第191話 解き放たれた妖魔達
地面が揺れた! 地震か!?
前方の地面が幾つも盛り上がり、土の中から次々と巨大な蜘蛛が這い出てきた。大型ダンプカーくらいあるぞ!
鬼の顔が張り付いた蜘蛛を凝視して、鑑定スキルを発動させると、『鬼蜘蛛・レベル769』と表示された。
「鬼蜘蛛だと!?」
ここに来て和風のモンスター!? むしろ妖怪か!?
鬼蜘蛛はパッと見ただけで六匹。さらに土が盛り上がって、頼んでもいないのにお代わりが次々と出てきた。
そして完全に地上に出た鬼蜘蛛は、こっちを見るなり殺気を発しながら突進してきた。
「秀ちゃん! こいつらなんかヤバいよ!」
「あぁ。今までの奴と殺気が違う!」
何と言ったらいいだろうか。こいつらの殺意は本物だ。こっちのモンスターやデーモンの殺気は、捕食のために出すがせいぜいだった。
デーモンと遭遇した時だって、敵が来たから殺す。人間が来たから殺す。
その程度だった。
でもこいつらは違う。こっちの世界ではなく、日本で悪鬼妖怪と戦っていた時に感じた、憎悪から来る殺気だ。
憎いから殺す。呪いたいから殺す。そんな負の感情が渦巻いてできたような殺気だ。
怪談話とかである「お前、こっちを見たな?」という話を聞いたことないだろうか?
あれは裏を返せば、見えたってことは救ってくれる存在なんだよな? なら救ってくれよ! 救えないだと? 期待させておいてそれはないだろ? 憎い! 呪ってやる! 殺す!
言いがかりにもほどがあるけど、そういうもんだ。
いうなれば、グランドクエストのために創られたモンスターが発する殺気と、本物の悪鬼妖怪が発する理不尽な殺気では違うってことだ。
「ぃぃいいやぁぁああ! オン・ソラソバ・レイマク・サンバラ・カンマン・ソワカ!」
アリサが突き出した手から炎の奔流が放たれ、突進してきた鬼蜘蛛を飲み込んだ。
「シャアアッ!」
しかし鬼蜘蛛は炎を切り裂き、金切り声を上げて突進し続けた。
「オン・サナマヤ・パー・ソワカ!」
狐鈴が咄嗟に結界を張り、アリサに向かった鬼蜘蛛を弾き返した。
鬼蜘蛛は衝突の衝撃をそのまま喰らって一瞬怯んだが、狂ったように結界に張り付き、足でドカドカと叩き、口から火を吹いて結界を削っていく。
「ひぃぃい!」
猛烈な殺気と攻撃に、アリサから悲鳴が上がった。
アリサでこれなら他のプレイヤーも恐慌状態になるのでは?
そう思った俺は、狐鈴に続いて防御結界を次々と張り、維持することにした。
琴音も同じことを思ったのか、俺と琴音そして狐鈴で鬼蜘蛛の突進を抑え込んだ。
「オン・ヴァジュラ・ラヴィナ・ソワカ! 祖、安倍晴明の名と血の元に命ずる!」
アリサがババっと手印を結び、呪文をフルで唱え始めた。
修行を積み陰陽道と神仏を理解しても、朱雀を呼び出すには、まだ短い呪文では届かない。
「南方の守護者、災厄を払いし霊鳥よ! ここに来たれ! 朱雀! 急急如律令!」
空が割れ、その向こうから巨大な火の鳥が現れた。
朱雀は大きな翼を広げ、鬼蜘蛛達に体当たりし、炎を吹きかけた。
まどかさんや他のプレイヤーも極大攻撃魔法を放って鬼蜘蛛を焼き払っていく。
轟音が何度も鳴り響き、爆炎と爆風が吹き荒れ、俺はさらに耐火の結界を追加で張らなければならなかった。
しかし……爆炎を斬り裂くように、鬼蜘蛛が現れて次々と突進してくる。
そして耐えられなくなった結界が、いくつも壊れていった。
俺達の攻撃が全く効かなかったわけではない。特に朱雀に体当たりされた鬼蜘蛛は原型をとどめていなかった。
それ以上にボロボロになりながらも突進してくる個体や、後から湧いてきた個体が、こちらの攻撃を抜けて来た。
その抜けてきた個体を、御影さんや凛さんがすれ違うように斬り刻み、キャサリンが謎のビームで押し戻した。
だが鬼蜘蛛の攻撃は体当たりや炎だけじゃなかった。蜘蛛らしくケツから糸を発射し、一人のプレイヤーをぐるぐる巻きにした。
「うあああっ!」
彼は鬼蜘蛛に引き寄せられ、そのアギトに噛まれるその瞬間、パッと消えた。
桃饅頭のお陰で、強制転移したんだ。
鬼蜘蛛達は近接戦闘に切り替わると、プレイヤー達を拘束しようと、次々と糸を発射した。
「はあっ!」
「やぁっ!」
即座に御影さんと凛さんが戦場を駆け巡り、糸を次々と切っていく。
そして師匠は千葉童子ともう一人、たぬきの耳と尻尾を持った美女を呼び出していた。
彼女の名は栄楽姫。狸の妖怪だ。
千葉童子が近接型の式神なら、栄楽姫は遠距離型の式神だ。
千葉童子は近くの鬼蜘蛛を太刀で斬り裂き、栄楽姫は空に飛び上がり、後方の鬼蜘蛛を炎の術で攻撃し始めた。
どちらも強力な式神で、圧倒的な力で鬼蜘蛛達を押し戻していく。
俺も結界の維持を一瞬解いて、陽炎、叢雲、鈴蘭を召喚した。
「早速出番だな!」
「うはっ! でかすぎない!?」
「相手にとって不足なし!」
呼び出された陽炎達は、すぐさま武器を抜いて、鬼蜘蛛達に踊りかかった。
隣で琴音も紅蓮童子と轟雷童子を呼び出した。
「ふはははっ! 出番ぞよ!」
「がーはっはっはっ! たぎるの!」
召喚されるなり、童子達も鬼蜘蛛に襲い掛かった。
しかしそれでも鬼蜘蛛の猛攻は激しく、次々とプレイヤー達がギルドに戻されていった。
「機動式神は使えないの!?」
「この状況で使えるわけねぇだろ!」
俺は恐怖に飲まれそうになっているプレイヤー達の声を聞きつつ考えた。
例え機動式神が使えても相手が近すぎる。敵味方入り混じっている状態だと、重機関銃型の機動式神を使っても、同士打ちになったり、すぐに壊されてしまうだろう。
「いやあっ!」
また一人、鬼蜘蛛に押し倒され、食われる前にギルドに転移させられた。
俺はさらに煌姫と白夜を召喚した。
「煌姫、白夜! 鬼蜘蛛を上から狙え!」
「はーい!」
「わかったわ!」
俺の式神に対抗してなのか、上空から空飛ぶ虎のようなモンスターが現れた。
いや、虎っぽく見えたけど、そうじゃない。鑑定スキルを発動させると、『鵺・レベル623』と表示された。
猿の頭に狸の胴体、手足は虎で尻尾は蛇のキメラだ。
しかも鬼蜘蛛と同じく複数体……六匹はいるぞ。
「目標変更! 鵺を倒せ!」
煌姫と白夜が標的を鵺に変えるが、手数が足りない。
俺は防御結界を張ることを諦めて、残りの式神を呼び出すが、次々とプレイヤー達が倒されていく。
くそっ! 判断を間違ったか!?
また地面が揺れた。嫌な予感がする。
「撤退だ! 一度引くぞ!」
師匠の言葉にみんな我先に撤退を始めた。
俺と琴音は殿を務めるために、式神と共に地上と上空に攻撃を続けた。
ところが背後から悲鳴が聞こえた。
退路の先が盛り上がったと思うと、次々と鬼蜘蛛が地面から出てきた。
完全に挟まれた。撤退どころか、ここが正念場になるかもしれない。




