第183話 激闘 カルミラ戦後半
みんなの応援が、俺に力を与えてくれた。
俺は極限の集中力によって、カルミラの鋭い斬撃をなんとか紙一重で避けることができた。
「……はぁっ」
俺は踏ん張って体勢を戻し、盾の範囲から出たカルミラの腕を目がけて、剣を振り下ろした。
ギィィン!
シールドを削る耳障りな音が鳴り響いた。
俺は深追いせず、体勢を立て直すために下がろうとしたら、目の前に盾が広がった。
「シールド・バッシュ!」
スキルによって強化された盾が、唸りを上げる。
俺はそのまま後ろに下がってなんとか避けた。
深追いしてたらくらってたな。
背中に冷たい汗が流れる。
カルミラは隙を庇うための行動だったのか、追撃をしてこない。
ここで俺が取る最も有効な攻略は、時間いっぱい逃げることだ。十分経てば時間切れでこっちの勝ちだから。
しかしそんな情けないことはしたくない。
盾も持ちなら、後の先が得意なはずだ。
ならば相手に先手を打たせ、こっちが後の先を取る。
カルミラと話した感じ使える手は……
「陽炎は可愛いな」
「……っ!」
「その輝く銀の髪は、銀やプラチナより価値がある」
「だ、だまれぇ!」
陽炎の声がフニャフニャになった。
「その青い瞳は、俺を萌え殺す気か?」
「お、おにょれぇえ!」
カルミラは顔を真っ赤にし、足が一歩、二歩前に出た。
そして翡翠から教わったキーワードを口にする。
「猫又の陽炎」
「うにゃああっ!」
とうとうカルミラは盾を構えながら突進してきた。
「シールド・チャージにゃん!」
おいおい! 語尾! こっちに隙ができるところだったぞ!
俺はカルミラの剣から遠くなるように、迫り来る盾を左に避けた。
それと同時に身を低くし、地面スレスレになるように、スライディングしながらすれ違った。
そのままカルミラの方に向き直りながら身を起こし、剣をカルミラの足に滑らせた。
またもやシールドを削る音が鳴り響く。
「うにゃあっ!」
カルミラは強引に体を捻って俺の方に向きつつ、牽制のために剣を振るったが、そんな動きはお見通しだ。
手が出るということは盾の範囲からでるということ。
今度は盾を持っていない方に避けつつ、カルミラの腕に剣を当てた。
「負けたらマタタビの刑だぞ」
これも翡翠からの伝言アタックだ。
カルミラの目が見開き、またもや隙ができた。
こいつ……見た目に反して精神面が弱点だな。
「ピアース・スピア!」
俺はカルミラの頭に突きを入れた。
「しょ、勝負あり!」
審判が慌てて武舞台に上がって来た。
気づくとカルミラのシールドは九割減っていた。
最後の突きが頭部にクリティカルヒットしたのだろう。
「き、貴様! 卑怯な!」
「さぁてな?」
「おのれ! マタタビとはなんだ! 責任とって教えろぉお!」
ええっ!?
「教えてやる。オン・カンマニ・パドマ・シャリラ・ソワカ! 陽炎よ。調伏の印、いま結び奉る。縁鎖・魂縛・理鎖・封絶・従命! 急急如律令!」
調伏は攻撃するための術ではない。
しかし相手とパスをつなげるために、攻撃とは別の形で呪力を外部に放っている。
本来ならこの都市に張られた結界により、発動しないはずだ。
でもなぜか発動する予感があったし、実際に発動した。これは愉悦之神からの神託か?
この都市に張られている結界は、愉悦之神が張ったものだ。
俺と式神は享楽之神に対抗するための駒。だから調伏は例外として処理されたのかもしれない。
「う、うにゃあっ!」
カルミラの角が猫耳に変わっていき、尻尾も黒いツルツルしたものから、毛が生えて、もふもふな尻尾に変わった。しかも途中から二股に分かれて二本生えているように見えた。まさにその姿は猫の妖怪、猫又だ。
「わ、私は……」
「陽炎。俺がわかるか?」
「は、はいにゃん……私は……」
陽炎が片膝を着こうとしたので、俺は慌てて止めた。
「待て! そのままだ!」
「え?」
「今はまだカルミラでいてくれ。後二人、カルミラと同じく無理やりデーモンに転生させられている」
「あっ!」
カルミラが振り返って、控えている二人を見た。
「あれは……叢雲と鈴蘭……」
「次俺と戦う方は?」
「双剣使いの叢雲です」
「わかった」
「御武運を……」
武舞台を降りて踵を返すと、後ろから小さく声がかかった。
「マタタビの刑、楽しみにしているにゃん」
俺は片手だけあげて答えた。
まずいまずい。琴音がめっちゃ睨んでる。
「秀ちゃん!」
「ごめんなさい」
「あ、そうなんだ? こっちまで聞こえてこなかったけど、謝るようなことを話してたんだ?」
しまった!?
琴音にもやられた!
「いや、翡翠にカルミラの弱点を教えてもらってたんだよ」
「弱点?」
「そう。カルミラは猫の妖怪、猫又だ。マタタビとか記憶を揺さぶるワードを呟いていた」
全部じゃないけど、嘘ではないよな!
「怪しい……秀ちゃんが誤魔化す時、右手で左手を掴むよね?」
「ごめんなさい。可愛いとか言いました。でも動揺させるためで……」
「誤魔化したからチューはなし!」
「ええっ!」
「最低ね……」
俺は最悪なコンディションで、再び武舞台に上がった。




