第179話 デーモンvs人間の決闘が始まる!
コロシアムは静かな熱気に包まれていた。
今日の試合は、各勢力の最強の戦士が出ると告知されているため、都市全体がお祭り騒ぎになっている。
しかも相手は俺達人間だ。
愉悦之神によって、この都市にいるデーモンやモンスター達は、享楽之神が神力を集めるために生み出した駒ではなくなった。
今までは魂の浄化システムに縛られていた存在だったが、彼らは自らの意志で生きている。
それゆえに魔王軍にいる意味を見いだせず、離反してこの都市に集まっているのだろう。
しかし今まで魔王軍にいたのも事実だ。
魔王軍やデーモン軍団が攻めてきた時に、ここにいる者達と戦ったかどうかはわからないが、人間に良い印象を持っているはずがない。
最初に交渉に来たデーモンの様子や、俺達が来た時の警戒態勢を思い返すと、人間は恐ろしい存在だと認識しているのではないだろうか?
そんな敵意渦巻くコロシアムに乗り込むなんて、命知らずにもほどがある。
俺は内心怖気づいていたが、決闘後に俺達から食料を提供すると公表されたおかげか、敵意や憎悪の視線よりも感謝や歓迎の視線の方が多くなり、ホッとした。
もしかしたら一般客は、遠くで戦っている怖い異種族が、手土産を持ってコロシアムの決闘に参加しに来た、とでも思っているのかもしれない。
◇◆◇◆◇◆◇◆
俺と琴音、そして御影さんは、案内役のデーモンに連れられてコロシアムの通路を抜けた。
コロシアムは小型のドーム球場みたいな場所だ。通路の出口から見える光景は、石造りの武舞台と、それを取り囲むすり鉢状の観客席だ。
観客席は満席で、決闘開始に近づくに連れ、熱気が膨れ上がっていく。そして俺達を倒せと、そんな思いが歓声の乗っている気がした。
俺達と反対側から、カルミラ達が現れると、雄叫びが上がり、足で床を鳴らし、コロシアムの熱気が一段上がった。
「お前達はあそこで待機だ」
案内役のデーモンが、武舞台の手前を指さした。
そこには椅子が三つ並べられていた。あそこが待機場なんだろう。
武舞台の反対側に見える三人のデーモンは、みんな手強そうに見えた。
俺はふと、浄土世界で紅羽が言っていた言葉を思い出した。
天才と呼ばれる者達の中には、前世で培った記憶や経験を魂が覚えていて、それが開花した者がいるかもしれないと。
普通なら前世の記憶や経験なんて覚えていないけれど、式神を核とした個体ならば、魂に刻まれた経験が受け継がれている。
紅羽がデーモンだった時、体や魂が戦いを覚えていたそうだ。
対戦相手のデーモンが、式神の魂を核にして作られて存在ならかなり危険だ。
式神達は異世界へ転生する前からも、妙光如来様の元で修行をしていた。その技量は想像もつかない。
ふと白夜を思い出した。
あいつはヴァンパイアだったころ、すぐに逃げようとしていたな。ほとんど戦いにならなかったけれど、面と向かって戦ったら、そこそこ強かったのでは……いや、あれは転生してから剣とか使ってなさそうだ。修行をしなければ、才能の開花もないか。
炎華はヒュドラ、蒼蓮はフェンリル。どちらも転生後は修行はおろか人形でもなかった。だから苦戦もしないで倒せたが、デーモンロードの紅羽は強かった。
今度のデーモンも相当強いに違いない。
待機所の椅子に座ると、案内役のデーモンが最終説明を開始した。
「三つの試合、全て勝てたらゲートを使わせてやる。負けたら食料を置いて帰ってもらう。いいな」
「あぁ、わかっている」
「ルールは魔法なし、スキルありの決闘だ。ただしバフ系のスキル、シールドや防御のスキルで防ぐのは反則とする。あくまで剣と攻撃スキルのみの戦いだ。あぁ……移動系スキルは攻撃の手段なのでありだ」
ただしから後半は、知らされてないルールだ。向こうからしたら、いつものルールだったのかもしれないが……
まぁそんなルールがあっても、問題ない!
「ねぇ。聞いてないんだけど?」
無茶苦茶問題あった!
御影さんが半目になって視線を送って来た。
デーモンよりもおっかない。
「……ごめんなさい」
「次があったら気をつけるのね」
次があったら……。ミスのせいで次がないことなんて、陰陽師の世界では当たり前だ。
「……はい」
「第一試合を始める。双方舞台へ上がれ!」
スッと琴音が立ち上がった。
「秀ちゃん行ってくるね!」
第一試合は琴音の出番だ。
「あぁ! 頑張れ! 琴音! 速攻倒してこい!」
「うん!」
「心配はしないの?」
御影さんが少し怪訝な顔をした。
「琴音が負けるわけないので」
「そう。強くなったわね」
「はい!」
御影さんが言っているのは、剣術やレベルの話じゃない。
精神面だ。
以前なら琴音のことが心配で仕方なかった。
でも考えてみれば、心配するということは、裏を返せば信用していないということでもある。
琴音は確かに大切な恋人で幼馴染だ。
でも今はそれだけじゃない。
色々なことを経験してわかったんだ。
背中を預けられる仲間であり、信頼できるパートナーだということを。
琴音ならやってくれる。




