第198話 激闘ヤマタノオロチ! 十二姫将の戦い.txt
俺は望遠の魔法を使って式神達を追うと、彼女達は金色の粒子をまとっていた。
狐鈴が俺達にかけてくれた、瘴気を防ぐ結界と同じものだろう。
式神達とヤマタノオロチとの距離は、目測でもまだ数百メートルはあったが、そこはもう式神達の射程圏内だった。
煌姫が腕を突き出すと、彼女の周囲に六つの魔法陣が展開し、そこから六本のレーザーが放たれた。
純白のレーザーは、空に漂う瘴気を切り裂き、ヤマタノオロチへと突き進んだ。
ヤマタノオロチは気づいたのだろう。狙われた首の一本はどう避けようとしても、六本のレーザーのどれかに当たってしまうと。
だから咆哮と共に炎を吐き出し、レーザーを迎撃しようとしたが、光の奔流は一瞬の停滞もなく炎と頭を貫いた。
まずは開幕一本! と思ったのもつかの間、貫かれたはずの頭部がみるみるうちに再生した。
しかも穴が塞がり元に戻るまで、数秒とかからなかった。
「再生した!?」
ヤマタノオロチが再生するなんて、そんな伝承は聞いたことがない。
混同しがちだけど、再生能力を持つのは、九つの首を持つヒュドラの方だ。
まさか、瘴気を吸い込んで、別の存在に成り果てたのか……
そんなことを考えていると、頭上から大気そのものを震わせるような重低音が響いてきた。
まさかと思い見上げた瞬間、一筋の流星が落下し、ヤマタノオロチの胴体を貫いた。
まずは光だ。視界が真っ白に染まり、そして耳が馬鹿になるほどの轟音と共に、大地が揺れ、衝撃波と火砕流が津波のように押し寄せてきた。
まずい! やり過ぎだ!
「だいじょーぶ!」
「にしし!」
双子の呑気な念話が届くと、俺達の前に虹色の障壁が薄く展開され、迫りくる衝撃波と火砕流をせき止めた。
思わず身構えったが、熱風すら届かず轟音だけが通り過ぎていった。
続いて幾つもの稲妻が天地を繋ぎ、地の底から噴き上がったマグマが、ヤマタノオロチを真下から突き上げた。
しかし流星に貫かれ爆砕し、マグマに焼かれてもなお、飛び散った肉片や血が集まって再生していく。
稲妻に焼かれた頭や首も、同じく元へ戻っていった。
なんていう再生能力だ。
そしてヤマタノオロチは反撃に出た。
怒りの咆哮と共に、八つの頭が炎や稲妻を吐き出し、式神達に喰らいつこうと、鎌首をくねらせながら伸ばした。
「ねぇ! 再生するならヒュドラと同じ方法かな!?」
叢雲が言うと、共にヤマタノオロチの足を狙っていた鈴蘭が反応した。
「それなら首を切り落としますか?」
「それは骨が折れそうね!」
叢雲がヤマタノオロチを見上げた。
ヤマタノオロチの首は、電車四両を束にしたくらいある。確かに切断するには骨が折れそうだ。
「先ほどの再生力からして、断面を炭化しても再生しそうですね」
月華が冷静に、そして厳しい声で割って入った。
月華の言う通り、炭化しても再生するのなら、ヒュドラと同じ攻略は使えない。
「ねぇ。月華。瘴気がヤマタノオロチに流れてない?」
煌姫が言うと、月華が少し目を細めた。あれは霊視しているな。
「……そのようですね」
わずかな沈黙の後、月華が再び口を開いた。
「ならば瘴気を断ち、再生力を枯渇させるしかないでしょう」
そして月華は俺達に意味深な視線を送ってきた。
浄化石だな。
「白夜。御主人様から浄化石を受け取って。翡翠は祝詞を。あなたは如来様達と一番交流があったわね」
「一番怒られていたの間違いでは?」
そう言いつつも翡翠は目を閉じ、空中であぐらを――結跏趺坐を組み、親指と人差し指で輪っかを――お金のサインのような手印を結んだ。
俺はアイテムボックスから、浄化石が入った袋をすぐさま取り出した。
「御主人様! それちょうだい!」
白夜が矢のような速さで舞い降りてきた。
「あぁ。頼む!」
「ありがと。んじゃ、いってきまーす!」
白夜は袋をひったくるように受け取ると、踵を返し風を切って戦場へと戻っていった。そしてヤマタノオロチの周囲を大きく旋回しながら、浄化石を等間隔に落としていった。
一方、翡翠が祝詞を唱え始めた。
あれは俺や琴音が使う祝詞とは違う。妙光如来様や他の如来様に捧げる限定的な祈りだ。
妙光如来様と縁の深い翡翠が紡ぐ祝詞は、俺や琴音より遥かに強力だった。
天空から慈愛に満ちた光が降り注ぎ、修行の成果を出した翡翠を祝福しているようでもあった。
祝詞が完成すると、金と銀の光が波動となって四方八方に広がり、瘴気を根こそぎ消し去っていった。
白夜が撒いた浄化石も相まって、しばらく瘴気を取り込むことはできないだろう。
ヤマタノオロチは翡翠を最大の脅威と感じたのか、三つの頭が翡翠に向かって伸びた。
月華が身振り手振りを交えて指示を出すと、式神達は翡翠の防御と、残りの首への攻撃に分かれた。
「やぁぁああっ!」
翡翠に襲い掛かる頭の一つに、陽炎が割って入り、盾を突き出した。
すると五芒星の魔法陣が展開され、巨大な盾となって、ヤマタノオロチの頭を真正面から受け止めた。
「……えい」
そして高く舞い上がった紅羽が、縦回転しながら落下し、ヤマタノオロチの首に襲いかかった。
大鎌の刃が真っ赤に光ると刃が巨大化した。いや、包み込んだ光が大きいだけで、刀身はそのままだな。
紅羽はそのままヤマタノオロチの首を半分斬り裂いた。
そこへ鈴蘭が上昇しながら、稲妻をまとった太刀を斬り上げた
「はあっ!」
稲妻が空に昇り、千切れかけた首を切断した。
翡翠に向かっていたもう一つの頭はいつのまにかそこにいたのか、叢雲がヤマタノオロチの眉間に二つの刀を刺していた。
「はっ!」
気合いの声と共に刀が光り、ヤマタノオロチのアゴから光の槍が飛び出した。
ヤマタノオロチの首がのたうちまわると、叢雲は刀を抜いて離脱した。そして入れ替わるように、炎華が炎をまとった太刀で横薙ぎ一閃。ヤマタノオロチの首を半分くらい斬り裂くと、白夜が真っ黒な斬撃を放って首を切り飛ばした。
残る一本は翡翠自ら反撃していた。
翡翠の周りに魔法陣が無数に現れ、そこから高圧縮された水が、ウォータージェットカッターとなって放たれ、ヤマタノオロチの頭を蜂の巣のように穴だらけにした。
だが勢いは止まらない。ヤマタノオロチの頭が翡翠に突っ込んだ。
「翡翠!」
え? 翡翠の体が霧のように消えた!?
「ざぁこ!」
「騙されてやんの!」
翡翠と思った人影は、夜宵と夢月が作った幻影だった。
二人はヤマタノオロチを指さして、挑発するようにプークスクスと笑い出した。
俺も騙されたぞ!
直ぐ近くに翡翠の姿が現れると、伸び切ったヤマタノオロチの首に紅羽が舞い、鈴蘭が踊りかかり、白夜の黒き斬撃波が連打され、千切れた首が勢いよく飛んで行った。
ヤマタノオロチは再生し始めたが、瘴気の供給がなくなったためか、開幕とは比べ物にならないほどゆっくりだ。
あれでは再生していないと同然だろう。
しかし追い詰められたヤマタノオロチは怒り狂い、残った五つ頭が式神達めがけて一斉に火を吹いた。




