第18話 教会での戦い
俺達は冒険者ギルドを出ると、すぐに神殿に向かった。
「生贄を要求って物騒過ぎだな」
「なる早で倒した方がいいね」
「ちょっと! デーモンってまだ早すぎない!? こっちの世界に来てから、まだ一ヶ月も経ってないと思うんだけど! それにあの森を超えて、ここに到達するって普通しないんじゃない? ここって私達のレベルで来て良い場所じゃないかも……ちょっと狐鈴さんの案内妖精! 説明してよ!」
「秀一様と琴音様なら、勝てる相手かと存じます」
「私はどうなのよ!」
「アリサよ。心配するでない。我が守ってやろう」
「絶対よ! 絶対だからね!」
「怖かったら街で待っててもいいぞ」
「……それはそれでいや。配信者的にもかっこ悪すぎるし……。でもヤバかったら即撤退よ!」
「それはそうだ。まずは様子見だけでもしよう。この街のクエスト、どうもきな臭いよ」
「どういうこと?」
「集められた冒険者ってさ、デーモンに勝てたらラッキー、負けたらそのまま生贄になるんじゃないか?」
「……え?」
「だから享楽之神様は、俺達にデーモンを倒してくれって、依頼してきたのかもしれない」
「……怖いこと言わないでよ」
「アリサよ。一番怖いのは、デーモンでも妖怪でもない――人間じゃよ」
「……狐鈴さんが言うと説得力ありすぎよ」
「ねぇねぇ。アイテムボックスにでっかい石を入れてさ、超高いところから、ポイって落としちゃだめかな? 隕石みたいにさ」
「神殿を破壊したら街の人達が困るだろ」
「やっぱりダメかぁ。観光名所が吹き飛んだらまずいよね……」
「信仰の為に人が集まって街になったかもしれないだろ。神殿を破壊したら、住人全員が武器を持って襲い掛かってくるかもだぞ」
「怖っ!」
「そもそも吹き飛ぶのが神殿だけとは限らないだろ。隕石じゃないけど、巨石が街の近くに落ちたら、大きな被害が出る。そんな事したら、俺達のチャンネルも炎上するぞ」
「一番やっちゃダメなヤツだった!?」
「正攻法しかないだろうな」
神殿を遠くから観察すると、入口から少し離れた所に、荷物が散乱していた。冒険者の持ち物か? リュックや武器が散乱し、乾いた血の跡と何かを引きずった跡が神殿まで続いていた。
「急ごうか」
「そうだね」
「ねぇ……これってまさか……」
「ここで待ってるか?」
「いいえ。行くわ。リスナーのみんな。大丈夫だと思うけど、なんかヤバそうだから、グロいの見たくない人は、配信閉じてね」
「うぷっ……おええええ!」
神殿に入るとアリサさんが盛大に吐いた。
むせ返るような血の匂い。あちこちに散らばる冒険者だったもの。生存者は……絶望的だな。
視聴者や動画配信元に配慮しているのは、享楽之神であって愉悦之神ではない。
愉悦之神は、グロテスクな内容を俺達に配信させることによって、享楽之神の邪魔をしているのかもしれない。
「セレナ」
「心配しなくても大丈夫よ。ちゃんとライブ配信でもモザイクかけてるから」
「そうか。アリサさん。外で待ってるかい?」
「ちょ……ちょっとだけ待って」
「アリサさん。無理しないでいいからね」
「あなた達はどうなのよ」
「これより酷いのを見てきた」
「そう……」
「秀ちゃん。祝詞するから。警戒よろ」
「わかった」
「掛けまくも畏き八百万の神々の御前に申さく。天地清浄なる理のもと、此の地に満つる穢れを祓い給え、清め給え。罪穢れ悉く消え失せ、光満ちる道と成らんことを。神々の御力を奉りて、禍事・罪・穢れを祓い給え、鎮め給え。恐み恐みも申す」
祝詞が神に届いたのか、血や冒険者だったものが、穢れなき真っ白な塩に変わっていく。
「……凄い。なんか私も浄化されそう」
「どんだけ闇を抱えてるんだよ」
「これは祝詞って言ってね。神様に祈る言葉なの。特に『祓詞』は、罪や穢れを祓い清めるためのもの。ここでデーモンに殺された人達が、せめて穢れなく、怨念もなく、清められますようにってね」
「琴音ちゃん。聖女様だったの?」
「あははは。これ秀ちゃんも使えるよ」
「え、細マッチョ神父様……アリか?」
「秀ちゃんに手を出したら呪うよ?」
「怖っ! あくまでキャラの話よ! アイドルが特定の誰かをアリとか言うわけないでしょ! ああっ! 燃えちゃう! 炎上しちゃう! みんな違うからね!」
「それならいいけど。ってうあっ! 秀ちゃんウルチャ凄い! 赤ウルチャもある!」
「うおっ! 凄いな! みんな心が洗われるって! ってか俺には、殺害予告が来てるんだけど? 勘弁してくれ!」
「みんなありがとう! お礼は夜のウルチャ返しでね!」
「お主ら騒ぎ過ぎじゃ。出てきおったぞ」
神殿の奥、柱の影や祭壇の後ろから、赤黒い肌をした蝙蝠人間が現れた。その数三体。
「ギィィイ!」
蝙蝠人間達が、耳障りな声を発して襲い掛かってきた。
「狐鈴。アリサさんを頼む」
「任された。アリサよ。我らは援護じゃ。真っ当に戦おうと思うな」
「わかったわ」
蝙蝠人間を凝視すると、レッサーデーモン・レベル30。かなり強いな。
俺は剣を抜きつつレッサーデーモンに向かう。
「はあっ!」
接敵と同時に剣で斬りかかった。レッサーデーモンも鋭い爪を振りかざしてくるが、動きが単調だ。その腕を斬り飛ばそうとしたが硬い。深い傷を負わせたくらいで止まってしまった。
「クイック・ステップ!」
移動スキルを発動すると、視界がコマ落としの様に切り替わる。
「スラッシュ!」
右に左に瞬時に移動しながら、レッサーデーモンを何度も何度もスキルで斬りつける。
しかしレッサーデーモンは自分のダメージを気にせず、狂った様に腕を振り回し、鋭い爪で襲い掛かってくる。
「エア・スキャフォールド!」
本来なら、空中に足場を作るスキルだ。しかし相手との間に作れば壁となる。
レッサーデーモンは見えない足場に爪を弾かれ、大きな隙ができた。
「タイタン……」
ぐっと剣を引き下げ足を踏ん張る。剣に光が集まり暴れ出すのをグッと抑える。
「ブレイカー!」
レッサーデーモンの腹に剣が食い込む。既に一度斬りつけたところだ。
「はあああっ!」
そのまま真横に振り抜き、レッサーデーモンを一刀両断した。
少しは手応えがあるな。心配ないけど、念のため琴音の方を見ると、琴音もレッサーデーモンの首を刎ね飛ばしていた。
全く危なげない。少しは心配させろ。
「スターライト・シュート!」
実はさっきから狐鈴の魔法が聞こえていた。あっちも大丈夫だろう。
「……え?」
狐鈴がきゃるんとポーズをとって杖を向けると、星形の光がレッサーデーモンを弾き飛ばした。なんだよ、あの反則的な魔法は。ラストスペルだけでほぼ詠唱がないのに、圧倒的な攻撃力だ。上級魔法だったりするのか?
「スターライト・シュート!」
狐鈴がまたきゃるんとポーズを取って魔法を撃つ。哀れレッサーデーモンは壁にめり込み、魔法に挟まれて圧死した。妙に可愛いポーズを取る必要があるのだろうか。いや狐鈴的には必須なのかもしれない。
「ふむ。牽制のつもりが思いの外強かったの」
いや、狐鈴の圧倒的な魔力というか妖力のせいだと思うぞ。
「警戒解くなよ」
俺が言うと琴音が背中を合わせてくる。
狐鈴とアリサさんが遅れて左右についた。
バンっ! と神殿の扉が閉じた。
「きゃあ!」
アリサさんが悲鳴を上げる。
光源が高い所にあるステンドグラスだけになり、薄暗くなると、狐鈴が狐火を召喚して辺りを照らした。
「秀一、切り替えよ」
狐鈴が警戒を促してきた。確かに異様な圧力を感じる。さっき倒したレッサーデーモンとは比べ物にならない。中級デーモンのお出ましってことか。




