第200話 神々の思惑
ヤマタノオロチを倒した式神達が戻ってきた。
「みんな良くやってくれた!」
俺が声をかけると、みんな手を取り合って喜んだ後、案内妖精に向かって、勝利のポーズを取った。
コメント欄が大盛り上がり……あれ?
盛り上がるどころか、これって現実だったの? とか、本物の異世界? などとコメントが流れていた。
享楽之神の強制力が働いていない?
そして辺りに漂っていた案内妖精が消えた。
「えっ! ちょっとどうしちゃったの? 配信が止まっちゃったじゃない!? 出てきなさいよ!」
アリサが慌てて辺りを見渡したが、案内妖精は消えたまま現れなかった。
「ここからは私達が変わるわ」
そして見たことがない別の妖精達が現れた。
「私達は愉悦之神様が作り出した妖精よ。あいつらは消えてもらったわ」
「どういうことだ?」
「今、あなた達の世界……地球は滅茶苦茶になってるの」
「え!?」
「少し前から、様々な神様が動き出したわ。今、あなた達の世界は大混乱よ。その影響で享楽之神様の強制力はなくなり、あなた達の配信は、ゲームを実況プレイしていると認識されなくなったわ」
「え! じゃあアバターは!?」
アリサが慌てて妖精に詰め寄った。
「それは大丈夫よ。ちゃんとアバターに変換されているし、享楽之神様がやけを起こしても、愉悦之神様がフォローしてくれるわ」
「よかった……」
アリサはホッと胸をなでおろした。
「享楽之神様は非難されるでしょう。あなた達を拉致したこと、無理矢理モンスターと戦わせて見せ物にしたこと。もう終わりよ。神力を集めるどころではなくなったわ」
「じゃあ俺達はどうなるんだ?」
「神様ですら契約に縛られるのよ。魔王を倒してグランドクエストをクリアしたら、あなた達は元の世界に戻れるわ」
「様々な神様が動き出したってどう言うことだ? 詳しく教えてくれ」
「世界中のありとあらゆる神様達が、享楽之神様と同じことを始めたの。つまり配信によって信仰心を集め始めた。これを見て」
妖精が指を刺した先に、巨大なスクリーンが現れ、ニュース番組が映し出された。
「突如現れた扉の先は、洞窟……いえ、ダンジョンです!」
興奮気味なリポーターが、マイクを持って石造りの通路を進んで行った。
おいおい。大丈夫か!?
「これは……私にしか見えないのでしょうか? ステータスが表示されました! 今話題になっている、LunaTubeの動画と同じです!」
パッとLunaTubeの画面に切り替わった。そこにはステータスウィンドウを見ている投稿主の姿が写っていた。
また別の画面に切り替わると、今度は天使の姿をした男女が英語で何かを話していた。
言語理解のスキルで英語がわかるぞ! 少し聞くと、神様について話しているみたいだ。
天使が直接説法しているせいか、多くの信者が視聴して、PVがありえない数字を叩き出していた。
別の動画では、神社やお寺の敷地内に大きな扉があった。あれは見覚えがある。常夏の島に現れたダンジョンの入り口とそっくりだ。
あのダンジョンと同じ仕様なら、さっきのリポーターは大丈夫そうだな。
また別の動画を見ると、LunaTuberがダンジョンの話をしていた。どうやらダンジョンに入るには、神様や仏様と契約して、ダンジョン内での活動を配信する必要があるみたいだ。
「今、あなた達の配信は注目を浴びているわ。これからダンジョン配信する人達が参考にするためにね。今だって同時視聴者数がすごいことになっているわよ」
確かに今までの書き込みとは、毛色が違うコメントがたくさん流れていた。
早く戦えとか、手本を見せろとか、好き勝手書いてるな。
ちょっとむかつくが、今は魔王を倒すことが先決だ。
「なぁ。魔王はどこにいる?」
俺は更地になったゴルドーラと魔王城の跡地を見た。
「ちょうど魔王城があった位置にいるわ。少し前の様子を撮ってあるから見せるわね。どうやら貴方達と因縁がある見たいよ」
そう言って妖精は別の映像を映しだした。
更地になった場所に人影が見えた。
あれが魔王か?
カメラがだんだんと近寄っていく。
「琴音。あれなんだと思う?」
「うーん。海老反りブリッジしながら、ブルブル震えているね。変態?」
あまりの言い方に、吹きそうになった。
さらにカメラというか妖精が近寄って行った。
「ふははは!」
魔王は海老反りから直ると腕を組んだ。最初は人間のような姿かと思ったが、妖精が映し出した魔王の顔は、まるで牛の頭蓋骨だ。
黒い鎧を身にまとい、大きな肩パットから、赤いマントが伸びていた。
「全くやってくれる! あいつらはお約束というのを知らんのか!? せっかく用意した妖魔の軍勢も、四天王も全て吹き飛んだぞ!」
そんな都合知ったことではない。
「最終決戦のシナリオが台無しではないか! だが! それも僥倖! 享楽之神によって縛られておる我は、魔王城から出られぬ運命だったが、魔王城が吹き飛んだぞ! もうこれで我は自由だ!」
すごい独り言だ。ずいぶん鬱憤が溜まっていたんだな。
「ねぇ、秀ちゃん。アルベールが、魔王って何も知らない操り人形だって言ってなかった?」
「確かに……前世の記憶が戻ったとか?」
「うーん。それなら納得?」
「我は我のために琴姫を秀之助の前で殺す。ついでにあの狐と女も皆殺しだ!」
「えっ!? 琴姫? 秀之助? 琴姫ってもしかして私? 私って実はお姫様だった!? シナリオ的に私がさらわれちゃう予定だったとか?」
琴姫は琴音の前世の名前だ。もう思い出させるのも、その名を聞かせるのもダメだ。少しジョークを入れてるところだって、無意識に自分でもよくわからない感情や気持ちを、誤魔化すためだろう。
深く考えさせないためにも簡潔に説明したい。
「秀之介は俺だ。あいつは……」
誰だ? 俺は月華に視線を送った。
俺と琴音の前世が、あの魔王の前世となにか関わり合いがあるみたいだけど、俺は煌姫から琴姫と秀之介の名前くらいしか聞いていない。
「朝霞行房公です。平安の時代、御主人様と琴音様の前世が討伐した怨霊です。奴は討伐されたのですが、少しだけ魂が残っていたようで、荒御魂として祀られていました。ですが……今は魔王の核に使われてしまったようです」
「逆恨みに俺達に復讐しようってことか?」
「そのようで」
「これは過去の録画だよな? 今は?」
「ここにいるぞ」
声と共に真っ黒な襖が幾つも現れた。それも式神達の真後ろに。
そして次の瞬間、襖が一斉に開き、中から真っ黒な腕が触手のように伸び、式神達を襖の向こうへ連れ去った。
ただ一人、狐鈴を除いて。
そして嫌な予感と共に、真っ黒な点が見えた。
あれはまずい! 俺はとっさに琴音を押し倒すと、すぐ頭上に真っ黒なレーザーが通り過ぎた。
さらに黒いレーザーが飛んできたが、狐鈴が防御障壁を張って防いでくれた。
しかしその防御障壁も今にも壊れそうだ。
「秀一! 琴音! シールドをオンにせよ!」
「わかった!」
「うん!」
シールドに頼らないなんて、魔王との戦いまで言ってられない! ゴルドーラで陽炎達と戦った時だって、シールドありでも油断なく戦えた。
修行の成果を出す時だ。
「ふむ。そっちの式はなぜ返せん?」
さっきの映像で見た魔王が、少し離れたところにいた。さっきまでいなかったはずだ!?
「返すだと!? 俺の式神達に何をした!?」
「式返しも知らんのか? 幽世に送り返したまでのこと。奴らは浄土に身を置く存在だろう? 幽世はさぞかし辛かろう。クっクック。さて、戻って来れるかな? おぉ。その顔を見れただけでも僥倖だ」
「安心せよ。童子の二人が導いてくれよう」
狐鈴が俺の背中にそっと手を置いた。
そうだな。紅蓮童子と轟雷童子も幽世に戻っている。
「お前、狐か。何故きかぬ?」
魔王の頭は牛の頭蓋骨だから、表情が全く読めないけど、納得いってなさそうだ。
「ふん。我はプレイヤーだからな」
「神の縛りか……」
魔王はそうつぶやくと、両手を広げた。
「式は力を消耗した一体のみ。さぁ、なぶり殺してやろうぞ」




