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第168話 デーモンとの交渉前半

 俺達は都市の中央にある大聖堂に通された。

 入ってすぐの礼拝堂を右に曲がり、廊下を進んでいくと、大きな食堂にたどり着いた。

 そこにはデーモンやオーガなど人型のモンスター達が、長いテーブルの片側にずらりと座っていた。

 鑑定スキルを発動させると全員三百以上だ。

 それに今までのデーモン達と違って、全員の顔つきや髪型の区別がつく。

 デーモンが進化していて、人間に近い存在になっているのだろうか?


 俺達を案内してくれたカルミラは、退出するのかと思ったら真ん中に近い席に座った。デーモンの中でも発言力がある奴だったのか。


 師匠はどかっと席に着くと、呪力を全開に解放した。この屋敷、いやこの地域一帯がビリビリと揺れ、息苦しい空気を一瞬だけ作った。

 レベルやスキルなど関係ない。全力の呪力解放だ。呪術として変換できないが、解放された呪力を浴びただけで、師匠の強さがわかるだろう。


「今から全面戦争でもいいが、一応お前達の話を聞いてやる」


 おおいっ! 師匠! いきなりなにしてくれるの!?

 俺に任せるんじゃないの? なにハードル上げちゃってるの!?


 俺は師匠のフォローをしようと、アイテムボックスから食用に使えそうなモンスターの死骸を取り出して、テーブルの上へ置いた。

 アイテムボックスの中だと、時間が経過しないから新鮮な状態だ。

 

「俺達の要求は、この都市にあるアストラルゲートの登録と使用許可だ。それが叶うのなら食料を提供しよう。俺と隣にいる者だけで、アイテムボックスにモンスター百二十体分の肉がある」


 死か食料か。どっちを選ぶか、火を見るよりあきらかだ。


「ずいぶんと攻撃的な交渉をするのだな」


 デーモンロードの一人が口を開いたが、チラチラとモンスターの死骸に目が泳いでいた。

 余程お腹が減っているのか、他のデーモン達もモンスターの死骸に目を奪われていた。


「あ? こっちは皆殺しのつもりで来たんだけど、どうやら文化的に生活をしているようだから、様子見しているだけだ」


 また師匠が余計なことを言った。


「……まぁ待て。俺達は戦う理由がない。それにいくら魔力が高かろうが、この都市で魔法は使えん。どれだけいきがろうとも、魔法使いなど我らの敵ではない」


「じゃあ今から戦争だ」


「師匠!」


「あぁ、わりぃわりぃ。いつもの癖でな」


 師匠……さっきの呪力解放といい、もしかして、俺を追い込むためにわざとやっているのか?

 いや……もしかしたら、相手の情報を引き出すためか?

 デーモンは穏便に済ませたい。そして俺達に負けるとは思っていない。

 ということは、本当に取引がしたいということか。

 

 結城さんをチラっと見たら、頷《うなず》かれた。

 このまま続けろということか……


「俺達とて戦わずに済むのなら、それが最善だと思っている」


「ふん。そっちも若造は話がわかるようだな。不思議なスキルでモンスターの死骸を出したようだが……」


 デーモン達に動揺が走っている。

 アイテムボックス自体、この世界ではレアなスキルで容量も少ない者が多い。

 そもそもデーモンにアイテムボックスがあるのか?

 デーモンからしたら、初めて見るスキルなのかもしれない。

 

 さっきからデーモン達は、俺が出したモンスターの死骸をチラチラと見ている。

 魔族領に入ってから、動物系のモンスターと出会う機会が、どれくらいあったかを思い出してみよう。

 

 まだ人間領に近いところはそれなりにいたが、ムリターヴァナより北側ではほとんど見かけていない。

 ビンスの町は虫と爬虫類のモンスターしかいなかった。

 爬虫類も食べようと思えば食べられそうだな。

 都市の露店に並んでいた肉は、爬虫類モンスターの肉かな?

 

 この都市に住むデーモンやモンスターは、愉悦之神によって様々な感情を与えられたようだけど、土地が土地だけに苦しみの方が大きい気がする。

 ここが地獄だということを改めて思い知らされた。

 そして神も全知全能ではないんだな。

 妙光如来様くらいになると、未来まで見えて浄土水を予め渡してくれてたりしたけれど、享楽之神や愉悦之神はそこまで至っていないってことか。

 

 だからこそ神力を欲しているのか。

 

 様々な事情はあれど、デーモン達の視線は食料に釘付けだ。

 肉の提供だけでは一時しのぎにしかならないが、まず飢えをしのがなければ先がない。

 

「俺達と戦うか、それとも食料を得るためにゲートを解放するか? どちらだ?」


「アストラルゲートを使用してどうする? ここからゴルドーラへゲートに繋げと? それは無理な話だ。我々は反魔王派だ。魔王城がある都市、いや、どの都市とも繋がりを絶つために、アストラルゲートは封印してある」


 ゴルドーラって魔王城がある都市の名前だったよな。

 ゲートには誰でも転移させる全開放モードと、両ゲートに登録している者だけを転移させる限定モードがある。

 こっちに来たばかりのころは、転移先のゲートに登録されたネックレスを買ったな。

 

「ゴルドーラのゲートに登録されたアイテムはないのか?」


「そんなものはない」


 という事は全開放モードしかないか。

 そういえば、魔王軍やデーモン軍団が攻めてきた時も全開放モードで動いていたな。

 話している様子からすると、ゲート自体はゴルドーラとつながっているのか。


「数日間ゴルドーラとつないで欲しい。その間ゲートは俺達で守る」


「少し時間をくれ。我々の間で話し合いたい」


「わかった」


 デーモン達はぞろぞろと食堂を出て行った。

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