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第184話 ツンデレデーモンわからされる

 次の対戦相手はリュゼリア。

 琴音と戦った双剣使いだ。

 カルミラの話によれば、真名は叢雲だ。

 銀髪ショートヘアに紫の瞳を見ると、まるで月に照らされた雲と花だな。

 月に叢雲花に風。あまりいいことわざじゃないけど……


「あんた、カルミラに何したの? 角と尻尾に毛が生えてたんだけど」


「あれが本来の姿だよ。叢雲」


「私の名前はリュゼリアよ。カルミラもそうやって籠絡《ろうらく》したの?」


 リュゼリアは名前を呼ばれても動じない。

 記憶の綻びはないのか? いや……


 なんか尻尾がグルングルンと回転したり、ビッタンビッタンと床に何度も叩いているんだけど……


 その度に観客から黄色い歓声やブーインが起こった。

 何かデーモンの習慣でもあるのか?


「決めたわ! あんたを倒して、私のモノにしてやるわ! 従順になるまで躾《しつ》けてあげる!」


 動揺どころかリュゼリアの闘気が上がった。


「やれるものならやってみな!」


 双剣使いの対策は既にしてある。仮想敵になってくれた紅羽に感謝だな!


「双方、抜剣!」

 

 俺は剣をアイテムボックスにしまい、代わりにナイフを二振り取り出し、左右一本ずつ握り締めた。

 さりげなく膝当てを装備する。

 防具はアイテムボックスから取り出すと、そのまま体に装着されるのが便利すぎる。


 右手のナイフを相手に向かって正眼に構え、左手のナイフは逆さに持ち、切先は下に向ける。

 そして脇を閉めて急所を隠し、腰を少し落とす。

 こっちの世界にない、短剣格闘術の構えだ。

 自衛隊仕込みの技術は付け焼刃ではないぞ。


「武器がさっきと違うね。長剣だと不利だと思ったの?」


「そうだよ。君の双剣は速いからね」


「ふぅん。見てるじゃん」


「始め!」


 リュゼリアはこっちの様子を見ながらジリジリと間合いを詰めて来た。


「慣れない武器で戦うなんて……舐めてるね!」


 リュゼリアからしかけてきた。

 時間差をつけた横薙ぎの二連撃は、琴音との対戦ですでに見ている。

 俺は前に出て相手の間合いを狂わす。

 斬撃の途中、つまりスピードが乗り切る前に、リュゼリアの剣を両方とも左右のナイフで受け止めた。

 さらに俺は前に出て、密着するなり、膝をリュゼリアに叩き込んだ。


 硬い膝当てがシールドを削る。

 本来なら、横隔膜にめり込むはずだが、わずかにシールドを削って終わった。


「なっ!」


 そして俺はリュゼリアの剣を押し除け、リュゼリアの側頭部に、逆手に持った左手のナイフを振り下ろした。


「クイック・ステップ!」


 リュゼリアは身を低くしながら、スキルで強引に下がった。

 それでもナイフの切っ先が、シールドを削った。

 強引な逃げ方だな。シールドがなかったら、そのまま抉られてたぞ。


 こいつ……シールドありきの戦い方になっているな。


「あんた……ナイフ使いなの?」


「昔訓練したことがあっただけさ」


 今度はこっちの番だ。


「スプリンター」


 俺は移動速度を上げつつ間合いを詰めた。

 右手のナイフを突き出すと、リュゼリア左手の剣で弾かれ、右手の剣が反撃してきた。

 それがわかっていたので、左手のナイフで受け止めつつ一歩前に出ると、リュゼリアはスキルを使って後退した。


 俺はまた間合いを詰めようとしたその時、リュゼリアは右手の剣を上に、左手の剣を下に、両方突きの構えになった。


 あれは琴音との試合で見た、連続突きの構えだ。


「クイック・ステップ!」


 リュゼリアの姿がかき消え、次の瞬間俺の目の前に現れた。

 クイック・ステップは相手に使われると厄介だな。

 だが、来るとわかっていれば対応はできる。


「ニードル・スラスト!」


 まるで矢のような突きが襲いかかってきた。

 まずは俺の頭、次に右肩、左腕……ここだっ!


 甲高い金属音と共に、リュゼリアの左の剣を弾く。

 そのまま一歩前に出ながら、リュゼリアの右手の剣をかわし、俺は左手に持ったナイフを突き立てた。


 しかし今度はギリギリのところで避けられた。

 相手もこっちの動きを見切っている。


 お互いバッと離れて間合いを取った。


「クイック・ステップ!」


「クイック・ステップ!」


 お互い移動スキルを使って、間合いを詰めようとしたがすれ違った。

 さらにクイック・ステップを繰り出し、斬撃の隙を狙う。

 入れ替わり立ち代わり、立ち位置を変え、隙を見つけて斬撃を繰り出した。


 極限状態の中、俺はリュゼリアの右の剣を弾くと、左手に持ったナイフは小指と薬指だけで支え、空いた指でリュゼリアの手首をひっかけるように掴んだ。

 ダメージが入るような攻撃じゃないから、シールドが機能していない。

 俺はそのまま手首をひねり上げて、リュゼリアの体勢を崩した。

 本来なら関節を極めるところだけど、怪力のデーモンに通じるとは思えないので、ひねりあげた腕をくぐって後ろに回り込み、ナイフを背中に突き立てた。


 ギィインと耳障りな音が鳴り響く。

 俺はすかさず身をかがめると、その場で回転しながら振るわれた双剣が、頭上を通り過ぎた。

 

「ライジング・カット」


 俺は小声でスキル名をつぶやいた。

 配信的には良くないけど、相手にスキル発動を教える余裕はない。


 俺のナイフがリュゼリアのシールドを下から上へ、削るように滑った。


 シールドを削る手応えはあまり好きじゃないな。

 

 そしてリュゼリアのシールドゲージを七割削り切った。


「あ、ありえない……ありえない! ありえない!」


 リュゼリアは膝を突いて、双剣を落とした。


 そう、俺のシールドゲージは一ミリを削れていない。


「お前はシールドありきの戦い方をしていたからな。鈍《なま》ったんじゃないか?」


「くっ……」


「それにお前の戦い方は、紅羽が覚えていたからな。練習させてもらった」


「え? く、紅羽……? え? え?」


 転生前は紅羽と仲が良かったのかな? その名を聞いて若干戸惑い始めた。


「オン・カンマニ・パドマ・シャリラ・ソワカ! 叢雲よ。調伏の印、いま結び奉《たてまつ》る。縁鎖《えんさ》・魂縛《こんばく》・理鎖《りさ》・封絶《ふうぜつ》・従命《じゅうめい》! 急急如律令!」


「あぁっ!」


 リュゼリアの角と尻尾が塩となって崩れ落ちた。

 これってまずくないか!?


「叢雲!」


「え? 私……? え? ご主人様? 私のこと知ってる?」


「お前、角と尻尾を生やせるか?」


 確か月華が式神は姿を変えられるとか言ってたな。


「うえっ! 尻尾っ! あっ! むんっ」


 叢雲の頭とお尻から、角と尻尾が生えた。

 ズボンの後ろに、穴でも開いてるのか?

 気になったけど、確認しちゃダメな奴だ。


 そこへ審判のデーモンが近寄って来た。


「おい! お前! いったい何をした?」


 まずい!


「あ! 生え変わりの時期だったんで!」


「生え変わり!? そんなの……」


「私の一族にはあるの!」


「そ、そうなのか?」


「そうなの! 次の試合があるでしょ! 私はとっとと退散するわ! あまり恥をかかせないで!」


「お、おう。わかった」


 審判はまだ不信に思っていそうだけど、叢雲の勢いに押されてしまった。


 俺は叢雲を見送りながら、装備の換装を始めた。

 ナイフをしまい、愛用の剣を取りだした。

 そして動きを阻害する膝当てを外していく。

 ふぅ。なんとかなったな。


 武舞台の反対側を見ると、叢雲とすれ違うように最後の相手が上がってきた。

 長剣使いのラムリス。御影さんがあっという間に倒しちゃったから、あまり見れてない。

 しかしあっちは俺の戦いを何度も見ている。

 ならばまた戦闘スタイルを変えるか。

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