第170話 再び浄土世界へ
デーモン達と決闘について、詳しい打合せが行われた。
開催時刻は三日後の昼。場所はこの都市ゼルガードの北にあるコロシアムだ。
ゼルガードには三つの勢力があり、お互い対立しつつも、大きな決め事は三つの勢力が集まって決めるらしい。
各勢力の名は、『竜の牙』、『竜の爪』、『竜の角』だ。
今回の交渉で、ゼルガードの代表は『竜の牙』の盟主が務めていたみたいだが、『竜の爪』の盟主が納得できずに決闘を入れてきた。
そしてゲートを使うためには、それぞれの勢力で一番強いデーモンを倒さなければならなくなった。
もし倒せなかったら、真田さんと御影さんの憑依型機動式神がゼルガードを強襲するだろう。
もうどっちがデーモンなのかわからない。
俺的には機動式神で強襲するのは後味が悪いし、配信的にも最悪だ。
そうならないためにも、俺達は決闘に勝たなければならない。
向こうの代表は三名。
カルミラも含めて、全員式神の魂が核となっていた。
俺達の代表は、俺、琴音、御影さんになった。
向こうは決闘に勝つという条件を付けくわえてきたので、こっちも一つ要求を出した。
それはどちらが勝利しても、琴音と御影さんがそれぞれ戦ったデーモンと、俺がもう一度戦うということだ。調伏するには俺が直接戦って、勝つ必要があるから。
向こうは意味がわからないようだったけど、娯楽になる試合が増えるのは歓迎したいのだろう。
二つ返事で了承してくれた。
「秀ちゃんお疲れさま」
「やれることはやったけど、俺が交渉で良かったのかな」
「満点とは言えぬが、良い経験になったのではないか? それに天部の力を得るために、お主が任されたのであろう」
狐鈴がフォローしてくれたので、少し気が楽になった。
「そうだといいな……え?」
再びあの呪文が頭の中に浮かんできた。
今この時唱えなければならない。そんな気がしてならない。
「オン・スカーヴァティー・マハー・クシェートラ・ソワカ! 清浄なる彼の地、穢れなき光の門、今ここに開かん! 浄土光路・開門! 急急如律令!」
呪文と共に真っ白な光が俺達を包み込んだ。
「きゃあっ!」
「ぬっ! なんじゃこれはっ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
光が晴れると、俺達は白銀の大地にいた。
青や金や紫の光が漂う空、遠くに連なる山々。そして目の前にある巨大な門。
見覚えがある。ここは浄土世界の入り口だ。
「浄土世界へようこそ。ご主人様」
後ろから煌姫の声がした。
振り向くとそこには、俺の式神達がずらりと並んでいた。
「これはいったいどういうことだ?」
「スキルは使えても、術が使えない状態では、陽炎達には勝てませんので、妙光如来様にお願いして、修行の機会を頂きました」
「修行って言ったって、三日後だぞ」
「えぇ。ですから、時間の流れが異なる場所で修行を行います」
「……なるほど」
以前俺と琴音が歩いた世界か?
そういえば、アリサも時間の流れが違う場所で、仏法を習ったとか言ってたな。
「それと将来天部になる身として、仏法も学んで欲しいと、妙光如来様がおっしゃっていました」
「……それも時間があるなら」
「十分にありますよ」
また後ろから声がしたので振り向くと、巨大な足の指が見えた。
びっくりして瞬きをすると、その一瞬で巨大な指が消えて、人間の大きさの妙光如来様がそこにいた。
「また会いましたね。秀一。琴音。そしてよく来た。狐よ」
「わ、我は……狐鈴と申す……」
狐鈴はガクガクと震え、膝をつきそうになっていた。顔も上げられない様子で下を向いていた。こんな狐鈴は初めて見た。
「よい。ここでは膝をつく必要はない」
「う、うむ」
「狐鈴よ。白焔稲荷尊には話をつけています。ここで秀一達と修行をすることを許可しましょう」
「我は神道に身を置く……いえ、未だ多くの穢れをこの身に宿しておる。恐れ多くてこの場におれぬ……」
「もとよりここは、穢れを禊する場所。ここも浄土世界ではあるが、あの門より先が真の浄土世界。そもそも秀一も琴音もお主も、あの門より先に進めぬ。ここでその穢れを落とすとよい。さすれば神位も上がりやすくなろう」
「ご厚意感謝する。しかし……なぜ我を?」
「アリサは私の庇護下にある。そのアリサの為にお前は涙を流した。それを嬉しくおもったのですよ」
「アリサは我の大切な友。改めてお礼を申し上げる」
「その礼、受け取った。アリサは既にこちらに呼んである。友に負けたくはあるまい」
「精進いたします」
狐鈴は若干ふてぶてしい仕草が残っていたが、最後は綺麗に礼をした。
「では励め」
妙光如来様はそう言うとスゥっと消えていった。
浄土世界の外周は様々な場所があったけど、観光する余裕も時間もなかった。
「この辺りは現世と時間の流れが違います。歳も取ることはないのですが、余り長くいると精神と肉体にズレが生じるので、修行は程々にしましょう」
「わかった。アリサもここにいるのか?」
「ええ。浄松林の先。蓮華講堂の中で説法を聞いていますよ」
式神達に連れられて、黄金に輝く松林を抜けると、白い講堂が見えてきた。
講堂とは僧侶が集まり、お経の勉強をしたり、教えを説く場所だ。
朱色の柱や壁でできた建物の中に入ると、オレンジ色の作務衣――お寺の掃除や作業の時に、お坊さんの弟子が着ているような服――を着たアリサがいた。
エプロンをつけたら、旅館や茶屋の従業員にも見えるな。
「あら。遅かったじゃない」




