第169話 デーモンとの交渉後半
「ん~四十点」
師匠は微妙な顔をしていた。
「お前の中途半端さに、俺様ガッカリだわ」
「……どこがだめでしたか?」
「この都市は魔法も術も使えない。外からの魔法も結界で防いじまう。だがよ、機動式神の物理攻撃で一掃できるんだわ。ここにいる奴は享楽之神の敵だろ。さっき案内妖精に聞いたらよ。機動式神の使用許可があっさり下りた。いつでも皆殺しにできる。ゲートの全開放モードは、王国軍のやつに聞いたらわかるだろ。なんなら聞きに戻ってから皆殺しにするもよしだ」
「そんな! 式神らしき者もいます! いきなり皆殺しは……」
「あ~カルミラちゃんね。他にも二体いただろ。そいつらだけ生かしておけばいい。調伏すれば記憶が戻るんだろ」
「今の記憶が残る場合もあります。そうなればしこりが残るかもしれません」
「あめぇなぁ。式神は式神だろ。陰陽師と式神の関係を履き違えてねぇか?」
「俺は俺のやり方が正しいと思ってます」
「言うじゃねぇか。まぁ式神のことはもう何も言わねぇ。だがデーモンは別だ。奴らは人間に殺されて初めて輪廻転生の輪に戻れる。ここで過酷な生活を送り続けるのなら、輪廻転生の輪に戻してやるのが、俺達の陰陽師の仕事じゃねぇの? 妙に人間クセェところ見せられて同情するとか初心者かよ。いくら高校生だからって、いい加減初心者面すんじゃねぇぞ。お前、陰陽師何年目だ?」
俺は何も言い返せなかった。
「まぁ、今回はお前に任せたんだから仕方ねぇ。術も魔法も使えねぇなら、俺様と真田は一旦ギルドに戻って、通販で食物の種と肥料を買い込んでくる。肉だけ渡したんじゃもって数カ月だろ。それからまた飢えの始まりだ。耐えられんのか?」
「それは俺も考えました。今後のことを考えるにしても、まずは今の飢えをしのがないと」
「一時しのぎだとしても、提案と交渉ができたことは褒めてやる。後の尻ぬぐいは俺様達がするから、無駄にならねぇように立ち回れ。もし失敗したら、真田と御影の機動式神で蹂躙する。真田、御影、それでいいな」
「いいですよ。少し後味悪いけど、俺も概ね賛成」
「私も賛成です。私はここに残って、最悪の事態にならないようにするのでいいかしら?」
「あぁ。そうだな。御影は秀一を助けてやれ」
「沖田さんも甘いですね」
「厳しすぎると月華様が怖ぇからな。お前、月華様に感謝しろよ」
「……わかりました」
「あ、肉だが……俺様のアイテムボックスには一つもねえよ。こまめに売ってるからな。真田はどうだ?」
「俺も少しはあるな。御影はまだ残ってる?」
「私も少しね」
「狐鈴はある?」
俺も狐鈴に聞いてみた。
「我も秀一と同じくらいある。まずはそれでいいじゃろう」
「そうだ。一つ案内妖精に確認することがある。おい」
師匠がふと思い出したのか、案内妖精を呼び出した。
「……なんでしょう?」
「魔王を倒したら、俺達は元の世界へ戻れるんだよな?」
「はい。そうなります」
「魔王を倒したその瞬間、遠く離れている奴がいても、そいつも戻れるよな?」
「はい戻れます。魔王城へ乗り込むのなら、帰りの心配はいりませんよ」
「沖田さん。倒しきれず撤退する可能性もありますよ」
真田さんが片手を上げて言った。
「まぁそうだな。おい。案内妖精。魔王を倒したタイミングで、いらねぇアイテムをデーモンの町へ届けることはできるか?」
「えぇ。それくらいならやっておきましょう」
「なら、真田達や残りの奴らの肉、種と肥料は成功報酬だ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
後半の会議が始まった。
「ゲートの開放をしよう。開放期間は食料次第だ」
デーモンの代表は、会議の前半より口調が柔らかくなった気がした。
話し合いで意見がまとまった成果かな?
「こちらも成功報酬を出す。追加の肉だけではなく、食物の種と肥料だ」
「な、なんと……」
「俺達が無事戻ってこれたら渡そう」
向こうにとって予想外の上乗せだったのか、さらにホッとした顔になった。これなら話を上手く進められそうだ。
「……わかった。それならば無期限でいい。ただし防衛できないと判断したらゲートは閉じる」
こっちが何を言いたいのか、理解してくれたようで助かった。
条件があるが、防衛できないほど攻め込まれた状況なら、俺達も撤退しているだろう。
「それで構わない」
「ちょっとまった!」
これで終わるかと思ったら、別のデーモンが口を開いた。
ずっと俺を睨みつけていた奴だ。
気にしないでいようと思っていたが、そうもいかなくなった。
代表のデーモンの顔が不快に歪んだ。
確かゼルガードには三つの組織があると言っていたな。
納得していないデーモンがいたってことか。
「我々には強い者に従うというルールがある。そのルールが適用されなければ、ここにいる者が納得しても、この都市の者が納得しない!」
「あ? どういうことだ? ようはぶち殺せばいいってことか?」
師匠は口では過激なことを言っていても、裏ではちゃんと双方のことを考えていた。
でも今回は裏表なしに少しキレてそうだ。
「なんて野蛮な。これだから人間は……」
「師匠、抑えてください」
「決闘だ。竜の角・竜の牙・竜の爪の代表と戦い勝利しろ! お前達が勝ったら、先ほどの条件でゲートを開放しよう。だが俺達が勝ったら、食料を置いて帰れ」
これはただ要求を飲むだけでは、組織のメンツが立たないってことだな。
交渉でメンツまで潰すようなことはまずい。
それにこの不毛な大地で生きるのに精一杯で、娯楽なんてないのだろう。
メンツを保つためと娯楽の提供。それが向こうの裏の要求だ。
向こうはこちらの条件を飲んだ。ここは飲むのが落としどころか?
それに俺達も配信的に美味しいか……
「決闘のルールと勝利条件は?」
「決闘システムだ。シールドを七割削った者が勝者だ」
俺がキャサリンと戦ったやつだな。
こいつらも使えるのか。しかもシールドまである。
愉悦之神によって進化と恩恵を受けているとしたら、思ったよりやっかいなやつらだ。
「場所と時間は? 魔法が使えないなら近接戦闘のみか?」
「場所はこの都市にあるコロシアム。準備に時間がかかる故、時間は三日後の昼だ。戦闘は魔法なし、スキルはありだ」
やはりこいつらスキルまで使えるんだな。
「武器は鑑定スキルによりレアリティ四までだ」
星四つの武器までってことか。
そうなるとこっちの刀も天焔業刀も使えない。剣で戦うしかないってことか。
「わかった。そっちの要求を飲もう」




