第176話 ラブコメ編 道場見学
クラスメイトがウチの道場に見学にきた。
その中に小竹君や井町さんもいて、みんな道場の端に座っていた。
俺と琴音が稽古着に木刀を持って道場に入ると、みんな竹刀じゃないことに驚いていた。
今日の道場はいつもより人が多い。
門下生だけではなく、警視庁や自衛隊で教えている人までいる。
これは父さんが張り切ったわけじゃない。元々この日は外部の人が来る予定だったらしく、たまたま重なっただけだ。
その予定とは、免許皆伝とまではいかないが、それなりの域に達した実力者のお披露目だ。
その陰陽師に庁や省も興味津々なのだろう。
いざ一緒に事件に対応するような場面になった時、頼りになるやつなのかどうなのか、予め知りたいのかもしれない。
その仕上がった人とは、陰陽局の御影さん。
華の女子大生だ。
大学に通いながら陰陽局入りした先輩で、剣術の腕は俺達と別次元にいる人だ。
刀に術を乗せて戦うスタイルで、実戦経験もそこそこ積んでいるらしい。
道場は少しピリピリしているけど、そんなことは俺達に関係ないな。
クラスメイトにはちょっと悪いけど、俺達は俺達だ。
まずはストレッチ。琴音と一緒に体を伸ばしていく。
今までは何も感じていなかったけど、最近ちょっと気まずい。
稽古着越しでも琴音に触るとドキドキしてしまう。
俺の背中を伸ばす時、琴音の吐息が首筋にかかった。
やばい。なんかもうやばい。
もう男女分かれてストレッチした方がいいんじゃないかって思うけど、なぜか俺と琴音はいつもペアだ。
ストレッチの後は、基本の型をなぞり、打ち込み稽古をする辺りで、クラスメイト達は飽きてきたみたいだ。
「秀一。お前、御影と戦ってみろ」
父さんはそれを感じたのか、とんでもないことを言いだした。
関係ないと思っていただけに不意打ち過ぎた。
「ええっ!? 無理無理!」
「御影」
「はい。先生」
「少し秀一をボコれ。お披露目試合前のウォーミングアップだ」
「父さん!? 今ボコれっていった!?」
「わかりました。半殺しくらいにします」
「御影さん!?」
「早くしろ。ギャラリーが暇してるぞ」
「ぐっ」
「え? 防具とかつけないの」
ギャラリーの方から、井町さんの心配そうな声が聞こえてきた。
防具はつけないが、防御の呪符を稽古着の下に張ってある。
この呪符を張っていれば、骨折するような斬撃を受けても、打撲くらいに軽減される。
御影さんもどこかに張っているはずだ。
道場の隅にある救急箱は二重底になっていて、回復の呪符も隠してある。
回復の呪符は、見た目湿布に偽装してあるから、万が一見つかっても大丈夫だ。
俺と御影さんは道場の中央に出ると、門下生達が下がっていった。
陰陽師の先輩方は、御影さんの実力を見るために来たのかもしれない。
「はじめ!」
御影さんの構えをよく見ろ。
筋肉の動き、視線、足さばきをよく見るんだ。
御影さんが一歩前に……出ない!
フェイントだ! しかし俺の体はもう動いてしまった。
俺の足が一歩前に出る。それに合わせて御影さんが間合いを詰めてきた。
俺は間合いを狂わされ、木刀も中途半端に振ってしまった。
隙を作らされた! まずい!
俺はとっさに身をかがめると、頭の上を御影さんの木刀が過ぎていった。
間一髪かわしたと思ったら、目の前に御影さんの膝が広がった。
「くっ!」
俺は身を投げるように転がり、そのままの勢いで立ち上がると、今度は木刀の切っ先が迫ってきた。
まるで矢を射るかのような突きを、俺は首を横にひねってかわしつつ、木刀を横薙ぎに振るおうとしたけど動かない。
俺の右手が御影さんの手で押さえられていた。
御影さんがその場で一回転したかと思ったら、足をすくうような横薙ぎの斬撃が来た。
俺は後ろに下がりつつ小ジャンプで避けるが、今度は着地地点を狙った追撃が来た。
そこから始まる怒涛の連続攻撃によって、俺の木刀が宙を舞った。
だがここからだ。
俺は伸びた腕を無理矢理縮め、組手立ちになると、掌底を御影さんに放った。
「はっ!」
あっ! おっぱいに当たる!
しかしそんな杞憂はやってこなかった。
俺の腕は木刀の柄頭で叩き落とされ、胴に思いっきり横薙ぎの斬撃をくらって吹っ飛ばされた。
「未熟。それにスケベ」
御影さんが俺を見下ろし、冷たい視線を送ってきた。
未熟はわかるけど、スケベはないだろう! わざとじゃないんだ!




