第175話 ラブコメ編 幼馴染のことが好きなんだ
カラオケボックスから出ると、他のクラスメイト達が外で集まっていた。
琴音ちゃんの側に小竹君がいて、何か話していた。
俺はそれを見て、大切なものを奪われてしまうような……漠然とした不安を覚えた。
とても嫌な気分だ。イライラするし、モヤモヤする。
「早川君。この後みんなでファミレス行くけど、一緒にどう?」
井町さんが話しかけてきたけど、全然頭に入らない。
「あ、秀一君!」
琴音ちゃんが俺に気づいて、小走りで寄ってきた。
「あっ! 近藤さん!」
小竹君が琴音ちゃんに声をかけたが、琴音ちゃんは振り向かなかった。
さっきまでの不安が少しだけ薄まった気がした。
「ねぇ。秀一君。もう帰ろ?」
琴音ちゃんも焦っているような、少し不安そうな顔をしていた。
「黙ってサボってきたし。道場にごめんなさいだけでもしたい。心配してるかもだし」
「そうだな。みんなごめん。習いごと黙ってサボったから、帰るよ」
「そ、そっか。なら仕方ないよね」
井町さんはちょっと残念がっていた。
「今度さ。剣術道場に見学行ってもいい? 来週の水曜日とか」
井町さん、剣術をやりそうに見えないんだけど、意外にも武闘派なのか?
「え? いいんじゃないか? ウチの道場、一応門下生募集してるし」
剣術道場は隠れ蓑で副業だから、門下生はいてもいなくてもいいけど、まったくいないと隠れ蓑にならない。
「早川君のお父さんが教えてるの?」
「そうだよ。普段は警視庁とかに出張してるけど、来週はいるかな? なんかウチの道場に人が来るみたいだし」
「ふうん。じゃあ来週の水曜日、みんなで見学行っちゃう?」
「えっ! ちょっと怖くない?」
「近藤さんも通ってるんでしょ? 大丈夫じゃない?」
みんな盛り上がり始めた。
「見学オッケーか聞いてみるよ」
「秀一君!」
「あぁ。悪い。急ごう!」
みんなから離れて見えなくなると、琴音ちゃんが俺の手をスッと握ってきた。
「ねぇ。井町さんと仲良いの?」
「え?」
井町さんがちょっと絡んできたのを思い出した。
「うーん。あんまり?」
「ならいいけど……」
「琴音ちゃんはどうなんだよ。その……小竹君と」
「全然! これっぽっちも仲良くないよ! ちょっと困ってる!」
「そ、そうか」
俺はホッとして大きく息を吐いた。
「ねぇ。秀一君。今……ううん! なんでもない!」
琴音ちゃんがにんまり笑って上機嫌になった。
「なんだよ。言えよ」
「やーだよ! ふふん。そっか。そうなんだ!」
「琴音ちゃん!」
「ねぇ。昔みたく秀ちゃんって呼んでいい?」
「なんか懐かしいな。うーん、俺も変えるか? 琴ちゃん?」
「なんか変!」
「じゃあ……琴音」
「う、うん! それがいい!」
まるで俺達、付き合ってるみたいだな。
そうなれたらいいな。
あっ……俺……琴音のことが好きなんだ。
いつの間にか琴音のことを目で追っていた。
琴音の側に小竹君がいたのが嫌だった。
もし仲が良かったらどうしようと思った。
琴音が小竹君を振り切って、俺のところに来たのが嬉しかった。
でも今度は胸がドキドキして息が苦しい。
顔が熱い。
どうしたらいいのか、考えがまとまらない。
このまま告白するか?
脈はある気がする。
でもそれは俺の勘違いだったら?
告白して断られて、幼馴染という関係まで壊れたら嫌だ。
もしも琴音が俺と同じ気持ちだったら……
そんな妄想を始めた途端、俺は最悪なことに気が付いた。
さっきの井町さんのことを聞いてきたのって……
もしそうなら、俺……自分のことばっかりじゃないか。
見学の話、今さら断れる雰囲気じゃないよな……
そんなことを考えていたら、道場まで来てしまった。
「……琴音」
「うん?」
「今日は……なんていうか……色々とごめん」
「……うん。いいよ」
琴音は笑ってくれたけど、少し残念そうだった。
俺は結局何も言えなかった。
好きだと気づいたのに、もう一歩踏み出せない。
自分が情けないな。
この気持ち、いつか伝えたい。




