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第197話 流れる星の座 十二姫将集結

 巨大な襖《ふすま》から、八つの龍の頭が、競うように突き出てきた。

 大きい……あの頭や首から想像すると、今はもう吹き飛んだ、白亜の城よりも大きいだろう。

 ただ、大きさと距離感がおかしいのか、それとも大物だからか、襖から出てくる速度がゆっくりに感じる。

 

 ぼうっと見ている暇はない! 今がチャンスだ!


 最近式神を名前一つで召喚していたが、力を最大限に引き出すには、やはり呪文が必要だ。

 俺は手印を結びながら呪文を唱え始めた。たっぷりと呪力を込めて。


「オン・ラートリー・アグニ・ヴリカ・プトゥリー・カルマ・クマーラ・アムリタ・ナヴラートリ・スヴァプナ・マルジャーリー・メーガ・ヴァンダーカー・ソワカ! 我が声に応え、顕現せよ! 十二姫将! 急急如律令!」


 十二の襖が一斉に現れ、式神達が姿を現した。

 すると案内妖精が、見せ場だと思ったのか、十二姫将の方へ飛んで行った。


「十二姫将が一人。星天の座、白夜。ご主人様の命を受けてここに参っ上ぉっ!」


 白夜が羽団扇をかまえてその場でターンした後、翼をバサっとはためかせた。

 

「十二姫将が一人。星火の座、炎華。今こそ修行の華を咲かせる」


 炎華は太刀を抜くと、刀身を軽く一振りした。その軌跡に沿って、炎の花びらが宙に舞い散る。

 そしてチンっと音を立てて太刀を鞘に戻した。

 こいつらVTuberになったからって、配信を意識しているな。


「十二姫将が一人。星蒼の座。蒼蓮。陰に忍び敵を討つ」


 蒼蓮はババっと手印を結ぶと軽く風が起こり、蒼蓮の髪がなびいた。

 まったくもって意味がない!


「十二姫将が一人。星光の座、煌姫。ふふ。殲滅しちゃうわよ!」


 煌姫は案内妖精に向かって微笑みかけ、唇に指を添えて、投げキッスをした。

 あざとすぎる! コメント欄がハートで埋まったぞ!


「……十二姫将が一人。……星紅の座……紅羽。えっと……以上……」


 紅羽は案内妖精を無表情のまま見つめ、恥ずかしくなったのか、頬を赤く染めた。

 それだけでコメント欄が高速で流れていく。よくわからない庇護欲が沸いてくる。


「十二姫将が一人。星月の座、月華。ご主人様へ勝利を捧げましょう」


 月華は片足を引いて膝を曲げ、白いワンピースの裾を摘まんでお辞儀をした。

 見た目は清楚だけど、実はストーカーとかヤバすぎると思うんだ。


 「十二姫将が一人。星水の座、翡翠。ただいま参上いたしました」


 翡翠は薄い水色のワンピースに、同系色の傘を持っていた。なぜ? 傘が武器になるのか?

 そして案内妖精が来ると、前かがみになって胸元を見せつけた。

 コメント欄がハートマークで埋め尽くされ、俺は琴音とアリサに腕をつねられた。


「十二姫将が一人。星夢の座。夜宵! 参上!」


「十二姫将が一人。星幻の座。夢月! 参上!」


 夜宵と夢月が寄り添って、見つめ合った。


「暴れちゃおうか?」


「暴れちゃおうね!」


 そして二人は案内妖精を見下ろすと、挑発するように歯を見せて笑った。


「十二姫将が一人。星猫の座。陽炎。推して参るにゃん」


 陽炎は二股の尻尾をピンと立て、片手を軽く握って頬の横に添えた。

 顔が真っ赤だけど、大丈夫か?

 転生したカルミアとしての人格と、本来の陽炎との人格に差がありすぎて、不安定になっているな。


「十二姫将が一人。星雲の座。叢雲。来たわよ! ありがたく思いなさい!」


 叢雲は両手を腰に当ててふんぞり返った。


「十二姫将が一人。星蘭の座。鈴蘭。馳せ参じました」


 鈴蘭は軽く会釈した。

 鈴蘭は和風の女剣士みたいだ。

スカートはロングの袴だし、ビキニアーマーを着ていた子とは思えない。

 鈴蘭は陽炎と違って、すぐに人格が戻っているようだ。陽炎に気をかけておこう。


「ぐるぅぅぁぁぁああっ!」


 遠くから八つの咆哮が聞こえてくると、パフォーマンスは終わりとばかりに、みんな真面目な顔になった。


 襖が消えてると、十二姫将達は横一列にずらりと並び、甲高い金属が擦れる音と共にそれぞれの武器を抜いた。

 

 完全に襖から出てきたモンスターは、八つの頭と八つの尻尾を持つ伝説の生き物。妖怪とか怪異とかそういったもので一括りにできそうにない。


 凝視するとやはり『ヤマタノオロチ・レベル999』。


「まがいものが……」


 炎華がギリって歯軋りした。本物のヤマタノオロチを召喚できるはずないよな。あれは神話で倒されている。

 ということは神話を元に作られた生物なのか。


「今までの妖怪もそうだけど、ちょっと弄びすぎじゃないかしら?」


 煌姫も眉をひそめた。鬼蜘蛛の元は土蜘蛛だろうな。


「龍族として捨てておけん」


 炎華の太刀がゴウっと炎に包まれた。


「うあっ。瘴気とか混じって、もはや別物みたい」


 白夜の言うとおり、ヤマタノオロチから黒い靄が滲み出ていた。


「悪霊になる一歩手前ですね。速やかに討伐しましょう」


 月華が言うならその通りなのだろう。ヤマタノオロチのまがいものにされた素体は、恨みや呪いを撒き散らし、瘴気と混ざっておぞましいものになっていそうだ。


「アレはまがいものでも、龍族を使って作られた存在だ。無念怨念を鎮めるのも私達の役目」


 炎華は静かに怒りを灯していた。 


「それ以前に、御主人様の敵を倒すのが私の役目だけどね」


 煌姫が俺にウィンクした。するとコメント欄がハートと怒りのアイコンで埋め尽くされた。


「御主人様。ここは我らにお任せを。琴音様もアリサも狐も、この後の戦いのために、力を温存してください」


 月華が言うと、みんなの視線が俺に集中した。


 俺は十二姫将を顕現させ続けるために呪力を消費するからな。戦いは長引かない方がいい。


「みんな!サクッと倒してこい!」


「じゃあ、行ってくるね!」


 白夜が軽く手を振って踵を返した。


「にしし。出番出番!」


「私達は支援だけどねー」


 夜宵と夢月もそう言って続いた。


「その支援がありがたい」


 炎華が夜宵と夢月の頭にポンっと手を置いた。


「ふん。私にかかればどうってことないわね!」


 叢雲がヤマタノオロチを見上げて言うと、鈴蘭も続いた。


「首が足りないな」


「おしゃべりはそこまで、いくわよ」


 煌姫が言うと、十二姫将達は飛行の術を唱え、次々と飛び立った。

 それぞれが背負う星の座そのままに、十二の流星となって突き進んでいった。



 

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