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第182話 激闘 カルミラ戦前半

 俺は武舞台に上がるため、短い階段を一歩ずつ上がっていった。

 正直緊張している。これは俺の我がままなんだってことが、分かっているからこそ緊張している。


 師匠はデーモン達を全滅させ、輪廻転生の輪に戻すのが陰陽師の仕事と言っていた。

 陰陽師として師匠の考えは正しい。

 

 ここにいるデーモンは、愉悦之神によって解放されたが、享楽之神によって地獄へ落とされた魂だ。

 それは前生で地獄へ落とされるほどの悪事を働いたってことだ。

 彼らはここで魂を浄化するために生きている。

 愉悦之神だってそれはわかっているから、飢えという罰を残しているのだろう。

 それなのに、俺はデーモンやモンスターの殲滅を選ばず、交渉によってゲートの使用許可を得ようとしている。


 我がままを通したのなら、絶対勝たなければならない。

 俺は琴音や御影さんほど剣の技術はない。

 浄土世界で修行したものの、通用するだろうか?


 いや、そんな不安を抱えていては、修行に付き合ってくれた、炎華、蒼蓮、紅羽にも申し訳ない。

 俺はやれる! やってやる!


 階段を登り切った俺は振り返った。


「琴音。勝ってくる」


「うん。頑張って! 秀ちゃんならきっと勝てるよ!」


「サンキュー! 琴音の応援が一番のバフだ!」


「うへへ。勝ったら勝利のチューだよ!」


 するとコメント欄に応戦のメッセージが流れた。

 昨日の馴れ初め配信の成果が出たのか、リスナーの応援によって、力がみなぎってくる気がした。

 浄土世界での修行が浅いため、気がする程度なんだと思うけど、少し強くなった気がした。

 例えるなら、ステータスの各パラメータがちょっと上がった感じ?

 

 応援メッセージに混じって、リア充爆発しろ! とか、真っ赤に怒った顔や爆発マークの絵文字が連打されているけど、本気で怒っているのなら、わざわざ書き込みなんかしない。

 これは茶化した応援なんだ。だから元気が湧いてきた。

 これはこれで、リスナーとのコミュニケーションなんだ。

 もっとイチャついてやるぞ!

 

「秀一君」


 御影さんが真剣な視線を送ってきた。


「油断しないことね。楽勝に見えているかもしれないけど、私は結構本気だったわよ」


 あの御影さんがそう言うのなら、気を引き締めないと。


「秀ちゃん……対戦相手のデーモンなんだけど……」


 何か歯切れがわるいな。戦いで何かを感じたのか?


「琴音?」


「剣に迷いがあった。心のどこかで、私や秀ちゃんを覚えているんだと思う」


「……わかった。そこに勝利への糸口がありそうだ」


 翡翠に陽炎のことを少し聞いてある。

 揺さぶりに使えそうだ。


「私と琴音がシールドを削らないように頑張った意味、理解してるわよね?」


「はい。ありがとうございます」


 俺は琴音と御影さんに軽く手を振って、武舞台の中央に向かった。

 アドバイスはありがたいし、正直助かる。

 でも少し悔しい。心配かけないくらい強くなりたい。


 対戦相手はカルミラ。武器は片手剣と盾だ。

 盾はアイロンのような形をしていて、大きさは体の半分以上ある。

 体を狙いづらいな。かといって足を狙ったら、上から剣を振り下ろされて斬られる。

 そう考えると、見た目より守備範囲が広い。

 

「おまえ、リュゼリアとラムリスとも戦いたいそうだな? いったい何を企んでいる?」


 武舞台の中央まで来ると、カルミラが声をかけてきた。


「本来の記憶を取り戻して欲しいのさ」


「記憶……お前は一体何者だ?」


「試合後に教えてやるよ。陽炎」


「……っ! その名前で呼ぶな!」


 審判のデーモンが武舞台に上がり、俺とカルミラを交互に視線を送った。


「双方、抜剣せよ」


 俺とカルミラは、腰に差した鞘から剣を抜いた。


「始め!」


 他の二人同様に、カルミラも突っ込んでくるかと思ったら、盾を構えて待ちの体勢になった。


 胴体の大半が盾に隠れて狙いづらい。

 まずは試しに打ち込んでみるか。


「……スプリンター」


 俺は小声で高速に走るスキルを発動させた。

 クイック・ステップのような一瞬で間合いを詰めるスキルではない。

 それでも通常より早い速度で間合いを詰め、俺は斬撃を放ったが、カルミラに盾で防がれた。

 しかも剣が当たる瞬間、盾を前に出して弾く余裕まである。

 

 視覚に映るカルミラのシールドゲージを見ると、一ミリくらいしか減ってない。

 でも盾で防いだら、ちゃんとシールドゲージにも反映されるんだな。


 カルミラは盾で身を隠しつつ、わずかに傾いたかと思うと、片手剣を盾の脇から突いてきた。

 俺は剣を引きつつ、体を半身に傾けて避けると、そのまま突きの体勢に入った。


 それが分かったのか、カルミラはすぐさま剣を引いて盾をかまえ直した。

 攻めにくいな。


 俺は少しだけ角度を変えて、何度も剣を振るうが、カルミラに全て盾で防がれてしまった。

 リズムを崩してフェイントを入れてもだめだ。


 だが、一つだけ分かったことがある。

 それはスピードだ。

 いくらデーモンの肉体だといっても、盾はそれなりに重いし視界も悪くなる。

 対応速度と身体の動きは、若干俺の方が上だ。


 俺は高速移動のスキルを駆使して、右へ左へ弧を描くように移動すると、一瞬盾の動きがついて行けないタイミングを見つけた。


「……っ!」


 気合いの声を出さず、スキルを使わない。

 ここぞというところへ斬撃を放った。


 ――ここで決める!


 しかし盾で思いっきり弾かれた。

 誘われた!?


 弾かれた勢いで腕が開き、剣筋を入れる隙が出来てしまった。


 そして当然のごとくカルミラの斬撃が俺に襲いかかった。


 かわせない! そう思った瞬間、視界がやけにゆっくりと流れた。

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