第17話 陰陽師が挑む、危険すぎる異世界クエスト
俺達はアストラルゲートから西に向かって移動を始めた。
風に揺れる草原は、まるで海のようにどこまでも広がっていて、遠くに街を囲む城壁らしきものが小さく見えた。
魔法で空を飛べば街まであっという間だと思うけど、俺達はゆっくりと進んだ。日本じゃ味わえないような大草原を、散歩してみたかったのもあるけど、アリサさんが覚悟を決める時間を作りたかった。
街のすぐ側には小高い丘があり、その頂にひときわ目立つ教会が建っていた。白い外壁に群青色の屋根、天を指す尖塔、そして鐘楼が光を受けてまばゆく輝いている。
教会はまるでこの街を見守るように佇んでいた。
ファーミルの森側には入口がないらしく、城壁に沿って回り込む形になった。
街の入り口で身分証でもあるギルドカードを提示して中に入ると、白い壁の建物が並び、屋根は教会と同じ群青色で統一されていた。何か風習とか宗教的な意味があるのだろうか?
狐鈴の案内妖精は、詳しいことは街に行けばわかると言っていた。絶対あの教会に何かあるな。
「琴音……」
「うん。普通じゃないね」
一見平和そうな街に見えるが、人々の顔は明るくない。それにこれは……
「どういう事?」
アリサさんが首を傾げた。
「ふむ。これは妖気か? それとも悪魔とやらの気配か?」
「えっ!?」
「ねぇ、秀ちゃん。あれなんだろう?」
少し大きな建物に武装した男女が慌ただしく出入りしていた。
「行ってみるか」
建物の軒先には、剣と杖が交差した看板が吊り下がっていた。冒険者ギルドの看板だな。
中を覗くと冒険者らしき人達がたくさんいた。ガラの悪い人も結構な割合でいる。
「ここに入るの?」
アリサさんが、すごく嫌そうな顔をした。現代日本人の感覚だったら絶対近寄りたくない。
「いかにも何か起こってそうだし、入るしかないと思うな」
「例のクエストって絶対ここだよね」
「琴音ちゃんは怖くないの?」
「私強いし!」
「……そりゃそうね。琴音ちゃんだったら、大人が数人がかかりで襲ってきても、返り討ちにしちゃいそうね」
「多勢できたら、式神出しちゃうし!」
「琴音、油断するなよ。ここは剣と魔法の世界だぞ」
「もちろん。油断するわけないよ。お? 心配してる?」
「当たり前だろ。まぁ信頼してるけどさ、こっちの人間がどれくらい強いかまだわからないからな」
「んふふ。嬉しいな。何かあったら護ってね!」
「もちろんだ!」
「なんでいつでもどこでもイチャイチャできるの? バカップルなの?」
「カカカっ! 羨ましいのかえ?」
「そ、そんなんじゃないわよ! ちょっとイラッとするの!」
「あの二人は年がら年中、たわむれておるわ」
冒険者ギルドの中は、俺達のギルドと比べると、汚くてぼろぼろだった。本来はこっちの方が当たり前なのかもしれない。俺達のギルドは近代的だし、個室なんて世界観が違う。
「えっと……冒険者の方ですか?」
カウンターに行くと、受付のお姉さんが訝しげな目を向けてきた。俺達が若すぎたから?
「はい。これ冒険者カード」
「えっ! レベル二十五!?」
受付のお姉さんが、冒険者カードと俺の顔を交互に見比べた。
「ぶはははっ! その歳で二十五だと!? ありえねぇな!? レベル詐欺じゃねぇのか!?」
大男が威嚇のためか、肩をいからせて、大きな足音を立てながら近づいてきた。
トラブルは勘弁だって思ったら、狐鈴が軽く攻撃的な妖気を放った。
かなり手加減された妖気だったけど、それでも体力と気力を奪われるような衝撃波が、屋内で吹き荒れた。
俺や琴音は平気だけど、至近距離でくらったアリサさんは、足をガクガクと震わせていた。
「すまぬな」
「……勘弁してよ」
「じきに慣れる」
俺達以外はまともに立っていられないようだ。特に妖気をまともに受けた大男は、尻もちをついて恐怖で顔が歪んでいた。
「ま、魔族なのか……」
「失礼な小僧じゃな。我は魔法少女じゃぞ」
「ま、魔法使いか?」
「して小僧よ。我の妖気を浴びて平気なあの者達を見てどう思う?」
「わ、悪かった! ただ者じゃないんだな……ですね」
「わかれば良い。さて、受付の人よ……」
受付のお姉さんは気絶していた。
狐鈴が回復の術をかけると、受付の人が目を覚ました。
「……ひっ!」
「人の顔を見るなりなんじゃ。取って食うぞ」
「怖がらせんな」
「お茶目なジョークじゃて」
狐鈴じゃまた怖がらせるので、俺が話を進めよう。
「ここに着いたばかりでよくわかってないんだけど、何でこんなに賑わってるんだ?」
「え? デーモン討伐に来たのではないのですか?」
「街が見えたから寄ってみたんだ」
本当は神に仕える妖精からこの街を教えられたとは言えない。
「えっと、どちらから?」
「フェルミアだよ。ファーミルの森を抜けて来た」
「えっ! あの森を!?」
「そうだけど?」
受付嬢が若干引いてる。まぁ確かに森の中央部には、高レベルなモンスターが多かった気がするけど……
「そ、そうですか……運が良かったですね」
「そうなんですか?」
「ええ。それよりも本題に入りましょう。村の近くに大地母神の神殿があるのですが、最近になってデーモンが住み着いたのです。しかも中級デーモンです!」
やばい。全然わからない。デーモンって悪魔のことだよな? こっちの世界で中級デーモンってどれくらいの強さなんだ?
「神殿って丘の上にあるでっかい建物だよな? 大丈夫なのか?」
「今のところは。ただ月に一度、街の人間を一人、生贄に差し出せと要求してきました。応じなければ、月に二人さらっていくと……」
「ここに集まってるのは、デーモンを討伐しに来た人達か」
「はい。国の騎士団や魔導士団は動きが遅いですから……。早期解決できればと思って、冒険者に討伐依頼を出したのです」
冒険者達は生贄の代わりってことか? そもそも代わりになるのかも不明だ。デーモンの目的が生贄ではなく、この街を恐怖で弄ぶことかもしれない。
「先ほどの魔力、凄腕の冒険者と見受けました。どうぞお力をお貸しください」
どちらにしても俺達は引き受けるしかない。こっちの世界でも俺達陰陽師の仕事は、人を助けることだ。




