第189話 魔王、前世の記憶を思い出す!
微睡の中、言い争う声が聞こえた。
何を話しているのか、さっぱりわからぬ。
ただ、その言い争いは普通ではない。その一言一言に強大な力が宿っており、余波だけで大気が裂け、大地が揺れた。
物理的な影響だけでなく、精神にも多大な影響を及ぼした。只人ならそれだけで、圧倒的な力と絶対的な畏怖に押しつぶされるだろう。
当然魔王である我も、無視できない影響を及ぼした。
吹き飛ぶような精神波をくらい、その衝撃により前世の記憶を思い出したのだ。
まずは最期の記憶が蘇った。
我はかつて京の都を恐怖に陥れた怨霊だった。
我を祓った陰陽師は、お互いを秀之介と琴姫と呼び合っていた。
祓ったのは良い。
怨霊になった我は自我をなくしていた。
怒りと憎しみのまま彷徨い、壊れたからくりのごとく、虐殺を繰り返していた。
それはつまらない時間だった。祓ってくれたことに感謝すらしている。
しかし我は微かに残っていた。
我の怨念を恐れた者どもが、我を抑え込もうと、荒魂として祀り始めた。
祭祀を行い丁寧に敬うことで、我の荒々しい力を和らげ、平和な和魂へと調和しようとしたのだろう。
長い月日が経ったが、我は和魂になることができず、ここへ連れて来られた。
なぜ我がここにいるのか、この世界は何なのか、転生と同時にそれらの知識が植えつけられていた。
前世の記憶を思い出さなかったら、受け入れていただろう。
ただ、反発しようにも魂と体が縛り付けられておるので、それもかなわない。
多少思うところがあるが、すぐに大きな力で押さえつけられ、そういうものだと納得されてしまう。
《《それはもういい》》。《《受け入れよう》》。
望遠の魔法で魔族領を見ていると、グランドクエストをクリアしようとするプレイヤー達が侵入してきた。
そして奴らは次々と都市を攻略していった。
その中で見つけてしまった。
琴姫だ。
その琴姫の生まれ変わりがこの地に来ている。何たる偶然! いや必然か! 運命に違いない!
琴姫は美しかった。見た目よりもその魂が美しい。嫉妬、独占欲、自己満足が程よく混じった美しい魂だ。
あれを屈服させたらさぞかし良い声で泣き、悲鳴を上げてくれるだろう。
あぁ、我の物にしたい。
しかしだめだ。琴姫の生まれ変わりは、仏の加護が強すぎる。
すでに仏の守護者である、天部にも片足を突っ込んでおる。
操ったりするのは不可能だろう。
しかし、この地で死ねば、この地で生まれ変わる。
琴姫を殺して生まれ変わらせれば、仏の加護も薄れ、天部でもなくなる。そうなれば我の物にできるだろう。
何としても琴姫を、いや琴音を殺して生まれ変わらせるのだ。
そうだ。あの陰陽師の前で蹂躙した後、殺してやろう。
くくく。今から楽しみだ。
忌々しいことに、我は魔王城に縛られておるので動けぬ。奴らがここまで来るのが楽しみだ。
……ふむ。思い出してきたぞ。
ふははは! 我の魂はいくら祀られようとも、和魂になどならぬ!
何百年たってもだ!
だから地獄へ落とされたのだろう。
この魔王という役割は、我に相応しいのかもしれぬ。
我は生前、無実の罪を着せられ、処刑されて怨念になったと言われておるが、それは間違いだ。
残虐非道の限りを尽くした結果。正当に裁かれたのだ。
都合の悪い親族どもが、無実の罪だと騒いでいたにすぎない。
あぁ……人を魔の物に変えるのはとても愉快だった。
そう、我は妖術師だった。
妖術師と陰陽師の違いは些細なものだ。力を借りる相手が善なる神ではなく、悪神や邪神になっただけのこと。
中には狐の神に力を借りるような奴もいたが、我からすればなんと中途半端なことか……
さて、我が調伏した悪鬼妖怪は数多におる。
どうやらこちらでも呼び出せるようだ。
試しに妖怪を一匹呼び出すとするか。
……ふむ。
呼び出された猿の妖怪は、我から発する瘴気を吸い、凶悪なモンスターへと変化した。
これは面白い。前世は人を魔改造して楽しんだが、妖怪も人と同じようにもがき苦しみ、変貌した姿を見て呪詛を撒き散らし、さらに進化しておる。
我は変貌した妖怪を妖魔と呼ぶことにした。そして次々と妖怪を呼び出し、凶悪な妖魔を作り出していった。
……数が足りんな。
我は魔王城にいるデーモンやモンスターを探して周った。
そして哀れなおもちゃ見つけるなり妖気を送り込み、次々と妖魔に変えて行った。
凶悪なはずのデーモンやモンスター達は逃げ惑い、時には反撃してきたが、我の前では無駄な抵抗でしかない。
二刻もあれば十分だった。
多少逃したが、件の勇者達の餌になる運命。気にすることではない。
さぁ行くがいい。琴姫と秀之介を我の元へ連れてくるのだ。




