだ。
しかし式神が最大の武器となることには変わらない。それも古から存在する式神は桁外れに強い。
今だって狐鈴がいるから、こうやって呪文を唱えられている。
浄土世界で修行したので、祈りが神様や仏様に届きやすくなり、サンスクリット語だけで術を出せるようになったが、やはりフル詠唱の方が威力が高い。そうでないと魔王には通用しなさそうだしな!
「……天焔浄滅! 急急如律令!」
「……聖焔祓・浄滅! 急急如律令!」
俺と琴音が放った聖なる炎が魔王を包み込んだ。
「ふははは。これで式が不要だと?」
しかし一瞬にして炎を吹き飛ばされた。くそっ! 全然効いてないぞ!
アリサの長い詠唱が終わる。アリサなら!
「……ここに来たれ! 朱雀! 急急如律令!」
空が裂け、朱雀が姿を現した。
「む。そっちの娘は、安倍晴明の子孫か?」
流石に朱雀を返すことはできないのか、魔王は下がって距離を取りつつ印を結ぶと、五芒星の防御障壁を張った。
その次の瞬間、紅蓮の炎が魔王に伸びたが、防御障壁によって四方八方に飛び散った。
朱雀の炎まで防ぐのかよ!
「まずは小手調べよ」
魔王が呪文を唱えつつ印を結ぶと、黒い襖が四つ現れた。そしてそこから出てきたのは、鬼や妖怪達だった。
一体は牛の頭を持つ鬼。
『牛頭・レベル999』
もう一体は馬鬼。馬の頭を持った鬼。
『馬頭・レベル999』
牛頭馬頭と言えば地獄にいる鬼で、亡者達を責める怖い存在だ。
さらにもう一体は豪華な着物を着た女性の鬼。
『般若・レベル999』
般若は女性の恨みや悲しみなどの怨念が、鬼となった存在だ。
二本の角を生やし、怒りの形相は怨念そのものだ。
最後の一体は、白い着物を着た美女。
頭には狐の耳、そして後ろから九つの尻尾が見える。
『玉藻前・レベル999』
またとんでもない妖怪が現れた。九尾の狐じゃないか。
大妖怪だぞ。
こいつらもヤマタノオロチと同じく、伝説上の妖怪や鬼ではなく、妖術によって作られたまがい物だろう。
牛頭が巨大な斧を振りかざし、俺に向かって狂ったように突進してきた。
琴音には馬頭が、アリサには般若が、そして狐鈴には玉藻前が襲いかかって来た。
魔王は!? 後方で腕組してやがる!
あの余裕面に一発拳を叩き込みたい。
「ブモォオ!」
牛頭の目が真っ赤に血走り、まるで知性が感じられない。
もしかして、こいつは失敗作なのか?
ええい! 魔王を気にかけている余裕はない!
牛頭が振りかぶった斧は、真っ黒なオーラをまとっている。あれは高濃度な瘴気か!?
振り下ろされた斧は、乾いた地面を破砕し、粉塵が舞った。
視界が悪い中、斧が横薙ぎに襲いかかってきた。
「オン・アグニ・カジャラヤ・ソワカ! 天より降りよ、邪鬼断罪の刃! 召刃・天焔業刀! 急急如律令!」
俺は刀を召喚し、襲いかかってきた斧を真上に弾いた。
体勢が崩れたところに、横薙一閃。
「月環刃!」
銀の光が弧を描き、牛頭の右足を斬り裂き……斬った端から再生している!?
濃すぎる瘴気のためか!?
俺は襲い掛かる斧を、縦に横に避けながら呪文を唱える。
「オン・アグラ・ミトラ・スディヤ・ラジュラ! 穢れよ散れ、天に召されよ! 聖焔祓・浄滅! 急急如律令!」
牛頭の足元から光の柱が上がり、その巨体を浄化の炎で包み込んだ。
炎が晴れると牛頭の体中から瘴気が漏れ出し、あきらかに動きが鈍った。
「紅蓮撃!」
俺の炎をまとった斬撃が、牛頭の腹を斬り裂いた。
「雷閃斬!」
最後の悪あがきで斧を振るってきたその腕を、稲妻の斬撃で斬り飛ばした。
これで終わりだ! そう思った瞬間、斬り飛ばした腕が斧を持ったまま回転して襲ってきた。
「ぐっ!」
油断した! 避けきれない!
ギィィン! と嫌な音と共にシールドが削れていく。
シールドを削った腕は、そのまま牛頭の元へ戻り、元通りにくっついてしまった。
牛頭が印を結ぶと、炎が次々と現れ、俺に向かって放たれた。
それと同時に牛頭も突っ込んできた。
俺は直撃する炎だけを刀で弾きながら、本命の斧を見極めて弾いた。
しかし今度は牛頭の膝蹴りが飛んできた。
またしてもシールドが削られる。
それでも密着した状態から、俺は瞬時にアイテムボックスから札を取り出し、牛頭の脇腹に当てた。
「オン・タラカ・ホン! 爆破符・焔散! 急急如律令!」
こっちも至近距離での爆砕によってシールドが削られたが、牛頭の脇腹を抉り、奴はバランスを崩して吹っ飛ばされた。
「オン・ヒマ・シタ・ソワカ! 水の理、寒威の気よ! 氷霜招来! 急急如律令!」
そして倒れたところに氷の槍を放ち、斧を持った腕を地面に縫い留めた。
「オン・クティラ・カラシャナ・バザラ・サトバ・ソワカ!」
俺が印を結ぶと、光の筋が残り、宙に梵字が残った。
そして頭上に梵字と幾何学模様で構成された、巨大な和風の魔法陣が現れた。
「天光満ちる神威の刃。穢れを断ちて輪廻を正す! 浄天滅闇! 悪鬼退散! 急急如律令!」
魔法陣から光の剣が次々と放たれた。
牛頭は避けようともがくが、腕が氷の槍に縫い留められて動けない。
「ブモォォオオオ!」
牛頭は断末魔を上げながら、光の剣によって体中を抉られて消滅した。




