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第192話 四面楚歌

 完全に挟まれた。前は押し留めるだけで精一杯、後ろは今出てきたばかりで数もわからない。

 左右に逃げたくても、瘴気が渦巻いている。あの濃さだと瘴気の中を逃げ惑うのは死を意味する。

 まさに四面楚歌だ。


「機動式神の許可が出たわ」


 遅すぎる! こうなってはもう使えないぞ。それでも慌ててアイテムボックスから機動式神を設置したプレイヤーがいた。

 止める間もなく、機動式神は地面の下から攻撃で破壊され、続けて這い出てきた土蜘蛛に、そのプレイヤーもギルドへ送り返された。


 囲まれたどころじゃない、相手は地面の下から攻撃してきた。

 留まることすらできない。


 その時、瘴気も斬り裂く汗臭い叫び声がした。


「ぬおおおおっ! サイドチェストォォオオ!」


 キャサリンの体が発光し、エネルギー波が鬼蜘蛛を吹っ飛ばした。

 相変わらず意味が分からない。


「アブドミナルアンドサイ!」


 さらにキャサリンは頭の後ろで腕を組むと、ビームを放ちながら鬼蜘蛛に突撃した。

 キャサリンの顔はどこかすがすがしかった。

 まるで突破口を開くために、身を挺して突き進んでいるかのようだ。


「おい! 馬鹿! なにやってるんだ!」


 レンが空中に赤いバラをばら撒くと、とげ付きの茎が巨大な鞭のように伸び、鬼蜘蛛に巻き付いて拘束した。

 

「アブドミナルアンドサイ!」


 そこへキャサリンが再びビームを放つ。

 何匹かの鬼蜘蛛がビームによって頭を吹っ飛ばされたが、キャサリンは複数の土蜘蛛に囲まれてしまった。


「オン・ヴァジュラ・シャクティ・バラ・ソワカ!」


 キャサリンが術を唱えると筋肉が膨張した。肉体強化の術だ。


「金剛よ! 御下りて! 力身とならん! 金剛明王身! 急急如律令!」


 ボンッとキャサリンが一回り大きく見えた! すさまじい筋肉だ!


「ぶるぅうあああ!」


 キャサリンの正拳突きが、鬼蜘蛛の足を吹っ飛ばした。


「ふんぬばぁっ!」


 そして迫りくる鬼蜘蛛の牙を避けつつ、アッパーカットをぶち込んだ。


「オン・ヴリクシャ・ヴルクサ・タル・ソワカ!」


 レンがババッと印を結ぶと地面が揺れた。


「木霊よ、地より目覚め、鋭き牙とならん! 樹牙貫穿《じゅがかんせん》 急急如律令!」


 地面から錐のような木が飛び出し、次々と鬼蜘蛛の腹を貫いた。さらに――


「プラント・グローアップ!」


 レンのユニークスキルで木を成長させ、鬼蜘蛛の腹を成長した枝が貫いた。

 それでも鬼蜘蛛はしぶとく足を振り回し、炎を吐いて木を燃やそうとする。


 キャサリンは身動きが取れなくなった鬼蜘蛛に止めを刺そうとしたその時、木の背後から迫った鵺《ぬえ》に後ろから羽交い絞めにされた。


「キャサリーン!」


 レンが叫びを上げて、懐から薔薇を取り出したが間に合わない。


「ぬおおおっ!」


 キャサリンは鵺によって上空に連れ去られ、集まって来た鵺達に揉みくちゃにされて転移した。


 桃饅頭は数が少ない。ここでの転移は戦線離脱と同じだ。


 再びアリサに呼び出された朱雀が、鬼蜘蛛も焼き殺し、突破口が開けたかと思ったら、今度は地面から巨大な骨の手がでてきた。

 ゆっくりと這い出てきたのは、巨大な骸骨だ。しかも腕が四本もあり、その手には巨大な刀を持っていた。

 凝視すると『がしゃどくろ・レベル891』……ありえん。


「おぉぉおおおぉおお!」


 がしゃどくろが怨嗟《えんさ》の叫びを上げると、いくつもの鬼火が現れ、雨のように俺達に降り注いだ。


「はあっ! オン・プーヤ・カヴァチャ・ソワカ!」


 白夜が俺達の前に立ちはだかり、聖なる盾を張って鬼火を防いだ。

 しかしがしゃどくろの攻撃は止まらない。四つの腕にそれぞれ持った巨大な刀を振り回し、その内の一本が白夜に襲い掛かった。


「させない!」


 陽炎が盾で巨大な刀を受け止めると、その背後から鈴蘭が太刀を振り上げながら跳躍した。


「はぁっ!」


 鈴蘭の斬撃ががしゃどくろの腕を一本斬り落とした。

 さらに煌姫と白夜が浄化の術でがしゃどくろを包み込んだ。


「おぉぉおおおっ!」


 がしゃどくろが悶えた瞬間、その頭上に黒い影が飛び、真っ赤な線が走った。

 紅羽の斬撃だ。

 真っ赤に光った大鎌が振り下ろされ、がしゃどくろの頭蓋骨を真っ二つに斬り裂いた。


「……ぶい」


 着地した紅羽が、俺に向かってピースサインを送って来たので、うなずいて親指を立てた。


 なんとかなるかと思ったその矢先、地面から巨大な白い手が次々と這い出てきた。


 がしゃどくろに気を取られていると、足元から鬼蜘蛛が現れ、また一人転移させられた。

 かといって空を飛んで逃げると、鵺《ぬえ》に襲われる。


 追い討ちをかけるように遠くから敵の援軍が来た。黒い翼の烏天狗《からすてんぐ》だ。

 顔は烏《からす》そのもの。まるで鳥人間だな。その数二十は下らない。


「アイツだ! 琴姫だ! アイツを攫《さら》え!」


 烏天狗は俺と琴音に群がるように攻撃してきた。


「くっ! なんだこいつら!」

 

 手にした武器は、先端が大きなU字型の槍――さすまたを取り出し、攻撃も縛りの術や氷の術で、こっちの動きを止めようとしてくる。

 こいつら、俺達を捕獲しようとしている? それに琴音のことを琴姫って言わなかったか!?

 この都市に来てから遭遇したのは、鬼蜘蛛、がしゃどくろ、鵺、烏天狗と妖怪ばかりだ。

 前世の名前、妖怪みたいなモンスター……何かつながりが……

 いや、そんなことを考えている余裕がない。

 烏天狗達を迎え撃つだけで手一杯だ。


 氷の魔法を回避すると、その先で別の烏天狗がさすまたで突いてきた。


「オン・チャットヴァーリ・ソワカ!」


 琴音が式札をばら撒きながら印を結ぶと、呪符が一斉に弾けて防御障壁を展開された。

 突っ込んできた烏天狗達は、その障壁に次々と弾き返されていく。


「オン・カン・ゾラ・シュラ・ガンダ・レイ!」


 そこへ俺は、風と火の術を唱え、盾の外に炎の竜巻を発生させた。


「ガァァ!」


「おのれっ!」


 烏天狗達を数匹竜巻に飲み込むことができたが、殆ど回避された。


「あの方の命令がなければ!」


 あの方? 誰のことだ?

 考える暇も与えられないまま、烏天狗達の殺気が上がり、危険を察知した式神達が、こっちに向かってきた。


 式神達の援護がなくなると、プレイヤー達は次々とギルド送りになり、とうとうまどかさんと凛さんも鵺にやられて転移した。

 もう壊滅状態だ。


 俺と琴音は背中合わせになってお互いを守り、烏天狗達の猛攻を防ぎ、攻撃は式神達に任せた。

 しかし鵺や鬼蜘蛛達もこっちに向かってきた。

 このままでは……そう思った次の瞬間、轟音が鳴り響き、鵺や鬼蜘蛛達が次々と爆砕した。


 一体何が起こった!?

 上級を見上げるとそこには……

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