第172話 ラブコメ編 幼馴染を女の子として意識した日
俺と琴音の馴れ初めは、中学生になったころから始まる。
あの頃は呼び名も秀一君、琴音ちゃんだった。
小学生から中学に上がって、変わったことと言えば、制服を着るようになったことだ。
紺のブレザーにグレイのスカート。そして赤いリボン。
今までと違う制服姿の幼馴染を見て、俺は呼吸を忘れた。衝撃が走ったんだ。それくらい可愛かった。
俺はこの時から、琴音を異性として、一人の女の子として見るようになったんだと思う。
中学生になってしばらく経ったある日の放課後、クラスメイトの安西君が声をかけてきた。公立の中学だから、殆どのクラスメイトが小学校からの友達だったり、知り合いだ。
「早川君。部活決めた?」
「いや、俺は習いごとがあるから部活には入らないんだ」
「ええっ! そうなんだ。僕、バスケ部に入ろうかと思ってさ。それで早川君を誘おうと思ったんだけど……」
「悪いな」
「習いごとがあるならしゃーないか」
中学校ってどこかの部活に入らないといけないんだけど、習いごとがあると免除されるんだ。
「秀一君。一緒に帰ろ」
偶然同じクラスになった幼馴染の琴音ちゃんが、鞄を持ってやってきた。
「近藤さんも部活に入らないの?」
安西君は琴音ちゃんにも聞いた。
「うん。秀一君と同じ習いごとに通ってるんだ」
「へぇ。何習ってるの?」
「剣術だよ」
「え!? 剣術!」
「うん。剣道とは違うやつ」
「……へぇ。すごいんだね? じゃあ俺は部活の見学に行ってくるから」
「うん。バイバイ」
「じゃあな」
安西君、剣術と聞いてちょっと引いてた?
うちの道場って、警察や自衛隊の輸送車が、よく止まっているからな。
近寄りがたい道場で有名らしい。
道場の名前は知らなくても、ここらで剣術を習っていると、警察や自衛隊の関係者と思われても仕方ない。
警察を見ると、例え何も悪いことをしていなくても、身構えちゃうやつ。
安西君の去り際が、少しそれに似ていた。
実際は警察ではなく、防衛省の関係者なんだけどな。
剣術道場は隠れ蓑で、裏では陰陽術の訓練を行ったり、陸上自衛隊特殊災害連隊の特殊訓練を行っている。
一般の門下生は少ないけど、普段はちゃんと剣術の指南を行っているぞ。
俺と琴音ちゃんだって剣術を習っているしな。
陰陽師に必須というわけではないけど、剣術を身につけている方がいいんだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
学校から出ると、琴音ちゃんがソワソワし始めた。
「秀一君。今日はさぼっちゃおうか?」
「え? 怒られるよ?」
「中学生になったんだし、寄り道とかしてみたい!」
「うーん。まぁ琴音ちゃんがそういうなら」
「やった! じゃあさ。駅前のファーストフードでポテト食べていこうよ!」
「いいぜ。ポテトくらいなら夕飯入ると思うしな」
「けってーい!」
中学生になってお小遣いが増えたから、たまには買い食いしても大丈夫なはず。
「ちょっとドキドキするね」
少し頬を染めた琴音ちゃんを見て、俺もドキッとした。
「そ、そうだな」
「これってデート……だったり?」
不意打ち過ぎる! 琴音ちゃんも俺と同じ気持ちだった?
少し嬉しく思いつつも、恥ずかしくもあり、意識しているのを知られたくもなく、俺はごまかそうとした。
「俺と琴音ちゃんが?」
「あはは。そうだよねー」
琴音ちゃんががっかりした顔になった。
「いや、デートにしよう」
だから俺は慌てて素直になった。
喉がからからに乾いていく。
どうして俺はこんなに緊張しているんだ。
相手は幼馴染の琴音ちゃんだぞ。
この間まで一緒になって鬼ごっこしたり、泥んこになって外で遊んだりしていたんぞ。
先週なんて陰陽師ごっこをしていたら、めちゃくちゃ怒られて、現場に連れていかれたくらいだ。
「う、うん。デート……だね」
隣に歩く琴音ちゃんの手と俺の手が当たってしまった。
俺はビクっとして、反射的に半歩引いてしまった。
「ねぇ。デートなら……」
長年一緒にいる幼馴染だ。
琴音ちゃんが何を求めているのかくらいわかる……けど、これには自信がなかった。
正直怖い。
でも……
俺は勇気を出して、琴音ちゃんの手を軽く握った。
俺も震えていたけど、琴音ちゃんの手も震えていた。
琴音ちゃんは黙って握り返してきた。
琴音ちゃんの顔を見ると耳まで真っ赤になっていた。
恥ずかしがってる琴音ちゃんの顔がすごく可愛い。
おかしいな。
昨日までなんとも思っていなかったのに。




