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第190話 最後の都市ゴルドーラへ侵攻

 俺達はアストラルゲートを使い、とうとう最後の都市ゴルドーラに飛んだ。

 

 ここまでの道のりは長かった。

 水の精霊に支配された町マドール。

 欲望に惑わされた都市ダムゼル。

 獣人の幽霊が彷徨う、森に飲み込まれた都市ムリターヴァナ。

 虫に巣窟になっていた町ビンス。

 

 今までゲートを守るために多くの人数を割いてきた。

 そして今度はゼルガードとゴルドーラのゲートを守るために、二パーティーずつ残して進軍となった。

 進軍メンバーは俺と師匠とキャサリンのパーティーに加え、他の六パーティーが参加し、合計三十六名となった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 ゴルドーラに出た瞬間、俺は濃い瘴気を感じ、反射的に祝詞《のりと》を唱え始めた。

 視界の端でアリサが目を見開き、「くさっ」と呟いたかと思うと、一瞬でゼルガードに戻ったのを見て、ちょっと吹き出しそうになった。

 危なく祝詞を中断するところだったぞ。

 アリサは浄土世界で修行をしたことにより、普通の人より耐性があるはずだが、臭いだけはどうしても無理なんだろうな。

 それに瘴気は、少しでも触れる時間を減らした方が良い。だからアリサの行動が一番正しいと思う。


 さて、祝詞は瘴気を浄化することはできても、聖域を作るわけではない。

 瘴気で囲まれていたら、端から徐々に侵食されていく。

 そこで活躍するのが、王国軍から譲渡された浄化石だ。

 このアイテムは置いておくだけで周囲の瘴気を吸収して浄化してくれる。

 享楽之神の想定では、浄化石を使ってデーモンや魔王を攻略するはずだったのだろう。

 祝詞を使える方がイレギュラーなんだ。


 この浄化石なんだけど、精製するのに以前王国に渡した浄化の塩が使われている。

 紅羽を調伏した時、一緒に倒したデーモンを、祝詞で塩にしたやつだ。

 大量に渡していたから在庫は潤沢みたいだ。

 

 祝詞が完成した後、みんなでゲートの周りに浄化石を設置して、清らかな空間が完成した。

 浄化石が瘴気を吸収するのにも限度があると思うけど、当分の間は大丈夫だろう。


 アリサは綺麗な空間になってから戻って来たのでちゃっかりしている。


 ひと息ついたところで辺りを見渡すと何もない。遠くの方に見えるのはゴルドーラの城壁だろうか?

 今までのアストラルゲートは都市の外れに設置されていた。城壁の外側だが城門の関所がすぐ目の前にある。そんな距離だ。


 ところがゴルドーラのゲートは、郊外のさらに外れに設置されていた。

 元はこの国の王都だけあって、設置に慎重になっていたのだろう。


 望遠の魔法を唱えて確認すると、やはり都市の城壁だった。


 視線を少し手前に戻すと、荒れ果てた光景が広がっていた。

 そこはまだ郊外だから建物自体はまばらだ。

 ぽつぽつと残る家屋は、屋根が崩れ落ち、壁も殆ど残っていない。

 かつては畑だったであろう場所は、雑草すら生えず、ひび割れた土がむき出しになっていた。


 また視線を奥に移すと、都市の中央は丘のように高台になっていて、白亜の……いや、黒ずんだ城が見えた。

 事前の情報によると、ゴルドーラはかつて人の都市として栄えていたが、魔王軍の侵攻により滅ぼされた。

 都市の中央にそびえ立つ白亜の城は、今では魔王城に変貌していた。本来なら真っ白だった城壁は、黒く濁ったシミや血管のような何かにビッシリ覆われていた。その血管のようなものは、所々こぶのように節目があり、こぶの裂け目から瘴気が噴き出していた。そして城壁のあちこちが崩れ落ち、城の輪郭を歪ませていた。

 

「城がまるで生き物みたいだな。さすがにあの中に入りたくない」


「外側から殲滅だね! できるだけ高く飛んで、でっかい石を落としちゃおう!」


 いつものように、琴音が過激な攻略を口にすると――


「賛成ですね。城自体が魔物になってましたとかだったら笑えない」


 黒髪ロングに金のメッシュが入った女性配信者が琴音に追従し、それがきっかけに最終攻略組のみんなが、次々と意見を出し始めた。


「大きな石なんて見当たらないぞ?」


「やっぱり最後は正攻法がいいんじゃないか?」


「できるだけ見つからない方いいよ」


 様々な意見が出る中、俺はダメ元の意見を、案内妖精にぶつけてみることにした。


「案内妖精。機動式神は使えるか?」


「機動式神は撤退するような状況になったら使用許可が下りるわ」


「一応使用の想定はしているんだな」


「言っておくけど、ここは剣と魔法の異世界よ。機動式神はイレギュラーすぎるの。でも……魔王側の方で異変が起きたみたいなの」


「異変って……何が起きたんだ?」


「まだわかっていないわ。私達も調査中よ」


 意外にも使用許可が降りそうだ。

 しかし俺と琴音の憑依型機動式神は修理中だ。アルベールとの戦いで、高いところから落としたからな……

 御影さんの機体は軽傷だったから、そろそろ直るらしいが、まだ使えないよな。


 榴弾砲型や重機関銃型は、一応みんなのアイテムボックスにも入れてあるから、そっちが使えればいいな。

 ただ、両方とも設置型だから、相手との距離や状況によって、使えないかもしれない。

 撤退するような状況で、果たして使えるのだろうか?


 まずは機動式神に頼らず進むしかないな。


 俺達は煌姫から追加の桃饅頭をもらい、各自ギルドの自室で食べておいた。これで死にそうになった時、一度だけギルドへ転移できる。

 ただ、桃饅頭は一人一つしか用意できなかったから、使えるのは一度だけだ。

 ゲートで食べておけば復帰は早いが、ゲートが破壊されたり使えない状況になっていたら、そこで詰んでしまう。安全を優先して、ギルドの自室にしたんだ。


 さて……進もうにも濃い瘴気がやっかいだ。瘴気の中で長く留まっていると、血や肉が腐り始め、意識が遠のいていく。待っているのは死だ。

 浄土世界で修行をしたおかげで、俺と琴音は祝詞の効果範囲が広くなった。

 御影さんと真田さんも祝詞を使えるが、今は呪力を温存してもらって、俺と琴音で交互に唱えることにした。


 浄化石を等間隔に置きつつ、浄化された空間のギリギリのところまで進んではまた唱え直す。

 地味で面倒な作業だが、これを繰り返して活動範囲を広げていった。

 

 そうしているうちにゲートが見えなくなり、代わりに望遠の魔法を使わずとも肉眼で魔王城の姿が見えるようになってきた。

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