第181話 御影の実力
コロシアムは一瞬静まり返った後歓声が起こった。
リュゼリアが所属している勢力は、まさかの敗退に戸惑っているようで、その一角だけ静かだ。
歓声を浴びながら琴音が戻ってきた。
「お疲れ! 琴音! 完封じゃないか!」
「んふふ。褒めて褒めて!」
「すごいぞ琴音! 琴音は本当に強いな。惚れ直したよ」
「やった! 私も秀ちゃんが勝ったら、いっぱい褒めてあげる!」
「……相変わらず仲がいいわね。節操があるだけ昔よりマシね」
御影さんは琴音とすれ違うように武舞台へ向かっていった。
しばらくすると琴音の時と同じように、コロシアムの上空に大きなスクリーンが映し出された。
相手の名前は……ラムリスか。
ラムリスは長身の女性型デーモンだ。
長い金髪をポニーテールにまとめ、身を包む青いマントを羽織っているため、服装はわからない。
左手に持ち手が付いた大きな鞘をぶら下げていた。
長剣は鞘から抜くのが大変だから、鞘は左右に開くケースみたいなものだ。
ラムリスは武舞台に立つと同時に、バサッと羽織っていたマントを脱ぎ去り、偉そうな決めポーズを取って、その青い瞳を御影さんに向けた。
その下は……とても動きやすい恰好をしているな。
小手と脛当て、そして胴体は胸当てと腰当てのみ。いわゆるビキニアーマーってやつだな。
これは配信で映していいのか!?
もしかしたら本人はかっこいいパフォーマンスと思っているのかもしれないけど、マントの下がほぼ裸とか変態以外何者でもない。
「なんて破廉恥な! 一秒でも早く配信から消してやる!」
武舞台の上から、御影さんが怒りの声を上げた。
「何を怒っているのか、さっぱりなんだが?」
ラムリスがあごに指を置いて、怪訝な顔をした。
「その恰好は何!? 恥ずかしくないの!?」
「シールドがあるのだ、重い鎧など邪魔なだけだろう?」
ラムリスはビシッと御影さんに指を差しながら、妙なポーズをきめた。
こいつ絶対変な奴だ。
「なんて愚かな……」
シールドの総量は、身に着けている防具によって増えたり減ったりするけど、そういうことを言っているのではない。
シールドがあることによって、油断が生まれているのだ。
「双方、抜剣せよ」
御影さんも長剣だから、二人共鞘を開いて長剣を取り出した。
「始め!」
御影さんはすり足でラムリスとの間合いを詰めていく。。
激昂していても、冷静さは失ってないみたいだ。
「クイック・ステップ」
一方ラムリスはスキルを使って間合いを詰めた。
リュゼリアと同じだな。
確かに有効ではあるけど……
「ホリゾンタル・カット!」
ラムリスの横薙ぎの斬撃スキルが御影さんに迫った。
「スラッシュ」
しかし甲高い金属音と共に、ラムリスの剣が弾かれた。
浄土世界での修行前だったら、俺はあの一撃をくらっていたかもしれない。
今見ると、移動スキルからの攻撃は、結構隙が大きい。
クイック・ステップは高速移動からの急停止だ。
着地点を狙いやすいし、そこからの攻撃も予測しやすい。
あれでは御影さんに当たらないだろう。
「くっ! オーバーヘッド・エッジ!」
ラムリスがスキルを使って長剣を振り下ろした。
「スラッシュ」
しかし御影さんは斬撃のスキルを長剣に乗せて、冷静にはじき返した。
ここでスキルを使ったのは、デーモンの重い一撃をはじき返すパワーを得るためだけだ。
御影さんくらいになると、スキルなど補助でしかない。
「遊んでいるの? じゃあ消えて」
御影さんの剣が、紅く光ったその瞬間、御影さんの姿がかき消えた。
紅い閃光が数回走り、ギィィンという耳障りな音が何度も響いたと思ったら、ラムリスのシールドゲージがきっちり七割減っていた。
早い!
あれはクイック・ステップと斬撃スキルを混ぜたような技だ。
御影さん自体が斬撃と一緒になって高速移動していた。
高速移動スキルはこう使うんだよといっているみたいで、ちょっと意地悪だな。
この都市では呪力を外に放出できない。しかし体内に巡らせることは可能だ。
体内に呪力を流し、異世界でいうバフのように体を強化しつつ、地上を高速移動しながら斬撃を繰り出していた。
これって一見攻撃スキルに見えるけど、禁止されていたバフスキルにも該当するのでは……
一瞬御影さんの顔が、『やってしまった』と引きつったが、以前の俺だったらそれに気づかなかった。
きっと大丈夫じゃないかな?
またしてもコロシアムは静まり返った後、大歓声が起きた。
移動スキルか攻撃スキルに見えたのか、そのまま御影さんの勝利となった。
一方ラムリスは呆然となっていた。
「馬鹿な……負けのポーズなんて考えてないぞ……」
「この後もう一戦あるのは知っているわよね?」
「あぁ」
「それまでに考えておくのね」
「そんな必要はない!」
地団駄を踏むラムリスを置き去りにして、御影さんが武舞台から降りてきた。
その顔は後味が悪いのか、苦い表情をしていた。
「あら? 気づいた?」
俺の顔を見た御影さんが、意外そうな顔をした。
「ええ……」
「少し見直したわ。でも内緒よ」
あの御影さんが! いつもゴミを見るような冷たい視線を送ってくる御影さんが!
自嘲めいた笑みを浮かべながらウィンクしてきた!
ちょっと可愛い……
「いってぇ!」
そして琴音につねられた。
次は俺の出番だというのに。もうダメージをくらってしまった。




