第196話 マジカル☆フォックス フルパワー!
俺と琴音は一旦戻ると、憑依を解いた。
周りには式神や生き残ったプレイヤー達が、俺達を守ってくれていた。
周囲の地面にあちこち大穴が空いていたから、鬼蜘蛛がこっちに来る前に、退治してくれたんだろう。
「なにかあったの!? 大丈夫?」
意識が戻るとアリサが心配して、覗き込んでいた。
「敵が無限に出てくるから、俺達だけでこっそりアルダートまでいくことにした。大元を叩くんだ。アリサも来てくれ」
「もちろんよ! こんな大役逃すわけないでしょう! それに……私は秀一君の眷属なのよ!」
「そうだったな!」
「軽く流すな! 少しは照れろ!」
俺はアリサをスルーして狐鈴に向き直った。悪いけど今は構っている場合じゃない。
「狐鈴。全開放する。俺達を乗せて魔王城まで連れて行ってくれ」
「今のお主なら、我が本来の姿を維持できよう」
「狐鈴は隠行の術を使えたよな」
「うむ。見つからないように行くのじゃな」
「あぁ。頼む」
「少し待っておるじゃ」
狐鈴は初期装備になると、案内妖精に向かって、右手を顔にかざし、指をピースサインの形にして、目を挟むようなポーズをきめた。
「マジカル☆フォックス! 変身!」
狐鈴が高く飛び上がると、横に回転しながら星やハートの光をばら撒き、最後に眩しく光ると、巨大な狐が現れた。
その姿はどんどん大きくなり、俺達は下がって距離を取った。
最終的には高さは二階建ての一軒家くらいまでになった。
「すげぇ……。これが狐様の本来の姿……」
師匠が掠れた声を漏らした。
鬼蜘蛛が小さく見えるくらいの大きさだ。
この姿なら鬼蜘蛛達を蹴散らせたのでは? と思わないこともないけど、敵味方入り混じってしまったら、味方ごとなぎ払っちゃうよな。
初手に防御を回ったのが仇となったんだ。
俺達は飛行の魔法を唱えて、狐鈴の背中に着地した。よじ登るよりこっちの方が早い。
ふわふわの毛に沈みそうだ。それに暖かいな。
ふと、金色の粒子が俺達を包み込んだ。
これは……
「瘴気を防ぐ結界じゃ」
「ありがとう。狐鈴」
「うむ」
「みんな。悪いけど十二姫将はいったん戻して、最前線で再召喚する」
みんな不安そうな顔をしたけど、頷いてくれた。
「師匠とレンは引き続き、真田さん達の回復と守りをお願いします」
「あぁ。任せておけ。こっちが片ついたら追いかける。全力で行ってこい! なんなら魔王をぶち殺してこい!」
「はい! 行ってきます!」
「いくぞ。しっかり掴まっておれ!」
「うおっ!」
狐鈴は走り出すと、徐々にスピードを上げていった。
荒廃した風景が横に流れていき、遠くで機動式神と龍が戦っている光景が見えたと思ったら、直ぐに後ろに流れて見えなくなった。
龍が気づいていないってことは、狐鈴の隠行の術が効いてるってことだな。
しばらく狐鈴にしがみついていると、ゴルドーラの城壁が近づいてきた。
すると狐鈴がスピードを落として止まった。
「どうした?」
「先程のような手落ちはせぬ。悪いが初手全力全開じゃ!」
手落ちって混戦になる前に狐鈴が薙ぎ払っていれば、みんながギルド送りにならなかったってことだよな?
俺達の体に薄く光る膜が張られた。
これは防御の結界だよな? ってことは……やばい!
「みんな! 狐鈴に捕まれぇええ!」
「コォォォオオ……」
狐鈴が息を目一杯吸い込むと、呪力がぐんぐんと上がっていった。
とんでもない呪力なんだけど!
「コォォォオオン!」
あたりが真っ白に染まった。
都市ゴルドーラが右から左に光で薙ぎ払われ、次の瞬間耳をつんざく轟音と共に、天まで届く炎が上がった。
そして衝撃波と高温の火砕流が襲い掛かって来た。
「うわああっ!」
「きゃああっ!」
「ひぃぃああああっ!」
視界の右上を見ると、狐鈴の名前のすぐ隣りに表示されているレベルがグングン上がっていく。
俺達にも経験が分配されるから、みんなの数字も上がっていった。
ゴルドーラにいたモンスター達をまとめて倒したせいで、急激にレベルが上がっていく。
まずい! レベルアップによる肉体改造が急激にくるぞ!
「オン・ダーナ・ソワカ」
俺は浄土世界で覚えた、精神の疲労を癒す術を唱えた。
範囲を単体じゃなくて、辺り一帯にする。
本当は頭に手を当てた方がやりやすいけど、狐鈴の頭まで移動する時間が惜しいし、範囲なら琴音とアリサにも効く。
俺が精神系の術を唱えると、琴音は回復の術を唱えてくれた。
癒される。琴音の術だと思うと余計に癒された気がした。
俺達が回復に専念していると、ゴルドーラがあった場所に巨大な襖が現れた。
……襖だと!?
鬼蜘蛛や烏天狗といい、相手に陰陽師か妖術師でもいるのか!?
十二姫将達みたいに、無理矢理に転生されたとか!?
それにしても大きい襖だ。都市の表面積の半分くらいあるんじゃないか?
襖が開き、向こう側に鬼のような顔が見えた。その鬼の手が襖の端をつかみ、こじ開けるように出ようと動き出した。
「コォォオオオオン!」
出てくる前に、狐鈴のごんぶとレーザーで押し戻すと、襖が閉じて消えた。
あのレーザーは浄土世界で修行したおかげで、神力がたっぷりと乗っている。悪鬼妖怪ならかすっただけで致命傷になるだろう。
まだ鑑定もしていなかったけど、巨人の妖怪か……まともに相手をしたくないなぁ。
そんなことを思っていたら、さっきほどじゃないけど、大きな襖が次々と現れた。
え? フラグだった?
馬鹿なことを考えていると、狐鈴が片っ端から潰していった。
「コォォン」
狐鈴がひと泣きすると、体が縮まっていった。
俺達は乗れなくなる前に、飛び降りると、狐鈴が発光していつもの巫女服に戻っていった。
「さすがに呪力がもたん。お主もきつかろう」
「そうだな。ありがとう。狐鈴」
「うむ。後は省エネモードじゃ!」
再び巨大な襖が現れると、ズバンと開き、そこから東洋の龍の顔が現れた。しかも八つ。一つの襖から八つの頭とか嫌な予感しかしない。




